目次
・世界のエンジニアを米国に斡旋するビジネス
・Terminalが着目した「需給ギャップ」とは
・日本市場ではコングロマリット企業に興味
世界のエンジニアを米国に斡旋するビジネス
―Terminalはどのような課題を解決しているのでしょうか。
当社が取り組んでいるのは「世界の優秀なソフトウエアエンジニアを、恒常的な人手不足状態にある米国企業に斡旋する」ことです。私たちは欧州(スペイン、ポーランド、ルーマニア、ハンガリー)や中南米(メキシコ、コロンビア、チリ)、カナダの優秀なエンジニアを選定し、アメリカ企業に派遣しています。
Terminalは「ソフトウエア人材の“ハブ”」と言えるでしょう。Terminalがリクルートした外国人は本国でフルリモートで勤務し、雇用形態としてはTerminalが(これら外国人を)雇うことによって国際間の税の問題などをクリアしています。
Terminalは2021年に事業を3倍に拡大し、翌年にはそこからさらに2倍成長するなど、市場からは大きな注目が集まっています。Terminalのエンジニアを活用するチーム数は125を超え、これまで1,000人以上のエンジニアが採用されています。
私たちの顧客であるハイテク企業は、2〜3人の開発者を雇いたいアーリーステージのスタートップから、50〜100人のエンジニアを欲している5,000〜1万人規模の企業まで存在します。GoProのような上場企業から、まだ製品を世に送り出していないスタートアップまで幅広く顧客にしているということですね。
Terminalが着目した「需給ギャップ」とは
―なぜ、米国企業はTerminalを活用するのでしょうか?
Terminalを活用すると、アメリカ国内のエンジニアを雇用するよりも安価かつ長期的に戦力になってくれるエンジニアを獲得できるからです。数字で説明すると、世界的にも上位7%以上と言える人材がTerminalに登録していますし、アメリカで採用するより35%ほど早く、40%コストを削減できることに加え、エンジニアは平均より3倍長く勤務します。
アメリカでは優秀なソフトウエアエンジニアの恒常的な人手不足状態にあり、年々悪化しています。現在、1人のエンジニアに対して3つの求人があるというほどです。
ソフトウエアエンジニアが年々不足していくのは、すべての企業の「ソフトウエア化」という現象が大きいです。銀行という、これまでソフトウエアと縁のなかった業態も近年はインドなどの地域でエンジニア機能をアウトソーシングしていますし、NIKEなどのアパレル企業も何百人ものエンジニアを雇用する時代です。
ソフトウエアエンジニアの需要は毎年増えていく一方であるのに、依然としてアメリカの労働市場では供給不足が起きています。ただ、世界に目を向けてみると、たとえば南米諸国では1つの求人に対して、25人のエンジニアが枠を争っているなど、需給がアメリカと逆になっています。これらの国々ではベンチャー産業に対する資金が不足していることに加えて、DXを進めている多国籍企業も多くありません。優秀なエンジニアを雇える会社がアメリカと比較すると少ないのです。これらの地域の人材は、一旦米国企業で働くと、長期的に働く傾向にあります。本国での求人が少ないわけですから。
あまり知られていませんが、南米諸国には優秀なソフトウエアエンジニアが多数います。メキシコを例に挙げると、コンピューターサイエンスの学士号を取得した卒業生の人数は、アメリカをも上回ります。南米の国々ではここ10年ほどでSTEM教育に力を入れてきた歴史があるため、埋もれている才能が多数存在するのです。
また、エンジニアの領域で「(技術習得の)オープンソース化」が起きていることも、南米や欧州で優秀なソフトウエアエンジニアを多数輩出している事実につながっています。かつては最新の技術を取得するにはアメリカの有名大に通うしかありませんでしたが、今ではやる気さえあれば、PCで最新の技術を学べるようになっています。
―Terminalは、どのようなプロセスを経てエンジニアを採用しているのですか。
主に3つのチャネルがあります。1つは現地市場で人材を発掘するチームを組成しています。GitHubをはじめとしたデータソースを調べ、現地の優秀なエンジニアを見つけています。
2つ目は、Terminalに応募してくるエンジニアでこれが大半を占めています。応募者はプロフィールを作成し、私たちの審査が通れば、プラットフォームに登録できます。毎月約1万人の応募があるほど、Terminalは人気なのですよ。最後に、リファラルです。Terminal上で活躍しているエンジニアの紹介ということですね。
―言語の壁は、米国企業でフルリモートで働くことの障壁にはならないのですか。
南米や欧州諸国では、母語は英語ではありませんが、ある程度英語が通じます。また、コーディングやリモート開発の大部分の業務はテキストで行われることから、現在の言語翻訳テクノロジーを使えば非常に容易にコミュニケーションをとることが可能になっているのです。言語の壁は限りなく低くなっていますね。
image : Terminal HP
日本市場ではコングロマリット企業に興味
―Terminalを創業したきっかけは?
前職のEventbriteでの経験が大きいです。同社は最終的にIPOを果たすまで成長したイベント管理会社で、私はプラットフォームチームの立ち上げを担当していました。
当時、私はアメリカ国内のソフトウエアエンジニア不足を目の当たりにし、カナダや中南米、ヨーロッパにチームを作り、現地採用を積極的に行いました。すると、非常に早く、コスト効率よくサービスを開発できたのです。Terminal創業時には、この経験が役立っています。
―日本市場に進出する可能性はありますか。
将来的に私たちは世界のあらゆる市場に進出したいと考えており、日本は非常に興味深い市場だと見ています。例えば、日本のリクルートホールディングスは、世界でも有数の人材テクノロジー企業であり、他国の企業にはない優秀なサービスを開発しています。このような企業が存在する日本という市場は非常に有望でしょう。
日本の企業と実際に提携することを考えた場合、テクノロジーや製造業、消費財などの分野で大きな影響力を持っているコングロマリット企業に関心があります。彼らはAIやロボティクス、IoTといった分野でソフトウエアエンジニアを欲していますし、Terminalもこの分野のエンジニアリソースを豊富に持っています。これらのコングロマリットはグローバル企業でもありますから、世界各地の拠点で必要とされるエンジニアを供給できるでしょう。
―日本企業との提携を考えた場合、理想とするパートナーシップの形態はありますか。
ジョイントベンチャーを通じて市場に参入するのが最良かもしれません。グローバルな人材サービスを展開する企業があるなら、(日本の事情に精通しつつ、海外の人材サービスにも理解があるという点で)彼らとの合弁は合理的だと考えます。