ハイテク大国・イスラエルのスタートアップには投資するしかない──。そう力説するのは、イスラエルの「ベンチャーキャピタル(VC)・プラットフォーム」であるOurCrowd(本社:イスラエル・エルサレム)のCEOのJonathan Medved氏だ。OurCrowdはイスラエル国内のホットなスタートアップを自ら選定し、企業や機関投資家の投資を募る形式の珍しいVCとして知られている。OurCrowdはどのようなVCなのだろうか。Jonathan Medved氏に聞いた。

目次
世界の投資家とイスラエルを結ぶOurCrowd
「紛争状態にあっても、投資は減らなかった」
タイと韓国でファンド設立、アジアで存在感

世界の投資家とイスラエルを結ぶOurCrowd

―2013年にMedvedさんが設立したOurCrowdは、イスラエル有数のVCとして知られています。OurCrowdはどのようなVCなのでしょうか。

 私たちは、アメリカの西海岸や東海岸にある通常のVCとは違い、「VCプラットフォーム」としての役割を果たしています。

 VCプラットフォームとは何か。自ら投資するだけでなく、投資先や案件ごとにコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)や機関投資家、資産管理会社を募り、私たちが選定した企業に(OurCrowdを通して)投資することを指します。

 CVCや機関投資家にとって、OurCrowdを使う最大のメリットは、イスラエルという起業大国において選りすぐりのベンチャーに対する(高いリターンが期待できるという意味で)エキサイティングな投資機会を得られることです。

 イスラエルはAIやサイバーセキュリティ、クラウド、量子コンピューティングといった分野で世界をリードしています。これらの分野で先進的なサービスを開発するベンチャー企業もとても多いです。

 OurCrowdは、57のファンド・460ほどの企業に投資し、2.3億ドルで運用しています。これらの企業は、OurCrowdのアナリストによる徹底的な精査を経て、選出されています。

 日本やオーストラリア、米国など、イスラエルから遠く離れた場所にいるCVCや機関投資家はこれらのポートフォリオ・企業リストを見て「A社に投資したい」と決めることができるのです。今日のスタートアップシーンは、目まぐるしくトレンド・技術が発展していることから、現地にいなければ最新の情報が手に入らないことが多いでしょう。OurCrowdは海外にいる投資家のために、イスラエルで今どのようなスタートアップがホットか、目利きの業界アナリストが伝える役割を果たしています。

 顧客は500万ドルから1,000万ドルの範囲で投資し、OurCrowdに支払うのは2%の管理手数料と成功報酬(Carried Interest)20%のみ。イスラエルという「宝の山」に対して、低い手数料で確実な投資を行えることから、OurCrowdは25万以上の投資家に利用されているのです。

Jonathan Medved
Founder & CEO
カリフォルニア大学バークレー校で歴史学の学士号を取得後、MERET Optical CommunicationsでMarketing and SalesのExecutive Vice Presidentを務める。1995年からIsrael Seed PartnersでGeneral Partnersを10年務めた後、VringoでCEOに就任。2012年6月にOurCrowd設立。

「紛争状態にあっても、投資は減らなかった」

―日本企業もオリックスやNTTファイナンス、SoftBank(SoftBank Vision Fund)などがOurCrowdに出資しています。なぜ、イスラエルのベンチャーシーンは注目を集めているのでしょうか。

 純粋に、競争力のある企業が多いからです。たとえば、サイバーセキュリティーの分野を見てください。近年イグジットを果たした主要14の企業の内、13がイスラエル発の企業です。

 サイバーセキュリティ関連の投資をしたければ、イスラエル企業を外すという選択はありません。他にも、AIにおいても世界でトップクラスの研究力を誇っています。OpenAIの前Chief ScientistのIlya Sutskever氏は、新会社のSafe Superintelligenceの本社機能をイスラエル・テルアビブにも開設しています。10億ドルを調達したベンチャーの信任を得ているイスラエルという国のポテンシャルが理解できるのではないでしょうか。

 あるいは、半導体においてはNVIDIAがMellanox Technologies(イスラエル発で世界有数のスーパーコンピューターのネットワークにおいて過半数採用されている半導体企業)を買収して以降、イスラエル企業に対して買収攻勢をかけています。イスラエルという研究大国にあっては、他社と一線を画するようなコア技術が次々と生まれてくるのです。

 サイバーセキュリティにAI、半導体──。こうした分野は、今後の世界経済をドライブしていき、巨大な富を生み出していきます。イスラエルは、強力な技術力をバックに、次々と競争力の高いベンチャーが生み出される国なのです。

―2023年10月からガザ地区での紛争が続いています。イスラエルの国内経済への影響はないのでしょうか。

 驚くべきことに2023年の1〜9月と2024年の1〜9月、つまり紛争がなかった時期と紛争が続いている時期の(イスラエルへの)投資資金額を比較すると、後者の方が多かったのです。それも前年同期32%という数字です。

 もちろん、紛争の影響は大きいです。外国の航空会社がイスラエルへの渡航を一時停止していることから、観光業を初め、外国人労働者に頼っている建設業や農業なども打撃を受けています。

 それにも関わらず、投資を増やせたのは「ハイテク」の力に他なりません。イスラエルはGDPの20%以上がテクノロジー分野で、輸出産業の53%も占めています。イスラエルの「ソフトパワー」つまり、頭脳労働は他国から見ても突出しているのです。

image : OurCrowd HP

タイと韓国でファンド設立、アジアで存在感

―日本企業とは、特にどのような分野において提携を期待していますか。

 医療や半導体、光学、クラウド、量子コンピューティングといった分野ですね。イスラエルはイノベーションや即興性、研究力に強みがあります。一方で日本では長期的な計画性、製造力、流通能力、販売能力、スケールを前提としたビジネスの構築、という風に世界では類を見ない強みを持っているでしょう。

 日本企業の長期的な計画性や製造能力に、イスラエル企業の瞬発力を組み合わせれば、非常に大きな相乗効果を生み出すことができると思います。

―OurCrowdは日本以外でも、アジアで存在感が高まっています。一例に、23年12月にタイにおいて現地VCのRISEと提携し、Rise OurCrowd Exponential(ROCX)を立ち上げました。タイではどのような投資機会を見つけていくのでしょうか。

 タイでは医療制度が非常に発達しており、医療系ベンチャーが勃興しています。こうした分野にフォーカスするのがひとつ。そして、タイは食品と農業分野における強国でもあります。

 RISEを率いるKid Parchariyanon博士は非常に野心的で、定着しつつあるタイ人の起業家精神を後押ししたいとのことでした。タイでも魅力的なベンチャーを見つけていきます。

―2024年6月には、韓国では韓国政府と提携し8,000万ドル規模のファンドを設立しました。

 このファンドにおいては、韓国のNH BankやKorea Growth Investmentという政府系が投資しています。同ファンドの投資先としては、50%を韓国企業に、50%をイスラエル企業に投資していくつもりです。

 韓国はOECD加盟国の中でも研究開発支出が高い国として知られ、ディープテック企業が次々に生まれています。イスラエルと韓国のハイテク産業の勃興を目指して、このファンドを運営していく予定です。



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