企業の生成AI導入プロジェクトの95%が、有意義な財務成果を生み出せていない――。こんな調査結果*もあるが、問題の本質はAIツールの「性能」ではなさそうだ。
業界固有のルール、部門ごとに分断された社内データ、未整備のAIガバナンス、そして「仕事が奪われるのではないか」という現場の心理的な抵抗感。こういった組織側の課題こそが、AI活用のボトルネックになっているケースは多いという。
Allganize(オルガナイズ)は、こうした「AIが使われない構造」そのものを変えることに挑んできた企業だ。生成AIとAIエージェントを業務フローに組み込み、現場で成果を出すための実装プラットフォーム「Alli LLM App Market」は、大企業の痒い所に手が届く製品設計も相まって、これまでに300社以上の導入実績を誇る。
創業の背景から、企業のAI活用の現実解、そしてグローバル戦略まで。オルガナイズが描く「AIが働く職場」の姿を、共同創業者で日本法人CEOの佐藤康雄氏に聞いた。
*MIT report: 95% of generative AI pilots at companies are failing目次
・AIモデル開発と決別、「実装環境」に戦略転換
・大企業の心を掴む「料金体系」と「提供形態」
・AI開発の技術力活かした共同開発の事例
・金融・通信・製造などの専門性強化へ
・「企業経営にAI」はもはや世界の常識
AIモデル開発と決別、「実装環境」に戦略転換
―創業の経緯について教えてください。
Allganize(オルガナイズ)は、2017年にサンフランシスコで共同創業しました。共同創業者の1人で、現在Allganize HoldingsのCEOを務めるイ・チャンスと私は、以前、アプリ向けグロースハック領域のスタートアップを立ち上げ、2014年に米国企業へ売却しています。
その売却直前のタイミングで、AIによる予測モデルの開発に取り組み、強い可能性を感じました。ただ当時は、AIの学習データ量やハードウェアの性能、モデル自体の成熟度がいずれも十分とは言えず、スタートアップとしてAI事業にフルコミットする判断には踏み切れませんでした。
しかし、2017年に入るとデータ量や計算資源、技術水準が大きく向上し、「AIを活用したソリューションで勝負できる」と判断できる環境が整いました。そこで、オルガナイズを創業しました。
―現在のビジネスモデルへ転換したきっかけは何ですか。
創業当初は、自社開発の自然言語理解(NLP)技術を中核としたサービスを提供していました。転換の大きな契機となったのが、OpenAIをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の急速な進化です。
私たち自身もLLMを提供できますが、ビッグテック各社が兆単位の投資を行い開発競争を繰り広げる中で、AIモデルそのものの開発にリソースを割くよりも、顧客企業が実際に成果を出せる「実装環境」を提供することに注力すべきだと考えました。これが、現在のプラットフォーム戦略です。
現在、当社が提供するのは生成AIアプリ・AIエージェントを備えた「Alli LLM App Market」というオールインワン・プラットフォームです。OpenAIの「ChatGPT」、マイクロソフトの「Azure AI」、グーグルの「Gemini」、アンソロピックの「Claude」など、複数のLLMを横断的に利用できる設計になっていて、必要に応じて顧客企業専用のLLMを統合することも可能です。
一方で、自社開発のAI技術もこのプラットフォームに生かされています。創業以来開発を続けてきた独自の自然言語処理AIは高い精度を持ち、現在はLLMと連携して活用されています。LLMをマルチに活用しつつ、業務品質を自社技術で底上げする――それが私たちの役割分担です。
私自身がコロナ禍を機に日本を拠点としてビジネスを推進したこともあり、日本事業は想定以上に成長しました。その結果、2022年には本社機能をサンフランシスコから日本へ移転しています。
その後、2023年9月に「Alli LLM App Market」の提供を開始し、同年12月にはシリーズBラウンドで資金調達を実施しました。現在は、同プラットフォームを軸に、日本・米国・韓国の三拠点で事業を展開しています。地域別売上構成は、日本が5割強、韓国が3割強、残りが米国という割合です。
大企業の心を掴む「料金体系」と「提供形態」
―Alli LLM App Marketの機能と特徴について教えてください。
Alli LLM App Marketには、初期状態から100以上の生成AIアプリ・AIエージェントを備えており、導入初日から業務に活用できます。
ノーコードのビルダー機能も搭載しており、プロンプト設計の巧拙に左右されることなく、現場の担当者がドラッグ&ドロップや項目選択を行うだけで、業務に最適化されたAIアプリやAIエージェントを構築できます。
対応するデータ形式はテキストにとどまらず、画像や音声にも対応しています。例えば、現場写真を用いた危険予知チェックや、音声データからの記録作成・インサイト抽出など、幅広い現場業務をカバーします。
また、社内データと連携した高精度なRAG(検索拡張生成)機能も特徴です。「先月入社した社員の有給残数は?」といった問いに対して、社内情報に基づいた根拠付きの回答を返します。RAGに関連する独自技術は特許申請中であり、実務で使える精度の高さが評価されています。
―国内市場で高いシェアを獲得している要因はどこにあるのでしょうか。
AI領域への投資は大企業が先行しており、当社としても大企業での導入実績が次の導入につながりやすいことから、戦略的に大企業向けのコミュニケーションに注力しています。
大企業での導入事例が多い理由の1つが、料金体系です。他社のAIサービスでは、利用アカウント単位での課金が一般的ですが、Alli LLM App Marketでは利用量に応じた従量課金制を採用しています。ユーザー数が多い企業でも導入しやすい点が特徴です。
また、提供形態はSaaSを基本としつつ、同等の機能をプライベートクラウドやオンプレミス環境にもスムーズに展開できます。機密データや厳格なセキュリティ要件が求められる環境でも、使い勝手を変えることなく導入できる点が強みです。こうした特性が、セキュリティリスクへの配慮が重視される日本の大企業との相性の良さにつながっています。
その結果、ローコード・ノーコードツール領域の国内市場において、シェアナンバー1を獲得しています。
また、導入して終わりではなく、成果が出るところまで伴走するスタンスで顧客企業を支援しています。導入効果としては、「月間100時間以上の業務削減」や、「毎月5,000件にのぼる社内ヘルプデスク対応をAIチャットボットで自動化できた」といった成果が報告されています。
AI開発の技術力活かした共同開発の事例
―国内企業との提携の意向や、重視する提携形態について聞かせてください。
現時点で優先度が高いのは、技術提携と販売提携です。シリーズBでの資金調達も完了し、事業から生まれるキャッシュで自走できる状況にあるため、資本提携の優先度は高くありません。
技術面では、自社でAIを開発する力を持っているほか、自然言語処理の研究を背景に、データの扱いに強みがあります。こうした技術を提供しながら、顧客企業のソリューションを共同で開発する形をはじめ、さまざまな技術的な組み合わせを検討しています。
具体例の1つが、GMOペイメントゲートウェイのオンライン決済インフラ「fincode byGMO」と、自社専用AIエージェントをノーコードで構築できる「Agent Builder」との連携です。MCP(Model Context Protocol)を介して、当社のAIエージェントと決済基盤を接続し、決済関連業務の自動化や高速化を実現します。
このように、先端のエージェント技術とパートナー企業の技術資産を組み合わせ、エンドユーザーに提供する協業の枠組みは、さまざまな領域で進んでいます。
販売代理店的なパートナーシップについても、多くの企業から打診を受けており、今後さらに強化していく方針です。技術面での連携と、拡販につながる提携の両面について、私自身も力を入れて取り組んでいます。
金融・通信・製造などの専門性強化へ
―成長戦略について教えてください。
現在、当社サービスの導入企業は300社を超えています。さまざまな業種の大企業を中心に、自治体での導入実績もあり、足元でも採用は着実に増えています。
今後は、直近に計画しているIPOを通じて、より高い信用力とプレゼンスを獲得したうえで、導入障壁の低いSaaS型と、数千万円から数億円規模となるオンプレミス型のプロジェクトを両軸とし、成長を図っていきます。
私たちのプラットフォームの強みの1つは、「汎用性」の高さです。100を超える生成AIアプリやAIエージェントを、選ぶだけですぐに利用でき、ノーコードのビルダー機能によって社内の誰でも拡張できます。プロンプトスキルに依存せず成果を出せる設計のため、全社的な活用を一気に進められます。
一方で、AIエージェントを実務を任せられるレベルまで高めるには、「専門性」が欠かせません。業務フローやデータ・ガバナンス、コンプライアンスなど、各業界の要件に深く適合させる必要があります。
そのため、金融・通信・製造といった重点領域については、業界特化型のパッケージやエージェントを強化する方向で取り組みを進めています。
image : Allganize Alli LLM App Market
「企業経営にAI」はもはや世界の常識
―グローバル展開に向けて、重要視している地域や国はありますか?
米パランティア・テクノロジーズをはじめ、競争力の高いプレイヤーが集まる米国市場での経験に加え、日本市場と韓国市場で積み上げてきた実績を基盤として、今後は中国、インド、東南アジアを含む、より広いアジア圏へも拠点を広げていく考えです。
既存の展開地域とは異なる点や難しさもあり、実際に現地に入り込まなければ理解できないことも多くあります。ただ、アジア各国におけるAI活用へのモチベーションは非常に高いと感じています。
普及のスピードは各国の政策の影響を大きく受けるものの、どの国の経営者も「企業経営にAIは不可欠」という意識を持っており、AI活用はすでにグローバルなトレンドとなっています。
―IPO後のマイルストーンについて教えてください。
スタートアップの立ち上げ時は会社名もソリューションも、誰にも知られていない状態です。特にBtoBのビジネスは、広告を出して認知度を上げれば売れるというものでもありません。創業時は、創業メンバーの個人的な信用や人的ネットワークで広げるところから始まりました。企業の規模や価値を次の段階へスケールアップするためには、個人の信用を超えて、企業としての、またソリューション自体への信用が必要不可欠だと強く感じています。
大規模なディールを積み重ねていくためにも、IPOを1つの通過点として、信用と存在感を積み上げ、事業をさらにスケールさせる環境を作るのが目の前の目標です。中長期的には、創業時に掲げたミッションである「AIで、すべてのビジネスワークフローを自動化する」を、本気で実現するべく、グローバルでの顧客獲得をさらに進めていきます。
―最後に、これからのAIの役割や使い方についてのビジョンを聞かせてください。
現状、AIはツールという位置づけで認識されていると感じています。しかし、AIが進化すれば人に任せるのと同じように、チームメンバーの1人としてAIが導入される世界がやってくるでしょう。すると人間は、人だからこそできる仕事に、よりリソースを割けるようになるはずです。AIにできることはAIに任せ、人は人にしかできない設計や意思決定、価値創造に集中することで、個人・企業・そして国の競争力を底上げできると考えています。
image : Allganize Japan HP