PlanGridは、建設業界における旧来の作業を効率化し、生産性を向上させるソフトウェア。顧客は、数十枚から数百枚におよぶ図面をモバイルデバイスを通して一括管理したり、実際の現場を見ながら修正するなどが可能となる。同社は2013年に設立され、現在までにVCから6000万ドルを調達している。今回はCo-founderでCEOのTracy Young氏に事業内容や今後の展望を聞いた。

Tracy Young
PlanGrid
CEO
2007年にカリフォルニア州立大学サクラメント校にて建築の分野で学士を取得後、そのキャリアをスタートさせる。 2007年から2011年まで西海岸の大手ゼネコンRudolph&Slettenへエンジニアとして勤務。その後、2011年に同社を設立、CEOに就任。

図面管理・編集をクラウドソフトウェアで効率化

―まずPlanGridの事業概要について教えてください。

 PlanGridは建設業界に向けて、図面管理クラウドソフトウェアを提供しています。プロジェクトの大小に関わらず、個人宅用のリフォームから大型の建設計画まで、さまざまな種類の図面を管理することができます。基本的に、アプリを利用すればどのモバイルデバイスからも実際の工事現場で状況を確認しながら図面の編集ができます。

―このプラットフォームの機能についてもう少し詳しく教えてください。

 PlanGridを利用することで、本来ならば多くのコピーを取り実際に現場にいる従業員の手元で管理する必要のある図面を、クラウド内で一括管理できます。管理する際も一枚のもととなる図面に、それぞれの別々の建設物ごとの図面を同期できます。たとえば、キッチンの図面とリビングルームの図面と全体の図面をそれぞれ管理しなくてはならない場合、PlanGridを利用することで、全体図面のリビングの部分を押すと、より詳細なリビングのみの図面を見ることができます。また全体の図面へ引き返すことも可能で、わざわざ大量の図面を別個で管理する必要がなくなります。

 その他の機能としては、実際の建設物と図面との間に設計のズレが生じて手直しが必要になった場合、図面上の手直しが必要なところへ写真を添付したり、新たな情報を書き込んだりすることも簡単にできます。さらに記録された修正情報は実際に手直しを行う下請け業者へ簡単に共有でき、彼らの手によって直された際には元請けの持つ図面データへ自動共有・更新される仕組みとなっています。図面の編集に関しても、写真の添付やメモをつけるなど図面を見ながらの作業を円滑にする機能が多く備え付けられています。

―どのようなメリットがあるのでしょうか?

 私たちは建設に携わる全ての作業員の方々が円滑にコミュニケーションを取ることができ、作業を効率良く進めることを目的にこのソフトウェアを提供しています。近年、建設業界では急な計画の変更などで生じる図面の再印刷などにかかる手間と費用が問題視されています。特に大規模な建設では、何百から何千枚ともなる図面を扱っているため、それらの再印刷にかかる費用と時間は建設計画を狂わすことは少なくありません。

 このソフトウェアを利用することで、大きな修正点が出てきたとしてもワンクリックですべての作業員へ最新の図面を共有することができ、再印刷の必要はなくなります。何度、軌道修正したとしても費用をかけて図面を新たに印刷する必要はなくなるのです。

自由度を重視したユーザビリティ

―競合と比較した際の強みは何でしょうか?

 強みとしては、まずモバイルデバイスからの利用を中心に商品設計している点だと思います。それまでパソコンもしくは紙媒体でしか扱えなかった図面を実際の現場の中で扱えるようになりました。これにより、より明確な作業の進捗がリアルタイムで確認できるようになりましたし、実際の状況を考慮した図面の編集が可能となりました。

 ユーザーの利用しているデバイスを問わず、Android、iOSどちらでも全ての機能を利用できます。オフラインでの利用しやすさにも重点を置いており、ネット回線の接続が不安定な場所でも、図面の編集が可能です。回線がつながった際に、自動で同期されるので情報の誤差もほとんど起きません。

 もう一つは、規模問わずどんな計画にもこのソフトウェアを利用できる点でしょう。ユーザビリティーをよりシンプルにわかりやすくすることで自由度を高め、どのような規模の計画でも利用することを可能にしました。それらの点でPlanGridは、他社のサービスとの差別化を図っています。

―主な顧客はどのような企業になるのでしょうか?

 現在、全世界72カ国以上、1万社以上の顧客がこのソフトウェアを利用しています。創業してからの過去6年間で約50万件以上の建設計画にPlanGirdを利用していただきました。そのおかげで私たちのクラウドデータベースには50億枚以上の図面データが蓄積されています。それらのデータがこのソフトウェアの価値をより高いものへと変えているのです。

―本ソフトウェアの導入事例を教えてください。

 大きく分けて建設業者か不動産会社などの建物の管理を必要とする企業が主な顧客層となっています。建設業社側の顧客は、基本的にビルの建設や大規模なプロジェクトを円滑に進めるために、このソフトウェアを利用してくれています。

 不動産会社や物件を多く所有しているリテール企業などの物件管理を必要とする企業の多くが、このソフトウェアを使って物件の管理を行っています。さらに、少数ではありますが、ビルのデザイナーや建築家の方の中にも施工の立会いのためにPlanGridを利用してくれている方もいます。彼らには編集機能付きのものではなく図面確認機能のみが備えられた特別仕様のものを提供しています。

Y Combinator創業者に認められた可能性

―Y Combinatorでのアクセラレーションでの経験を教えてください。

 この会社を創業した2011年、PlanGridが現在のような規模の企業へ成長していると想像していた投資家は少なかったと思います。収益性よりも顧客への提供価値を高めることのみを考えてビジネスモデルを練っていたので、夢物語のようなビジネスモデルだったからです(笑)。そんな私たちのビジネスモデルに対して投資家の方々が、懐疑的になるのは仕方のないことだと思います。収益の見込めないビジネスに投資はできませんから。

 なので、Y Combinatorのアクセラレーションプログラムの中で、創業者であるポール・グレアムとジェシカ・リビングストンに出会えたことはとても幸運でした。多くの投資家の方々が私たちのモデルを否定する中で、彼らだけが私たちのことを支持してくれましたから。特にポールにはとてもたくさんのアドバイスをもらいました。今でも彼の「消費者がもっとも使いたいものを作ること」と「常に革新的な利益を生み出すことを意識して商品設計しなさい」という言葉はこの会社を経営していく中での私のテーマです。

―今後の御社のビジョンをお聞かせください。

 現在、世界の人口の増加に伴い、建築物はどんどん新しい仕様へと変わっていっているにも関わらず、いまだに建設様式は旧式のままほとんど進歩していません。これにより現代の基準に合わせた住宅やビルの設計・建設をする際には以前よりもはるかに多くの人員と費用を費やすことになってしまうのです。 私たちの将来のビジョンは、図面管理から建設様式を進歩させ、非効率な作業が生み出す費用や作業効率の低下を解決することです。現場の生産性を向上させることで、建設業界の発展に貢献していきます。



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