目次
・「優れたプロンプト」が全て
・人間の保険員にはできないGAILの強みとは?
・レンタカービジネスからピボットしたワケ
・日本の顧客も「こんな生成AI見たことない」と驚く
「優れたプロンプト」が全て
―GAILはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。
当社は保険・銀行業界に特化した生成AI「GAIL」を開発しています。具体的な使用例は、顧客から保険会社に対して「金融商品についての質問」「見積もり依頼」「災害時の請求依頼」「支払い支援」などの問い合わせがあった際、GAILが正確に、素早く返答する、というものです。これらの音声業務に加えて、保険商品の対象業界ごとの引き受け文章も作成し、4カ国語(英語、スペイン語、ドイツ語、日本語)に対応しています。
顧客数はすでに300社以上を超えています。これは、保険会社にとってこれらの業務はコストがかかることに加え、「人間のオペレーターより(返答が)早くて正確」というニーズに応えているからです。ChatGPTなどの一般ユース向け生成AIとは異なり、GAILは保険業界の規制や各国の金融関係の法律をくまなく学習し、専門家と同等レベルの正確性を誇ります。また、顧客企業が求めるものと自社の商品との適合性を瞬時に把握し、顧客が本当に必要な保険をレコメンドすることも可能です。
実際、GAILはアメリカのフロリダ州など複数の州で「保険免許試験」、日本でいう保険募集人資格試験に合格しているのです。つまり、GAILは規制の厳しい保険業界における「保険のプロ」といえます。これを成し遂げられた理由は、「良いプロンプトを大量に学習させたこと」にあります。生成AIのモデルがいくら優れていようと、回答が的外れであれば、良いエージェントにはなりません。優れた回答を引き出すためにGAILでは業界経験に裏打ちされたユースケースを大量に学習させました。
例えば「請求書作成を依頼した顧客の属性や企業規模、保険商品の種類を考えたときに“世界最高の保険代理店ならどう返答するか”」という視点を入れています。顧客の潜在的なニーズに合わせて、個別のシナリオを瞬時に構築し、「痒いところに手が届く」返答が可能になっているのです。
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人間の保険員にはできないGAILの強みとは?
―GAILを活用したユースケースには、どのようなものがありますか。
2024年10月、フロリダ州をハリケーンが襲い、700万人以上に避難命令が出ました。顧客からの損害保険依頼が殺到する中、GAILはこれにスムーズに対応できました。仮にGAILが存在しなかった場合、保険会社は大量の電話、メールに対応するために、新規に100人以上の人員を雇う必要があったでしょう。顧客にとっても、待ち時間が大幅に減少したというメリットがあります。
災害時だけでなく、保険会社にとっては更新時の確認作業が大変です。何しろ大量の顧客に個別に「保険を更新しますか?」と聞かなければならないのですから。GAILは更新確認もまとめて顧客に確認することができます。ある保険会社は月に4万時間以上の顧客との対話をGAILに任せることができました。
さらに、GAILはAIなので、年中無休で働けることも特徴です。大みそかだろうがクリスマスだろうが、早朝・真夜中だろうが、関係なくGAILは顧客に対応してくれます。真夜中に「自賠責保険と衝突車両補償の違いは?」といった質問に即座に対応し、必要書類のリンクを案内できます。
銀行業界での活用例としては、「支払い支援」があります。例えば、ローン返済期日が迫る顧客に対し、「お支払いの期日が迫っています。最寄りのATMへの道案内や支払い方法の説明を希望されますか?」といったプロアクティブな対応が可能です。
image : GAIL HP
レンタカービジネスからピボットしたワケ
―Michaelさんは2016年にGAILの前進であるLULA Ridesを共同創業しました。保険・銀行業界向けの生成AIというアイデアはどのように思いついたのですか。
LULA Ridesは大学生向けのレンタカーアプリとして全米第2位のダウンロード数を記録し、50州500以上の大学でサービスを展開していました。しかし、2020年のパンデミックにより大学キャンパスが閉鎖され、事業の継続が困難になりました。
そこで、レンタカービジネスで直面した保険業務の複雑さに着目しました。当時、私は主にレンタカー保険の自動化に携わっており、保険契約の管理やクレーム処理などの業務が煩雑であることを痛感していました。
かつてのLULA Ridesの顧客企業に「保険業務を自動化するプラットフォームを提供するので、導入しませんか?」と提案したところ、好評を得ました。こうして、より幅広い業界に向けてGAILを開発するに至ったのです。
日本の顧客も「こんな生成AI見たことない」と驚く
―GAILは日本語にも対応しています。日本市場をどのようにみていますか。
GAILは日本市場でも注目されています。実際、日本の顧客からは「びっくりした。今まで使用してきた生成AIの中で、GAILが一番使いやすく、正確だ」という声をいただいています。個人的にも、日本は必ず本格的に進出したい市場です。すでに大手保険会社とも協業していますし、2025年第1四半期は日本に関する重要な発表を予定しています。
何度か日本を訪れてみて、なぜOracleやMicrosoft、Starbucksといった米系企業が日本で大きな市場を築いているかよく分かります。日本人は優れたサービスに対する独自の審美眼を持っていて、アメリカ発の本当に顧客にとって魅力的な商品・サービスも難なく受け入れる、豊かな土壌があります。
―日本でのパートナーシップを考えたとき、どのような形態が理想ですか。
保険会社とのジョイントベンチャーや代理店契約が望ましいと考えています。経営陣は日本語を話せないため、ローカライズに適した形態を模索しています。