ヘグセス国防長官との「米軍式トレーニング」も話題となった、小泉進次郎防衛相による1月の初訪米。小泉氏は今回、約1週間の日程の中で米国の防衛関連企業3社を訪問した。そのうちの1社が、設立わずか3年目の軍事ドローン企業Neros Technologies(ネロス・テクノロジーズ)だった。
共同創業者は共に20代で、かたや10代でドローンレースの世界選手権で優勝したトップパイロット、もう一方は10代で世界初の片面実装・超軽量フライトコントローラーを独学で設計した技術者。
彼らが最も重視するのは、中国依存を抑えたサプライチェーン。ドローンが戦争のあり方を変える時代にあって、中国だけが自国完結型のドローン生産体制を築いている現状に強い問題意識を持ち、「西側諸国だけで生産体制を構築することが紛争の抑止力になる」と説いている。
小泉氏がネロスを訪問したのも、こうした問題意識と無関係ではなさそうだ。ドローン技術は世界の安全保障をどのように変えるのか。そして、西側諸国の一員として日本に何が求められているのか。共同創業者でCTOのオラフ・ヒチワ(Olaf Hichwa)氏に話を聞いた。
目次
・ドローンレースで幕を開けた起業物語
・ドローン部品調達の「脱中国」にこだわる理由
・小泉防衛相がロサンゼルス本社を視察
・根っからのドローン愛好家、軍事利用への葛藤は?
・ドローン技術は「世界のあり方変え得る」
ドローンレースで幕を開けた起業物語
―経歴と創業のきっかけを教えてください。
共同創業者のソレン・モンロー・アンダーソン(現CEO:Soren Monroe-Anderson)と私は、中学校を卒業した直後のドローンレースを通じて出会いました。
2人とも若い頃から、単に操縦するだけでなく、「どのように飛行しているのか」「どのようにすれば安定して制御できるのか」といった工学的な側面に強い関心を持っていました。最初はレース用ドローンを製作し、操縦技術を高めることに取り組んでいましたが、次第にドローン技術が安全保障や経済に与える影響の大きさを意識するようになったんです。
「この技術には無限の可能性がある」。そう感じて、ドローンを生涯の仕事にしようと考えるようになりました。2023年に会社を設立したのが、ネロス・テクノロジーズの始まりです。
創業間もない頃、当社はウクライナ前線向けに設計・製造したドローン30機を提供しました。この経験から、現場ユーザーからのフィードバックの重要性を実感したとともに、防衛システム領域においては、「安価に、かつ大量に生産できる」体制が不可欠であることを学べたことは大きかったです。
ドローン部品調達の「脱中国」にこだわる理由
―御社のドローンの性能面や生産体制について教えてください。
当社は創業から3年余りですが、現在ではアメリカ最大規模のFPVドローン*メーカーへと成長しました。「Archer(アーチャー)」などの大量生産型FPVドローンを主力としています。
こうした性能面も去ることながら、最も重視しているのがサプライチェーンです。とりわけ、ドローンの「頭脳」にあたるフライトコンピューターについては、中国製のシリコン部品を一切使用していません。
シリコン部品は、日本企業を含むアジア諸国と提携して製造し、それをアメリカ製のプリント基板に実装してドローンを組み立てています。将来的には、同盟国において組み立てを行える体制を整えることも視野に入れています。
ドローンを構成するパーツの中で、私の一番のお気に入りは独自開発した「マザーボード」です。私たちはこれを「ドローン・オン・ア・ボード」と呼んでいます。この基盤には、頭脳にあたるフライトコンピューター(制御・演算)、筋肉にあたるモータードライバー(駆動)、そして無線通信機能が統合されています。ドローンの中枢機能を1枚に集約することで、量産性と信頼性の両立を図りました。
Image : Neros Technologies FPVドローン「Archer」
―現在、世界のドローン市場は中国製が圧倒的シェアを占めていますよね。
その通りです。中国が何千万機ものドローンを製造する一方で、アメリカの生産量は数万機規模にどどまっています。
中国には、ドローンを生産するための産業基盤がほぼすべて揃っています。例えば、モーターを製造するための磁線、シャフトを削り出すためのCNC加工機、ネオジム磁石やその精錬工程まで。必要なものの多くを自国内で調達することができます。こうした産業集積があるからこそ、中国は大量生産を前提とした体制を構築できるのです。
一方で、西側諸国には同様の産業基盤が十分に整っていません。私達は、この課題がアメリカだけではなく、西側諸国全体の安全保障に関わる深刻な問題だと考えています。「信頼できる抑止力」を持つためには、有事の際でも生産を継続できる産業基盤を同盟国の中に構築する必要があります。
信頼できる抑止力とは、「侵略された場合でも、自国でドローンを生産し続けられる体制を持っていること」です。敵対国に対して、「侵略しても意味がない。部品の供給を止められても生産を続けられる」と示せることが、侵略を思いとどまらせる力になります。自国で製造できるという事実そのものが、防衛力の一部になるのです。
Image : Neros Technologies
―世界各地での導入実績を教えてください。
2025年には世界で約1万機のドローンを納入し、そのうち6,000台はウクライナに提供しました。
当社はキーウに拠点を構え、定期的にサポートチームを派遣しています。戦地の最前線に赴き、実際の戦闘での運用状況を確認し、操縦者から直接フィードバックを受け取ります。その声を開発チームに持ち帰り、製品改良に反映させているのです。現場主義で改良を重ねることで、実戦で本当に使えるドローンを作り続けています。
アメリカ国内では海兵隊や陸軍で運用されていますし、イギリス、シンガポールなどでも導入実績があります。
小泉防衛相がロサンゼルス本社を視察
―2026年1月に小泉防衛相が御社を視察されました。
会社にとって大変名誉な出来事でした。工場見学の後、当社所属のドローンレース世界チャンピオンによるデモ飛行を行いました。小泉防衛相は加速性能にとても驚いた様子で、感嘆されていました。
また、小泉防衛相は製品仕様や生産プロセスについて詳細に質問され、中国に依存しないサプライチェーンの重要性について強い関心を示されました。さらに、組み立て工程の自動化や、日本企業と連携した製造の可能性についても意見交換しました。
小泉防衛相の視察は、当社のドローン技術をより多くの方に知っていただくきっかけになりましたし、ドローン産業が安全保障に与える影響について、あらためて世界に問題提起することになったと思います。
Image:防衛省 アンダーソンCEO㊧と意見交換する小泉防衛相
―沖縄での日米合同訓練では、実弾を用いたデモンストレーションが行われたそうですね。
2025年12月、沖縄で米海兵隊と陸上自衛隊による合同訓練キャンプが実施されました。第3海兵師団の隊員らが参加し、当社製品のアーチャーによる実弾を用いた爆破デモンストレーションが行われました。
日本市場向けに施した改良型の実証も含め、日本とのパートナーシップの重要性を示す大きなステップになったと考えています。
Image : Neros Technologies 「Archer」が現場に展開されている様子
根っからのドローン愛好家、軍事利用への葛藤は?
―軍事利用への葛藤や苦悩はありますか?
葛藤がないと言えば嘘になります。しかし、西側諸国のドローン生産能力を強化することは、結果として紛争を防ぐ抑止力になり、未来の世界平和に繋がっていくと心から信じて仕事をしています。
私は、人類史上最も平和な時代に生まれました。そして、アメリカが第2次世界大戦後の世界で築いた素晴らしい同盟関係のおかげで、平和という究極の贅沢を享受してきました。しかし、この平和が、我々が敵から攻撃を受けることに対して鈍感になるという事実を作り出していることも確かです。
戦争は国際関係や安全保障上の緊張や世界経済全体の混乱を引き起こします。私は、西側諸国が抑止力を高めなければ、人類史上最も平和な時代を長く楽しむことができないかもしれないと憂慮しています。
将来の紛争を避け、西側諸国の優位性を保証するためにも、私たちが先頭に立ってドローン生産能力の向上や安定的なサプライチェーンの構築のために力を尽くしていきたいと考えています。
Image : Neros Technologies 遠隔運用時の通信安定性を重視した地上管制システム「Crossbow」
ドローン技術は「世界のあり方変え得る」
―今後、ドローン技術は社会や産業にどのような影響を与えると考えていますか。
中国が貧しい農業国からハイテク国家へ成長した背景には、大規模な技術開発があります。私は西側諸国も同様に、製造技術を再構築する必要があると考えています。
現在、当社のドローンは軍事用途が中心ですが、いずれは非軍事分野にも事業を広げたいと考えています。写真や動画の撮影はもちろんのこと、荷物の配達や人命救助など、幅広い用途が考えられます。
ドローン技術は、世界のあり方を変える可能性を持つ技術です。
次の世代の人々は、今は想像もできないような新しいドローン技術を生み出していくでしょう。日本を含む西側諸国は、こうした技術構築が私たちの将来にどれだけ大きな影響を与えるかについて、理解を深めていく必要があります。
当社にとって、日本市場は間違いなく重要な存在です。今後は、日本の産業界とさらに強力なパートナーシップを築いていきたいと考えています。弊社に関心を寄せてくださる日本企業の方は、ぜひいつでもお気軽にご連絡ください。