「外出先から自宅の暖房を操作できたら」。今となっては目新しくもない技術だが、まだIoTの概念も広まっていなかった2010年代前半にそうしたアイデアを掲げ、暖房機器メーカーとしてIoTを活用した空調制御プラットフォ-ムを他社に先駆けて展開してきたのがドイツ・ミュンヘンに本社を構えるtado°(タド)だ。専用アプリを通じた冷暖房制御によって家庭のエネルギー消費を最適化できるのはもちろん、電力の変動料金制を選択できるため光熱費の削減も実現できる。環境意識の高い欧州市場で、省エネと省コストの両方を叶える企業として注目されている。今年3月にはパナソニックとの資本業務提携も発表した、同社の共同創業者でCEOのヨハネス・シュワルツ(Johannes Schwarz)氏に話を聞いた。

目次
「暖房つけっぱなし」への問題意識が創業のきっかけ
「スマートサーモスタット」の最大の特徴は?
パナソニックと今年3月に資本業務提携
ビジネス成長だけじゃない、「三方よし」の経営哲学

「暖房つけっぱなし」への問題意識が創業のきっかけ

―経歴と創業の契機について教えてください。

 私はドイツ・ミュンヘンで生まれ育ち、大学では制御システム工学を専攻しました。卒業後は弁理士としてキャリアをスタートしました。特許の仕事は新しい発明に触れられる点で大変興味深いものでしたが、他の人が発明した技術を保護する仕事よりも、「自分で製品を開発し、世の中に価値を提供したい」という思いが常にどこかにありました。

 そんな時、大学時代に一緒に小さな会社を立ち上げたこともある旧友に再会しました。彼は「留守中の冷房や暖房のつけっぱなしによるエネルギーの無駄が非常に多い」という問題を話してくれました。そこで私たちは、その問題を解決できるような開発ができないかと考え始め、スマートフォンを使って家庭の冷房・暖房を自動制御し、無駄なエネルギー消費を抑える仕組みをつくれば、人々の生活をより良くできるのではないかと考えるようになったのです。これが、2011年のことでした。

―スマートフォンを利用してコントロールするというアイデア自体が、当時は珍しかったのではないですか?

 実に革新的なアイディアでした。当時のスマートフォンの普及率はまだ約30%程度で、家庭のデバイスをインターネットにつなぎ制御する「IoT」という概念も一般的ではありませんでした。しかし私たちは、「これは社会に必ず受け入れられる」と確信し、すぐに仕事を辞め、共同で会社を設立しました。それが2011年、タドの始まりです。

Johannes Schwarz
Co-Founder & CEO
ドイツ生まれ。ドイツのミュンヘン工科大学(TUM)で制御システム工学と情報技術の学位を取得したほか、米バージニア州立工科大学で航空宇宙工学を学ぶ。知的財産法律事務所で弁理士として研修を受け、さまざまなエンタープライズ ソフトウエア開発プロジェクトでフリーランスのITコンサルタントとして働いた経歴を持つ。2011 年にtado°を設立。CTOを務めた後、2023年にCEOに就任。現職。

「スマートサーモスタット」の最大の特徴は?

―御社の製品について教えてください。

 当社は、家庭の暖房(および地域によっては冷房)をインターネットに接続し、スマートフォンと連動して最適に制御する「スマートサーモスタット」を中心に製造・販売をしています。スマートフォンのアプリを通じて外出先から温度を調整できるだけでなく、位置情報などを活用して在宅・外出を自動判定し、エネルギー消費を最適化するソリューションです。

 最大の特徴は、欧州の暖房システムの大半に対応できる高い互換性と、ユーザー自身で簡単に取り付けられる手軽さにあります。その利便性と品質が評価され、現在では顧客数100万世帯を突破し、接続デバイス数は500万台を超えています。

 また、創業当初は住宅全体の一括制御のみでしたが、現在は部屋ごとの個別制御が可能になり、より快適で効率的な暖房管理を実現しています。製品の販売チャネルは主にオンラインで、公式サイトに加えてアマゾンをはじめとする多数のオンライン販売店を通じて提供しています。

 類似製品と比較して、市場で最安値の製品ではありませんが、その価格に見合う優れた品質であると自負しています。創業以来14年以上にわたる経験とデータ蓄積により、競合他社にはない高度なノウハウを培ってきました。

image : tado° tado°モバイルアプリ

―エネルギーを削減するだけでなく、コスト削減も実現されたと聞きました。

 その通りです。私たちは、2022年にオーストリアのaWATTar(アワッター)という、時間帯によって電気料金が変動する「ダイナミック電力料金」を提供する電力会社を買収しました。

 これによりユーザーは、電気料金が時間ごとに変わる「変動料金制(ダイナミック・タリフ)」を選択できるようになりました。当社のシステムは、電力価格が安い時間帯に暖房や冷房(特にヒートポンプ)の稼働を自動的にシフトさせるため、エネルギー消費量の削減に加えて、電気料金そのものも大幅に抑えることが可能になります。

―製品のアップデートや改善も頻繁に行われるのでしょうか。

 はい。私たちは常にアプリの改善に取り組んでいて、ほぼ2週間ごとに新機能の追加やUXの改善を行っています。当社製品はIoTデバイスであるため、リモートでのアップデート提供が可能で、これも大きな強みです。

 製品改善では、ユーザーからのフィードバックも重要な役割を果たしています。ありがたいことに、当社アプリに対するレビューや、アマゾンの商品レビューでは高評価をいただいており、私たちは、常に顧客の「生の声」を集め、より使いやすくなるように高頻度で改善を重ねています。

―最近の一番オススメ機能を教えてください。

 9月末に、新サービス「AIアシスト(AI Assist)」をローンチしました。

 これは創業以来、約15年にわたって蓄積してきた「冷暖房データ」(使用データや利用パターンなど)を機械学習モデルで分析し、「帰宅予測」や「外出判定」などの精度を向上させることで、より快適かつ効率的な温度管理を実現する機能です。「AIアシスト」なしの当社サービスを使用する場合と比較して、最大55%ものコスト削減を実現しています。

 また、最近の顧客調査では、AIを活用した機能への関心が非常に高いことが分かっています。「AI アシスト」による快適性の向上とエネルギー最適化は、多くのユーザーが求める方向性に合致していると言えるでしょう。

imege : tado° 「Smart Radiator Thermostat X」スターターキット

パナソニックと今年3月に資本業務提携

―パナソニックとの業務提携について教えてください。

 当社は今年3月に、パナソニック(空質空調社)から3,000万ユーロの出資を受け、資本業務提携を締結しました。

 欧州ではその地域柄、エアコンより暖房の需要が圧倒的に大きく、多くの家庭で化石燃料を使用したガスボイラーでの暖房が広く浸透していました。しかし、CO2排出量削減の観点から、近年はガスによる暖房から電気を用いたヒートポンプ暖房へのシフトが急速に進んでいます。

 ヒートポンプであれば、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーをより有効に活用できるようになります。パナソニックは、欧州で実際に製造・販売されている「アクエリア(Aquarea)」という非常に優れたヒートポンプ式温水給湯暖房機(Air-to-Water)を展開しており、その技術力は欧州市場でも高い評価を受けています。

 今回の提携により、パナソニックのヒートポンプ製品と当社のスマート制御技術を組み合わせることで、より高効率で低環境負荷の暖房体験を実現する新たなスタンダードを確立していく計画です。今後は共同開発も含め、欧州市場に根ざした形で協業をさらに強化していきます。

image : パナソニックホールディングス パナソニックとタドの契約締結の様子。パナソニック空質空調社副社長兼HVAC欧州事業部長の小松原宏氏㊨と、タドの共同創業者でCPOのクリスティアン・ダイルマン(Christian Deilmann)氏

ビジネス成長だけじゃない、「三方よし」の経営哲学

―経営者として大切にしている哲学を教えてください。

 私が大切にしているのは「三方よし」の考え方です。

 私は、会社を成長させることそのものが目的なのではなく、人々の暮らしをより豊かにする製品をつくれることに大きな喜びを感じています。また、地球規模の課題に技術を通じて向き合えることに誇りを持っています。

 現在、地球温暖化は深刻な段階にあり、世界各地で生態系が破壊されています。経済活動と環境保全を両立し、唯一の地球を守っていくことは、すべての企業に求められる責務です。建物の冷暖房には、世界全体のエネルギーの約3分の1が使われていると言われています。その消費を削減し効率化することは、国や企業の垣根を越えて取り組むべき喫緊の課題です。

 これからも、この分野における欧州市場のリーダー的存在として、脱炭素社会の実現に貢献する企業であり続けたいです。

―インタビューを読んでいる日本企業へメッセージはありますか。

 パナソニックとの協業をきっかけに、日本企業が持つ技術の高さに改めて驚かされました。欧州市場では、ガス依存を減らすためにヒートポンプの需要が年々高まっており、その重要性は今後さらに増していきます。

 私たちは、優れた技術やノウハウを持つ日本企業と、今後もさまざまな形で協業できることを期待しています。当社の事業にご関心のある企業の方は、ぜひお気軽にご連絡いただければ幸いです。



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