目次
・ミツバチは農業の「インフラ」
・ミツバチを脅かす「4大厄災」を一気に解決
・ビーホーム導入企業の解約はゼロ件
・ミツバチ文化のある日本への進出を熱望
ミツバチは農業の「インフラ」
―Beewiseはミツバチを救うスタートアップとして知られています。そもそも、なぜ人類にとって重要なのでしょうか。
ミツバチによる受粉は、農業にとって欠かせない「インフラ」です。地球上の野菜や果物の約75%がミツバチの受粉によって育ちます。トマトやキュウリ、アボカド、アーモンドなど、私達の食卓を彩る食材はミツバチなしで食べられないのです。
この受粉は、自然界に生息する野生のミツバチだけでなく、養蜂家が管理する商業用のミツバチによっても支えられています。養蜂家は何百万匹ものミツバチを畑に運び込み、人工的に受粉を助けています。
ところが近年、ミツバチは絶滅の危機に瀕しています。主な原因は「気候変動」「農薬」「餌不足」「寄生虫」の4つです。
異常気象によってコロニー(群れ)の崩壊に拍車がかかっていますし、農薬散布後には数十万匹が一度に死滅することもあります。さらに、ミツバチの飛行距離は限られているため、単一作物が広がる近代農業では多様な食物源を得られず、餌の多様性が奪われ、栄養失調や餓死が発生しています。加えて、世界各地で猛威を振るうミツバチへギイタダニという寄生虫も、コロニーの大量死を引き起こしています。
このような外的要因によって、世界では毎年約40%のミツバチのコロニーが失われていると言われています。今のペースが続けば、20年後にはミツバチが地球上から消える可能性があります。これは農業にとって深刻な事態です。ミツバチは水や肥料、灌漑設備、農機と並ぶ農業において不可欠な「インフラ」であり、その喪失は作物生産そのものを揺るがすからです。
このようにミツバチにとって過酷な状況のなか、人間の介入がなければ99%のコロニーが1年で死滅するとされています。ところが、現在は養蜂家の数も減っていますし、伝統的な木箱を用いた養蜂は経済的に持続しにくい状況にあります。

ミツバチを脅かす「4大厄災」を一気に解決
―そうした状況の中、ビーワイズはどのようにしてミツバチを救おうとしているのでしょうか。
ビーワイズは、先ほどお伝えしたミツバチを脅かす4つの要因「気候変動」「農薬」「餌不足」「寄生虫」を一気に解決するため、AI・センサー・カメラ・ロボットを統合した次世代型養蜂箱「ビーホーム(Beehome)」を開発しました。
ビーホームは断熱性の高い構造を採用し、外気温の影響を最小限に抑えています。内部のセンサーは湿度と温度をリアルタイムに検知し、ミツバチが巣内で適切な体温を維持できるようサポートします。
農薬対策としては、巣箱周辺の農薬をセンサーが検知すると巣箱を自動で閉鎖。農薬は6-8時間で揮発しますので、12時間ほど巣をとじることでミツバチを安全に守ります。
寄生虫対策では、AI搭載カメラが数十万匹のミツバチの動きを個体レベルで解析します。ミツバチへギイタダニの影響で動きが鈍くなったり、異常な行動パターンを示したりした際は、内蔵されたロボットアームが6種類の薬剤から効果的なものを選び、投与します。
また、餌不足に対しては、センサーが重量や温度などのデータから群れの状態を評価し、必要に応じて糖液を補給します。
これらの機能を組み合わせることで、ビーホームはミツバチのコロニーの損失を70%程度抑えています。毎年約40%以上が失われるのが常態化しているなか、損失を10%未満にまで減らせるのは画期的です。養蜂家にとっては、毎年の資産が目減りするリスクを大幅に軽減できることを意味します。
―従来の木製の養蜂箱と比べて、ミツバチにとっての快適性は?
ビーホームに強制的に囲っているわけではなく、ミツバチは巣箱を自由に出入りします。巣が気に入らなければすぐに出て行き、自然の環境に移ってしまうでしょう。ですから、彼らが戻ってくるということは、ビーホームを気に入っている証拠です。
私たちはあらゆるコードの変更やハードウエアの改善について、まずミツバチに「相談」します。実地で試して、ミツバチがそれを気に入れば続けます。気に入らなければ1時間以内に出て行ってしまうので、良くない変更だったことが分かります。常にミツバチとの対話と調整を行い、最適な製品を作っています。内部は木製の巣箱と同じように感じられるよう作られていて、蜂の巣板(ハニカム)もあり、実際にそこで蜂蜜も作られます。人間の手でもロボットでも、彼らには違いはないと考えています。

image : Beewise 「Beehome」
ビーホーム導入企業の解約はゼロ件
―ビーホームの顧客層を教えてください。
顧客層は2つあり、農家や農業法人、それから単純な養蜂市場です。ビーホームには、いわゆる直接的な競合がいません。いまだに世界中の多くの養蜂家が、1850年代に考案された伝統的な木製の巣箱を使い続けているからです。
今では300件以上の農家や農業法人と取引をしていてるほか、シンガポールのオラム(Olam)や米国のドリスコール(Driscoll’s)のような巨大企業も顧客にいます。米国全体のミツバチのコロニーの約10%に当たる約30万のコロニーがビーホームで暮らしています。そして驚くべきことに、ビーホームを導入した企業で解約に至った例は一社もありません。
ビーホームが顧客に支持される理由は、コロニーの損失を抑えられることだけでなく、養蜂にかかる労働生産性を大幅に向上させるからです。例えば、従来の木製の養蜂箱ではミツバチへの負担を避けるため頻繁な内検が難しく、巣箱を開けて状態を確認する作業は人の経験や目視に頼らざるを得ませんでした。給餌や投薬などの日常作業も人力で行う必要がありました。
しかし現代では、養蜂に詳しい人材は希少で、労働力そのものが減っています。先進国の農業現場では養蜂作業を南米や東南アジア諸国から採用しているほどです。こうしたなかで、ビーホームは従来人が担っていた作業の約90%を機械で代替できます。これが、企業がビーホームを手放さない最大の理由といえるでしょう。

image : Beewise 「Beehome」開放時
―創業のきっかけは?
アイデアを発案したのは、共同創業者で養蜂家のエリヤ・ラドジナー(Eliyah Radzyner)です。彼は18年間、毎日ミツバチの世話をしながら巣箱を巡回していました。しかし、そのたびに病気や餌不足によって多くのミツバチが死んでいる現実を目の当たりにし、養蜂箱のあり方を現代版にアップデートする必要があると感じたのです。
養蜂家だった彼は起業のノウハウを持ち合わせていませんでしたが、そこで偶然、私たちは出会いました。私は起業家で、これが6社目の会社でした。アイデアが気に入り、私がビジネスと製品面を担当し、彼が養蜂の専門知識を提供して会社を設立しました。

image : Beewise Beewiseの創業メンバーら
ミツバチ文化のある日本への進出を熱望
―日本市場に進出する考えはありますか。
現在は米国のみで事業を展開していますが、日本への進出を強く希望しています。日本はミツバチ市場としては中規模ですが、非常に重要な市場です。なぜなら、日本の人々は健康的な食べ物の価値を理解していますし、ESGや環境配慮への意識がとても高い国だからです。
日本はビルの屋上に小さな庭があって、そこに養蜂箱があったりもしますよね。日本は文化的にミツバチの重要性を理解していると思います。これはヨーロッパや米国の人々も同じです。そのため、ミツバチや養蜂箱への投資意欲があると考えています。
―具体的に、協業に関心を持っている業界などはありますか。
大きく2つあります。まずは、製造業です。ビーホームには最新のロボット工学が駆使されています。日本の製造業はこの分野で非常に先進的であり、「生きた動物を育てる」という非常に難しい技術を開発した私たちを理解してくれるものと信じます。
次に、受粉作物を扱う大手農業企業です。こうした企業との投資や戦略的提携といった形態を望んでいます。
いずれにせよ、私たちは日本語を話せませんし、協力すべき相手も検討がつかないのが現在の正直な感想です。日本企業の進出へは、あらゆる支援を必要としています。
―協業相手に求めるものは?
そもそも私たちは米国でゼロから1億ドル規模のビジネスに育てるノウハウを持っています。日本でもその手法を横展開したいと考えております。
その上で必要な形態としては投資と合弁事業でしょう。新規市場参入には莫大な費用がかかるため、投資が必須です。私たちは「ちょっとだけやってみよう」という半端な姿勢を歓迎しません。やるなら、徹底的にやりたいと思っています。
特に現地の営業担当者、顧客サービス担当者、アカウント管理者などを配置する必要があります。ビーホームの出荷や製造拠点の確保も必要です。協業の際には、大規模なパートナーシップを求めています。
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