「不都合な真実」から「次世代に残すべきもの」を考えた
上村氏にとって、シェアリングエネルギーは2社目の起業となる。元々、2008年に設立した会社があり、そこの新規事業という位置付けからスピンアウトとして、2018年に立ち上げたのがシェアリングエネルギーだ。
「シリコンバレーで事業を始めた先輩との出会いなどをきっかけに、起業に興味を持ち始めました。いずれ自分で起業しようと決めていたのですが、その前にコンサルティングファームに勤めたり、他のベンチャー企業で役員をやったりと経験し、2008年に最初の会社を創業しました」
当時は明確に事業内容を固めていたというわけではなかったというが、ある思いをしっかりと定めていた。「既に子どもがいましたので『次世代に紡ぐ価値、紡いでいくべき価値』を広げていこうとは決めていました」
アメリカの元副大統領、アル・ゴア氏の「不都合な真実」という本やドキュメンタリー映画に触れたことがきっかけで、「私自身、環境問題や再生可能エネルギーなどに強く興味を持つようになり、結果的にこの社会課題に取り組むことが1番、次世代に残すべき価値観となると、私自身の立ち位置を決めました」と語る。
当時の再生可能エネルギーを取り巻く日本の課題を上村氏はこう捉えた。「太陽光発電などは訪問販売が非常に多く、バリューチェーンの中で供給者側と需要側、買う人と売る人で情報の格差が非常に激しい状態で、さまざまなトラブルや問題も起きていました。そこで『正しい情報を伝える』ことをやろうと、インターネットを通じた比較メディア事業として、最初の会社でこの領域に参入しました」
その後、この十数年間の中で環境は大きく変化する。太陽光発電に関するシステムのコストは以前より下がり、プレイヤーも大きく変わっていく中で、「情報の流通だけではなく、我々自身が当事者として再生可能エネルギーや分散電源を広げていくプレーヤーとして進めていくのが良いアプローチではないかと考えました」。そこから2018年1月のシェアリングエネルギー設立に至った。
「いいとこ取り」への「不信」を「信頼」に変える
多様な再生可能エネルギーの中でもなぜ太陽光に着目したのか。
「現実的に、国内で持続可能な電源を広げ、市場拡大を図っていくのに適しているのは太陽光だと考えました。また、大きな発電所を造るという考え方ではなく、電気の需要が発生する家庭や施設に直結した屋根の上、ルーフトップで再エネ電源を作れるというアプローチが最も分散型電源を広げ、地産地消型エネルギーシステムを作っていくために正しい姿なのではないかと思いました」
ただ、起業の際には同社のサービスモデルに対して懐疑的な反応もあったという。
「我々の事業はいわゆる住宅用PPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)事業者として、お客様のルーフトップに初期費用ゼロで太陽光発電設備を設置し、発電した電気を外から買うより安く使えて経済的で、気づいたら結果として脱炭素に貢献していた、というようなアプローチを取っています」
「ですが、私たちのビジネスモデルが結構『いいとこ取り』みたいな形になるので、そこに対してお客様の不信感や『この会社に頼んで本当に大丈夫か』といった受け止めがあったことが、創業当初の非常に苦労したところです」
そういった懐疑や不信に対して、事業の信用力を構築していくために取り組んできたことの1つは、大企業や金融機関との連携だ。「安心感を持っていただけるような大企業さんや金融機関さんを株主の形で徐々に巻き込んで仲間になっていただきながら、信用力を高めています」と上村氏は語る。現在、環境エネルギー投資やENEOS、第一生命保険をはじめさまざまなVCや金融機関が同社の株主に名を連ねている。
同社の「シェアでんき」は、初期費用無料で、太陽光発電の使用電気料金が電力会社からの購入に比べて大幅に抑えられ、アフターメンテナンスも対応する。設置から15年経過後は設備を無償譲渡するという、ユーザー側からは「いいとこ取り」の形だが、同社の収益モデルはどのようになっているのか。
「当社の事業はユーザー側から見ると、初期費用無料で、屋根の上に太陽光発電設備を設置でき、太陽光発電の電気が、1kWhあたり22円で使い放題で電力会社からの購入に比べて大幅におトクになります。また、設置から15年間は当社の方で設備を所有させていただきますが、その後は基本無償で設備一式をユーザーに譲渡させていただくので、15年の契約期間終了後は発電した電気を家の中で使っていただく部分も一切お金がかからなくなります。使い切れずに余った電気は当社に売ることができます」
「太陽光のパネル自体は25年間しっかり発電、出力する保証をつけて、メーカーの方で設置していますので、譲渡後も少なくとも向こう10年間は発電が保証、担保されている形になります」
長期的にもより経済的になるサービスモデルを展開する上で、収益の柱は2つある。「我々の収益源の1つは、お客様の屋根の上で発電した電気を、安い単価ではありますが課金しており、その自家消費に対する電気の課金収入になります。もう1つは、家の中で使い切れずに余った電気については、当初15年間は当社の方で外に売らせていただき、売電収入としています。この2つの収益源を持って、初期投資を緩やかに回収していくビジネスモデルです」
Image:シェアリングエネルギー
脱炭素のトレンドが大きな追い風 自治体との連携も
「シェアでんき」の契約依頼数は9,000件を超え、ハウスメーカーや工務店など提携ビルダー数は1,100社を突破した(2022年12月現在)。契約依頼数は2021年11月と比べて2倍以上の伸びを示している。この成長の要因を上村氏は外的要因と内的要因、両方の要素として分析する。
「外的要因として、大きな潮流はやはり脱炭素の流れです。2020年、当時の菅義偉首相は『2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す』と宣言しました。以降、地域脱炭素ロードマップが発表されるなど、政策的にも、実需としても不可逆的に脱炭素化の流れが加速しています。新築戸建てに対しても太陽光の設備を設置することを義務化していくという大きな方向感も少しずつ動いています」
内的要因は、この1年で一気に遂げた組織の拡大だ。「当社は他に先駆けて事業に取り組んでおり、ビルダーさんなどとのネットワークとオペレーションのところで、修練度高く業務を推進できるようになってきております。リソースが増えています」
従業員は、創業当初4人ほどだったが、現在は70人程度まで増えている。
今後の一層の事業拡大に向けて、上村氏はメインユーザーの拡大についてこう説明する。「当社の事業は、電力の世界では低圧という比較的小規模の領域ですが、チャンネルは現在、大きく4つあります」
「まず1つ目は新築の戸建てです。今まではこちらをメインにある意味これだけをやってきました。2つ目が既築の戸建てです。国内に現在、既築の戸建ては約2700万棟ありますので、かなり大きなマーケットとして見ています」
「3つ目は、比較的小規模の施設や店舗です。4つ目は、住宅と被る部分がありますが、自治体です。自治体がその地域全体を脱炭素化していく取り組みに対して、我々の『シェアでんき』を用いて、自治体内の施設や住民の方々の戸建に、太陽光を一斉に載せていくようなプロジェクトを進めています」
シェアリングエネルギーは、2021年に福岡県の吉富町と、2022年には同県の田川市と包括連携協定を結んだ。吉富町とは、町内最大3,000棟にシェアでんきを設置し、「高度環境配慮型都市・脱炭素社会の実現へ」貢献していくと発表した。町民の戸建住宅だけでなく、消防車庫や放課後児童クラブなど、町の公共施設にもシェアでんき設置を進めている。
「自治体が地域の脱炭素化を進める上で、財源や予算の問題が非常に課題となっています。その中で、初期費用がかからず経済メリットが出せ、CO2削減にインパクトを与えていける我々の取り組みがちょうどマッチしたと考えています」
Tesla Powerwallなど蓄電池とのプランで自家消費率の向上へ
政府が脱炭素を掲げたことが追い風となる一方で、同領域に参入する企業も一層増えていくことが予想されるが、シェアリングエネルギーの優位性とは何か。
上村氏は「小規模施設や住宅も含め小規模な領域でのPPA事業を専業でやっているところは我々以外はないと考えています」と自信を見せる。太陽光発電設備設置などに伴う行政手続きや煩雑かつ大量のオペレーションプロセスについて、シェアリングエネルギーのこれまでの経験や実績が強みとなっているという。
「我々は先駆けてこの領域に取り組んでおり、オペレーションも非常にシンプルかつDXが図れています。結果としてオペレーションコストを抑え、ユーザーにとってメリットが高いサービスを当社が打ち出しているのが現状です。これまでは競合もありましたが、最近のトレンドとしては競合ではなく、『協業』していくような座組みが増えています」
また2021年11月、電気自動車(EV)やクリーンエネルギーの発電・蓄電プロダクトを展開するTeslaの大容量・高出力蓄電池「Tesla Powerwall」をシェアでんきとパッケージで提供するサービスを始めた。自家消費率や、災害などへのレジリエンスの向上が狙いだ。
上村氏は「まずは屋根の上で自分たちで電気を作れる状態をつくることが最初のステップであり、そこから次のステップ、目標である『作った電気をいかに貯めて使いながら、自家消費率を最大化していくか』に進めていきます。将来的には、発電し、余った電気が地域内で流通できるような世界をつくりたいと思っています」と説明する。今後は、他のバッテリーやEVへの対応など、新しいサービス設計も準備を進めているという。
Image: シェアリングエネルギー HP
脱炭素への流れが国内外で進む一方、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻などを機に、エネルギー価格の高騰や物価高が起き、電気料金の値上げが家計を圧迫している。
上村氏は「資源の問題、円安の問題もあり、生活にかかるコストの結構大きな割合の中で電気代の上昇トレンドが早く、負担額が増えている状況です。言い換えると、我々にとっては事業的な追い風の部分もあり、今までは電気代をそれほど気にしていなかった方々も、シェアでんきを導入した場合の料金シミュレーションなど問い合わせは増えてきています」と語る。
提携ビルダーの中には「電気代が安くなる家」といった打ち出しをするところもあり、「自分で電気を作って安く使えるという生活スタイルの1つとして、シェアでんきが浸透していくようにしたいです」と今後の展開を見据える。
太陽光発電の普及に伴い、懸念されることの1つに、パネル等の廃棄の問題がある。「これから数十年後に出てくる太陽光パネルやバッテリーの廃棄について、テクノロジーの進歩による新製品も出てくるとは思いますが、現状稼動しているパネルや周辺部材をリサイクル、リユースといったサーキュラーエコノミー的な循環の潮流をより一層強めていかなければと思います。業界として、持続的な仕組みをしっかりつくっていかなきゃいけないと考えています」
さまざまな大企業との連携、新しい座組みを考えたい
シェアリングエネルギーは2022年8月、シリーズBのファイナルクローズにおいて、総額55.9億円の資金調達を実施した。全国地銀系のVCなどとの資本提携により地域脱炭素化への取り組みを加速させていく。累計資金調達額は約81.9億円となった。
上村氏は投資家を引き付けた理由として「脱炭素という大きなトレンドの中で、当然発電もありますし、運輸や通信等さまざまな領域があります。その中で我々は小規模、家庭用を中心とした再エネを提案する領域で、脱炭素化を推進するプレーヤーとして期待値をいただいていると考えています」と説明した。
「また地方の金融機関などとの連携により、地域に根差した金融機関が取引先の脱炭素化を図っていく上で、非常にシナジーが出ると感じていただいている、期待値を頂いたと認識しています」と加えた。
太陽光発電設備の設置に係る初期投資費用は、基本的にプロジェクトファイナンスを組んでおり、エクイティで調達した資金はあくまでも組織の拡大・強化、人材への投資、オペレーションの一層のDX、システム投資に活用していくという。
これまでも、同社はさまざまな企業との連携の実績がある。三菱商事とローソンを出資母体とする電力小売事業を営むMCリテールエナジーとは、戸建て住宅向けの屋根置き太陽光発電設備を初期費用無料で設置できる電力プランの提供を2022年7月、開始した。「MCリテールエナジー社のサービスプランとして提供していますが、裏側のアセットの所有等、オペレーションは当社がやるという、OEMのような形での協業の形です」と上村氏は説明する。
2022年8月には、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友海上火災保険、損害保険ジャパンなど損保4社と共同の動産総合保険契約の締結を発表した。共同保険契約により、住宅用の太陽光発電システムを取り巻く主な財物損壊リスクに対応する。
今後も引き続き、大企業との連携・協業について幅広く可能性を模索していきたいと上村氏は語る。
上村氏は「脱炭素化というトレンドの中で、業種的には電力会社やガス会社などはもちろん、今後は特に電気自動車が広がっていく中で、燃料となる電気は『再エネ由来』でないと意味がないと思いますので、自動車メーカー関連企業との連携も模索したいです。また、自社で多くの戸建てや店舗・施設を保有している企業との協業もぜひ取り組みたいです」
また、協業や連携の携帯については、「先方のニーズに合わせて対応可能です。シェアでんき自体は、0円で太陽光発電システムが設置でき、経済メリットを出せて、環境価値を創出できるというところは変わりませんが、それをベースにいろいろな座組みを各社ごとに検討していくことを考えています。形態にこだわった協業ではないというイメージです」
脱炭素化を追い風に、太陽光発電システムの第三者所有サービスを広げ、地域の分散電源創出や地産地消を目指すシェアリングエネルギー。上村氏は今後3年のマイルストーンとして、「住宅用を含めた低圧・小規模の領域で、太陽光という再エネ電源を広げていく中で圧倒的なシェアナンバーワンを取りたいと思っています。シェアでんきが、戸建ての中で1つの『インフラ』として当たり前になるように取り組んでいきたいと思います」と力強く語る。
「分散電源の創出により、エネルギーシステムを変革する」というミッションの下、ステップを踏んで未来を築く事業を展開するシェアリングエネルギー。
「自分たちのルーフトップで持続的に電気を作ることができ、それを貯めて使え、移動にも使えるエネルギーリソースを得ていくことで、自家消費率が最大化されます。それでも余った電気は地域の中で流通していく。地産地消型のエネルギーシステムが当たり前になっている世界を、国内外で実現できるよう、これからも取り組みます」
次世代につなぐバトン、目指す未来について、上村氏はこう説明した。「いきなり世界が変わるのではなく、少なくとも15年、20年という移行期間があって、気付いたらあっという間に時代が変わっていた、という流れになっていくのだと思います。我々はその移行期間をきちんと紡ぐ、紡ぎ続けられる会社でありたいと思っています」