スマートデバイスや自動車ディスプレイの常識を覆し得る、カナダ発のスタートアップが注目を集めている。VueReal(ビューリアル)は、独自開発の「マイクロソリッド・プリンティング(MicroSolid Printing)」技術で、マイクロLEDの量産という「不可能」とされてきた業界の壁を突破。透明ディスプレイ、自己発電型のスマートウォッチ、超薄型・高輝度のテレビ──。これらの革新的な製品を可能にするのが、同社の高度なマイクロ半導体製造技術だ。今回は、創業者兼CEOのReza Chaji氏に話を聞いた。

目次
マイクロLEDは単なる「新しいディスプレイ」じゃない
自動車分野でのマイクロLEDの活用事例
「不可能」だったマイクロLEDの大量生産
日本の自動車市場に大きな関心

マイクロLEDは単なる「新しいディスプレイ」じゃない

―VueRealはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 VueRealはマイクロLED(1辺が100マイクロメートル未満のLED素子)の量産化プラットフォームを開発する企業です。

 なぜマイクロLEDは注目されているのか。最新のスマートウォッチや車載HUD(ヘッドアップディスプレイ)、スマートウォッチなどのデバイスにおいては従来の液晶ディスプレイ、OLED(有機エレクトロミネッセンス)といったディスプレイで「野外では暗い」「消費電力を食いすぎる」という問題が発生しているからです。

 一方、マイクロLEDは無機LED素子で自然に発光するという性質上、消費電力が圧倒的に少ない。また、屋外でも自然に見えるほどの高精細を誇っています。

 マイクロLEDの「統合性」にも注目が集まっています。近年のデバイスにはカメラやセンサー、通信チップ、エッジAIなどさまざまな部品が組み込まれています。ところが、液晶ディスプレイやOLEDには直接これらの部品を集積することができません。多くの場合、センサーやカメラなどは別パーツとしてディスプレイの外に取り付けられています。

 反対に、マイクロLEDは素子が極めて小さく、点の集合体として構成されています。ディスプレイ上の空間や基盤面に、他のセンサーやエッジAI、カメラなどの部品を統合できるのです。つまり、マイクロLEDは単なる「新たなディスプレイ」ではなく、先端技術を詰め込んだ「統合基盤」になる能力があります。ディスプレイ自体が「見たり、測ったり、反応したり」できる、というわけですね。  

Reza Chaji
Founder & CEO
イランのテヘラン大学で電気・コンピュータ工学の学士号を取得。カナダのウォータールー大学で電子工学の博士号を取得後、同大の非常勤教授を務める。IGNIS Innovationで社長兼CTOを務めた後、2016年にVueRealを創業、CEOに就任、現職。

image : VueReal

自動車分野でのマイクロLEDの活用事例

―VueRealにはどのようなユースケースがあるのでしょうか。

 車のインテリジェントミラーやボディ、マイクロソーラーが内蔵されたスマートウォッチ、皮膚センサーと一体化した健康モニタリングデバイス、医療用デバイスなど多岐にわたります。

 中でも、すでに実証パートナーが存在し、2026年の内に量産を想定している「自動車のボディに取り付けるマイクロLED」についてお話ししましょう。

 従来、ボディに搭載されるヘッドライトやサイドマーカー、センサーなどはそれぞれ独立したユニットとして組み立てられていました。VueRealの技術では、マイクロLED素子をボディに直接ラミネート(貼り付け)することで、それら複数の機能を1つに集約できるのです。

 要は、ボディにラミネートされたマイクロLEDがセンサーを通して自動的に周囲を観察し、自動的に「発光・情報表示(ウィンカー・点滅など)・スマート照明」を行うという意味です。

 このことで、自動車メーカーとしては設計や配線の手間が省けますし、組み立て時のコストも削減できます。また、ここにAIやマイクロセンサーを取り付ければ、車自身が周辺環境を察知し、運転手に状況を伝えることもできるようになります。

 マイクロLEDディスプレイが、単に「表示機能」として優れているだけでなく、先端技術の搭載に不可欠な存在だとわかるのではないでしょうか。自動車会社の当社への関心度は高く、北米や欧州、アジア市場ですでに様々な企業と提携しています。

image : VueReal

「不可能」だったマイクロLEDの大量生産

―創業のきっかけについて教えてください。

 私は元々、ディスプレイの研究をしていました。OLEDの歩留まりや均一性を改善する技術を開発し、LGにライセンスを提供したこともあります。

 一方で、現在のディスプレイには限界も感じていたことも事実です。OLEDはあくまでも「表示」することだけに特化するディスプレイで、今後重要視されるであろうセンサーやエッジAI、マイクロソーラーの取り付け・連携には不向きだったからです。

 当時、私はウォータールー大学で教鞭をとっており、マイクロLEDが単なる表示機能だけでなく、ディスプレイ自身が「見る、測る、反応する」ことができる、という大きな可能性を感じていました。

 ところが、問題もありました。マイクロLEDは大量生産が不可能と思われていたのです。歩留まりが悪く、転写に時間もかかり、素子の損傷リスクもある。新たな製造方法が編み出されない限り、商業化は難しいと思われていました。

 VueRealは、マイクロLEDディスプレイの全く新しい製造方法を発明しました。それは「カートリッジ方式」といい、全LED素子を1個ずつ選別し、圧力・温度制御で一括転写する手法です。従来は1つの素子に対しての転写に莫大な時間がかかっていたプロセスを、一度の転写で数百万素子の転写が可能になったのです。

 この「カートリッジ方式」は画期的で、マイクロLEDを活用したディスプレイに限らず、マイクロLEDをセンサーやマイクロソーラーに搭載することもできます。マイクロLEDにおいては、この部分のプロセスでつまずく企業が非常に多く、他社にはない製造方式を編み出した我々の競争優位性がある点です。

 VueRealは現在、70人ほどの企業で向こう数カ月では120人を超えるでしょう。来年には売上高1,000万ドルを達成する予定です。

image : VueReal ColourFusion MicroDisplay

日本の自動車市場に大きな関心

―日本市場をどのように見ていますか。

 日本市場には強い興味を持っています。特に、日本の自動車産業は非常に好調で、歴史的に堅牢なクルマをつくってきたという実績があります。VueRealの技術は照明・センサー・ディスプレイなど自動車の核となる部品に応用可能です。

 また、ヘルスケアの分野にも関心を持っています。日本市場は世界と比較しても、ヘルスケア関連のハードウエアに強みがありますから、当社とどのようにコラボレートできるか、話がしてみたいですね。

―すでにVueRealには、2022年1月にTDK Venturesが投資をしていますね。

 TDKは事業部門で私たちと連携してシナジーを起こせるポテンシャルを感じたのでしょう。実際、私たちの製造方式は従来のディスプレイ製造工場と比較したときに環境にやさしいものになっていますし、マイクロLEDそのものに強い関心を抱いていました。

―日本の大企業とのパートナーシップを考えたとき、理想とする形態はありますか。

 私たちのパートナーシップに対する考え方はとても柔軟です。例えば、自動車会社が課題を持っていて、その解決策を探していたとします。そこで私たちはその問題に目を向け、当社の技術で解決できるような提案をします。形態については、後から考えるということですね。

 強いて言えば、共同開発のような形になるでしょうか。私たちが開発し、彼らがそれを評価する。もし彼らが気に入れば、彼らの生産・製造・自動車への採用を私たちが支援するというフローになるでしょう。

image : VueReal



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