ソフトウェア企業のエンジニアリングチームは、ユーザー体験に最適な機能をスピーディに開発する必要がある。だがこれまで、リリース前のプロダクトを検証する機会は限られていた。こうした課題に対し、ユーザー体験やパフォーマンスのデータを取り込み、機能の検証ができるテストプラットフォームを提供するのがSplit Software(以下、Split)だ。あらゆる条件を組み合わせたテストをすることよって、ソフトウェアの開発を加速し、インパクトを最大化することができる。とくにコロナ禍を経て、ソフトウェアのニーズは高まっており、急成長するSplitのCEO、Brian Bell氏に、その革新的ツールについて聞いた。

見る人によって異なるユーザー体験を与える

 ソフトウェアのエンジニアたちは、いつも「この機能をユーザーに届けたら、どういう反応が返ってくるだろうか?」または「ある特定の地域や年代層に届けた場合、反応はちがってくるだろうか?」など、最適なユーザー体験のために頭を悩ませている。Splitのサービスは、こうした開発者の悩みに応えるものだ。

 Bell氏は、これを「私たちは、ユーザーごとに異なる機能をオンにしたり、オフにしたりする『feature flags』という機能を提供しています。アプリケーションのパーソナライズによって、自分が見ている画面と、奥さんや友人の画面とでは、違って見えるかもしれません。feature flagsを使えば、ドロップダウンのメニュー変更をしたり、ユーザーの登録プロセスを変更したりするとどうなるかのテストすることができます」と説明した。

Brian Bell
Split Software
CEO
大学卒業後、日本の花王に3年半勤務した経験をもつ。その後Ping IdentityやZuoraなど、ハイテク企業で要職を務め、チームを成長に導いてきた。新興・ハイテク分野にてブランドマーケティングや、管理、製品開発、企業開発(M&A)などを歴任したのち、2019年にSplitにCEOとして参画した。

 ソフトウェアのプログラムコードにfeature flagsを追記すると、それによって処理や機能を振り分け、A/Bテストのような検証ができるのだ。これによって、開発チームは最適なユーザー体験の示唆を得ることができる。

 Meta(旧Facebook)やAmazon、LinkedInなど大企業は、マーケティング分野で使われてきたA/Bテストツールを、エンジニアリングチームが生かせるように自社開発している。Splitはこれを多くの企業が使えるツールとしてサービス化している。

 Splitの共同創業者でCTOのPatricio Echagüe氏は、もともとLinkedInの開発のためのプラットフォームを作っていた。これに加えてSalesforceが買収したRelateIQという企業でも同じようなものを作っていた経歴をもつ。どこのソフトウェア企業でもエンジニアリングチームが、似たようなテストツールを欲しているということを知り、それをビジネス展開できないかと2016年に創業したのがSplitだ。

あらゆる条件で機能のテストが可能に

 Splitのサービスは、単なるWebマーケティングのためだけのA/Bテストツールではなく、プロダクト全体を通じてさまざまなテストができる点が強みとなっている。

Image: Split Software

 競合他社との違いについてBell氏は、「当社がユニークなのは、他のソリューションに比べてずっとデータプラットフォームであるということです。パフォーマンスやユーザー・エクスペリエンスに関するデータを取り込み、属性付けして、ユーザーに何が起こったのか比較・測定ができます。強力な検証を可能にするプラットフォームなのです」と強調した。

 代表的なユーザーはTwilio、Salesforce、Qantas、LendingTree、Cisco、Roche、New Relic、Electronic Arts、TIAA、Experian、BlueCross、GoDaddyなど中堅〜大企業で、製品チームやエンジニアリングチームで利用される。

 サービス形態は、開発者の数、エンドユーザーの数、利用する機能のグレードで利用料金が変わるSaaS型をとる。現在は600社と契約しており、毎月2兆もの「feature flags」を処理するなど、この1年で経常利益は2倍にのぼるほど急成長した。

ソフトウェアのインパクトを最大化するのがミッション

 2021年8月、シリーズDラウンドでOwl Rock Capitalなどから得た資金5000万ドルは、開発やマーケティングにあてる。

 大手銀行やメディア、EC、ゲームなどの分野で需要が高まっているため、エンジニアの数をこれまでの2倍に増やし、開発をスピードアップさせるほか、カスタマーサクセスやセールス&マーケティングにも多くの人材を投入し、海外展開を拡大させていく考え。

 アジアではシンガポールの宅配サービス「GoGovan」が利用者のひとつだが、日本にはまだ進出していない。もしも日本に進出するなら、大規模エンタープライズ向けの実績のあるパートナーと組むか、ジョイントベンチャーを作ることを想定しているという。

 便利な「feature flags」だが、計測点が多くなりがちになるため開発者が混乱したり、設定をし忘れたりする課題があった。そこで最近、「それぞれの機能の成熟度がどれくらいなのか」「どの顧客に、どの機能がオンになっているか」など、ライフサイクル全体を通して機能がどの状況に置かれているのか分かりやすく管理できるダッシュボード「roll out board」を用意した。また、今後はMicrosoftが提供する開発支援ツールAzure DevOpsのようなアプリケーションのワークフローと統合させることも予定している。

 最後にBell氏は、長期的なビジョンについて次のように話した。

「私たちのビジョンは、プロダクト開発チームがソフトウェアを構築し、市場に機能をリリースする方法を大きく変えることです。今日のソフトウェアの価値の単位は機能であり、アプリケーションではありません。チームがより迅速に、より少ないリスクで、より大きなインパクトを持って機能を展開できるようにすることが、私たちのミッションです。だからこそ、私たちはこのプラットフォームを構築し続け、すべての人に使ってもらうことを目標にしています」



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