「デジタルヘルス分野のShopify」のように、従来と比較してはるかに簡単に医療向けアプリが開発できる仕組みをつくったHuma(本社:イギリス・ロンドン)は、退院後も遠隔地から患者の状態を確認できるアプリや、臨床試験のスピードを早めるための技術を提供している。その革新性が評価され、武田薬品工業やファイザーなどの世界の大手製薬会社と協業するほか、累計5,000万人以上の患者を支援してきた実績がある。Huma創業者でCEOのDan Vahdat氏に話を聞いた。

目次
「退院=完治」じゃない、患者の予後確認が重要
Humaアプリを使えば「資金調達」はいらない?
ジョン・ホプキンス大学所属時に創業のひらめき
日本市場では起業家たちとコラボしたい

「退院=完治」じゃない、患者の予後確認が重要

―Humaはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 Humaは、退院後の予後確認アプリ「Hospital at Home」や臨床試験向け技術「Decentralized Clinical Trial(分散型臨床試験、以下DCT)」、スマートフォンや医療機器と連携を図る「Companion Apps」といったデジタルヘルス関連のテクノロジーを開発し、医療に対するアプローチを根本的に変革するスタートアップです。

 Hospital at Homeは、入院患者のデータを退院後も患者が記録し、患者と医者、双方が予後を確認できるアプリです。DCTは、臨床試験や経過観察のスピードを飛躍的に向上させるテクノロジーで、Companion Appsは、スマホや医療機器と連携し、患者の退院後の経過観察を支援する技術になります。これらのアプリは世界の約4,500の医療機関で利用されています。

 DCTにおいては、子宮頸がんや抗がん剤の研究をはじめ、1,000件以上の研究を支援してきました。ヘルスケアの分野において当社はさまざまなユースケースでこれまで5,000万人以上の患者を支援し、臨床試験の分野では、100万人以上の患者がHumaのシステムを通じて支援を受けてきました。

 また、世界の製薬会社の上位20社のうち15社と提携しており、日本を含む世界70カ国以上で展開しています。Humaの市場からの注目度は非常に高く、創業以来、毎年70〜80%の成長を続け、最近(2024年12月現在)では約10億ドルの評価額で資金調達を実施しました。

 また、当社は喘息における米国の最大級の遠隔患者のモニタリング・プロバイダーです。Hospital at HomeやCompanion Appsを活用することで、従来は重度の喘息患者が治療を受けられるスピードが5〜7年だったのに対し、6~9カ月に短縮されました。

Dan Vahdat
Founder & CEO
2006年に米ジョン・ホプキンス大学で生物工学と機械工学の博士号を取得すべく学び始める。同大在学中に2009年から2011年まで英オックスフォード大で共同研究を実施する。2011年にジョン・ホプキンス大を博士課程途中で退学し、Humaを創業。CEOに就任、現職。

Humaアプリを使えば「資金調達」はいらない?

―Humaと他のヘルスケアテクノロジー企業との差別化要因はどのような点でしょうか。

 Humaの最大の特徴は、レゴブロックのようにモジュールを組み合わせ、病気や治療に応じたカスタマイズが可能なプラットフォームを提供する点にあります。例えば、家庭で血圧測定器をデバイスに接続して、リアルタイムで血圧を測り、そのデータをアップロードできます。他には、スマホのカメラを利用して顔写真をキャプチャすることで、症状の経過を直接医師とやりとりできます。

 またDCTは、臨床試験や経過観察のプロセスを高速化します。このアプリ上で「糖尿病のためのアプリをつくって」と頼めば、すぐに問診票や薬の種類、経過観察の方法、糖尿病患者の症状などが表示されます。これらの情報を組み合わせて、研究者や製薬会社が本当に必要な独自のアプリを構築できます。治験患者や臨床試験のプロセスを簡略化できるわけです。

 従来であれば、1年以上かかり、数千万ドル規模の投資が必要だったプロセスを、Humaのプラットフォームでは数分で完了できるようになりました。こうした利点は資金力には乏しいけれども、有望な研究力を持っている研究者にとってはうってつけでしょう。

image : Huma HP

ジョン・ホプキンス大学所属時に創業のひらめき

―2011年にHumaを立ち上げたきっかけは?

 もともとジョン・ホプキンス大学の博士課程で学んでいた時にHumaを立ち上げました。ジョン・ホプキンス大学とオックスフォード大学が共同研究をしていた関係で、私は当時、オックスフォード大傘下の医療機関で共同研究に取り組んでいました。

 そこで気付いたのは、病院と患者を本当の意味でつなぐコミュニケーションの方法が存在していないという事実でした。患者は、入院中は医師や看護師が患者の状態を細かくモニタリングしているのに、退院後は病院に行かない限り、検査できません。退院した途端、医療機関側のフォローがほぼなくなるのです。ところが、人間と病気の関係性においては、ある日を境に急に病気が完治することはありません。退院後もデータをしっかり取得してこそ、完治までの期間を短縮させることができます。

 そこで私たちが思いついたのが、スマホを使って退院後も患者のデータを取得することです。患者自ら予後のデータを日常的に記載し、それを主治医や看護師が遠隔地からチェックする。こうすれば、医療機関は患者が薬が突然効かなくなったり、少し気になるデータが明らかになったりした時に、早く病院に戻すこともできます。

日本市場では起業家たちとコラボしたい

―日本市場に進出する考えはありますか。

 日本は人口が多く、先進国であり、高齢者の数が多い。医薬品ビジネスが非常に活発な市場で、非常に多くの可能性を秘めている市場です。実際、すでに我々は武田薬品工業と提携するなど日本市場に踏み込んでいます。

 ただ、日本において私たちはまだ直販は実現できていません。明らかに文化が異なりますし、日本市場に精通しているパートナーが必要なのは明確です。現在はパートナー企業を通して日本市場と関わりを持っていますが、いずれは自社でプロダクトを販売したいと考えています。私たちのソリューションに興味のある日本の医療機関に、Humaのテクノロジーに実際に触れてもらって、自らアプリを立ち上げる体験などをしていただければと思っています。

―日本市場において提携を考えるとしたら、どのようなパートナーを求めていますか。

 私たちのプラットフォームを利用して、自分たちの研究を加速したい、新たなビジネスを立ち上げたいと考える人たちに積極的に利用してほしいと考えています。例えば、患者の予後もしっかりとフォローしたいと考えるお医者さん3人が集まってビジネスを立ち上げることだって可能ですし、あるいは、新薬をよりスピーディーに市場に投入したいと考える製薬会社の可能性もあります。特に最近は資金調達が難しくなっていますから、Humaのアプリで独自のインターフェイスをつくり、お金をかけずに顧客とつながる方法はとても有効だと思います。

 私たちのソリューションは「デジタルヘルス分野のためのShopify」だとイメージしてください。ShopifyがEC体験をシンプルにしたように、Humaは研究者や医師の新たなアイデアを現実に変えるために必要不可欠なソリューションです。

 また、投資という関係性にも興味があります。例えば、日立製作所は私たちに投資しています。医療コングロマリットや病院などが私たちに投資し、何か日本国内で大きなムーブメントを起こしたい、というようなニーズも汲み取れると思います。

 Humaは、伝統的に「協業」をとても大切にしてきた企業です。これは私たちのDNAと言っても過言ではありません。日本でもまだ見ぬ素晴らしいパートナーに出会いたいですね。



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