目次
・NASAの「エアロゲル」が抱えていた弱点
・ソーラーコアの製品が持つ2つの特長
・自動車や建築、アパレル分野での協業に意欲
NASAの「エアロゲル」が抱えていた弱点
「私たちがソーラーコアを始めた理由は、実はとてもシンプルなんです」と、共同創業者でCEOのMarkesbery氏は語る。大学時代、バックパッカーとしてヨーロッパを旅していた彼は、初めての登山で衝撃を受けたという。
「山頂では、何枚も服を重ねて“ミシュランマン”のようになっていました。そんな自分を客観的に見て、『もっとスマートに暖かさを保てる方法があるはずだ』と考えたんです」
帰国後、この体験をきっかけに「かさばらずに暖かい」ソリューションを探し始めたMarkesbery氏は、やがて断熱の課題がアパレルだけでなく、より広範な分野に共通する問題であることに気付いた。
「世界のエネルギー消費の約半分は熱の生成に使われており、その最大の消費先は建物です。建物の断熱性能をほんの数パーセント改善するだけで、年間数十億ドル、場合によっては数百億ドルのエネルギーコスト削減につながる可能性があるんです」
断熱の課題は、建築だけでなく、自動車、低温物流、防衛、航空宇宙などあらゆる産業に共通している。そう認識したMarkesbery氏は、「これは服の問題ではなく、断熱素材そのものを進化させる必要がある」と確信するようになった。
転機となったのは、米国宇宙飛行士奨学財団(Astronaut Scholarship Foundation)の支援を受けたことだった。
「この奨学金を通じて、NASAが宇宙服や宇宙船の断熱に使っている『エアロゲル』という素材の存在を知りました。火星探査機にも使われているほどの、究極とも言える断熱材です」
エアロゲルは地球上の断熱材の中で最も熱伝導率が低く、極限の断熱性能を持つ。だが同時に、極めて壊れやすいという致命的な弱点もあった。
「指で触れるだけで砕けてしまうほど脆い。そのため、優れた性能がありながらも多くの分野では使われていませんでした」
そこでMarkesbery氏は、この「宇宙仕様」の素材を、現実世界の過酷な環境でも使えるように改良することを決意。柔軟で耐久性があり、濡れても圧縮されても断熱性を保つ新素材──。それが、ソーラーコアの原点となった。

ソーラーコアの製品が持つ2つの特長
「ソーラーコアのビジョンはシンプルです。航空宇宙から建築、バッテリー、アパレルにいたるまで、あらゆる産業において断熱材を機能横断的に変革することです」とMarkesbery氏は語る。
その第一歩として生まれた製品が「Sc_Foam」だ。Markesbery氏はこう説明する。「エアロゲルが非常に脆いという課題を克服するため、私たちはエアロゲルとクローズドセルフォームを組み合わせました。これにより、クローズドセルフォームの柔軟性と耐久性を保ちながら、エアロゲルの優れた断熱性能も兼ね備えた素材が誕生したのです」
Sc_Foamの特長は主に2つある。1つは、極めて高い断熱性能だ。「私たちが見つけた中で最も断熱性の高い素材です。純粋なエアロゲルだけがそれを上回ります」とMarkesbery氏は胸を張る。
もう1つはその薄さにある。「従来の断熱材は機能を発揮するために、ロフト(かさ)やバルク(厚み)が必要でした。そのためジャケットは膨らみ、建物の断熱材もある程度の厚みが必要になるのです。断熱材は圧縮されると空気層を失い、断熱性も失われてしまうからです」
「しかしエアロゲル、ひいてはソーラーコアは違います。私たちは、歴史上初めて、薄くても真の断熱効果を発揮する素材を実現したと自負しています」
現在、ソーラーコアは米国内のみならず海外にも製造拠点を持ち、3つの異なる分野に向けて製品を展開している。「消費者向け、政府向け、企業向けです。消費者向けは靴やアパレルの断熱材として、HELLY HANSEN、J.LINDEBERG、MERRELL、Cabela's、L.L.Beanなど世界的ブランドに採用されています」とMarkesbery氏。なお、日本のアウトドア衣料大手ゴールドウインも、自社のCVCを通じてソーラーコアに出資している。
政府向けでは主に防衛関連の用途での採用が進んでいる。「米国防総省との取り組みでは、戦術的シェルター(大型テント)の断熱、パイプ断熱、アパレル・フットウェア、コールドチェーン包装といった分野に展開しています。戦術的シェルタープログラムでは、既存製品比で40%の断熱性能向上が求められていましたが、ソーラーコアは400%以上の改善を達成しました」とMarkesbery氏は強調する。
企業向け(BtoB)では、HVAC(暖房・換気・空調)設備やバッテリー保護、航空宇宙分野など多様な応用がある。なかでもEVバッテリーの断熱用途は大きな可能性を秘めている。
「バッテリーは低温環境下では効率が下がり、性能を十分に発揮できません。非常に薄いソーラーコアの素材で断熱することで、寒冷地でもバッテリー寿命を最大30%延ばすことができます」と、その効果を示す。
さらにソーラーコアの薄さは、自動車における空間効率の向上にも寄与する。「車両内の限られたスペースを損なうことなく、必要な断熱性能を確保できるのです」とMarkesbery氏は語る。
「用途によって提供する価値は異なりますが、ソーラーコアの核心的な機能は市場を問わず共通です。それは、これまでにない『薄いパッケージ』で、より高い断熱性を実現することです」

image : Solarcore Sc_Foam
自動車や建築、アパレル分野での協業に意欲
創業から約10年、ソーラーコアは今、急成長のフェーズに入っている。「この数年でありがたいことに3桁成長を達成しており、今後も同様の成長を見込んでいます。断熱材に対するニーズは非常に大きく、私たちの製品がそのニーズを的確に捉えていると実感しています」
今後12〜24カ月の間に予定している主なマイルストーンのひとつが、新たなエアロゲル製品のリリースだ。「今回はフォームではなく、繊維をベースとしたエアロゲルです。従来のような素材の剥離が起きず、この技術には大きな可能性を感じています」
10年後のビジョンを尋ねると、Markesbery氏はこう答える。
「共同創業者で現COOのRithvik Vennaと私がソーラーコアを立ち上げた理由は、断熱材をあらゆる市場で根本から変革したいという思いからでした。それによって、各産業に大きな価値を提供できると信じています。すべての市場での変革にはまだ時間がかかりますが、これまでの10年間で築いてきた成果には誇りを持っています」
最後に、日本の潜在的なパートナーや顧客に向けて、次のように呼びかけた。
「もし自動車、建築、HVAC、アパレルなどの分野で、断熱性能をさらに高めたいとお考えの日本企業・ブランドの方がいらっしゃれば、ぜひ私たちにお声がけください。どのような形で貢献できるか、一緒に可能性を探っていければと思っています」

image : Solarcore Sc_Foam Breathable