Image: chayanuphol / Shutterstock
地球温暖化、気候変動への対応として、二酸化炭素(CO2)の排出削減や、電動化、蓄電、エネルギーの効率利用など、Climate Tech領域の世界的トレンドとスタートアップ投資はますます加速している。脱炭素社会の実現に向け、国内外の脱炭素テクノロジー(ZET:Zero Emission Technology)関連スタートアップとの協業などをテーマに、3月に開催した「ZET New Japan Summit 2023 Kyoto」には、国内・海外のスタートアップ40社が登壇した。各社の事業概要を紹介する。日本スタートアップ第3回は、Bioworks、SPACECOOL、AC Biode、SyncMOFの4社。

【Bioworks】新しい社会と環境の循環を「素材」からつくる

Image: Bioworks HP

設立年:2015年
URL:https://www.bioworks.co.jp/

 Bioworks(バイオワークス、本社:京都府、英語表記:Bioworks Corporation)は、改質ポリ乳酸コンパウンド(PlaX)および製品の開発・製造・販売を展開する企業。

 PlaX(プラックス)は、サトウキビなどの植物を原料とするバイオプラスチック「ポリ乳酸(PLA)」に、同社が独自に開発した植物由来の添加剤を加えることで、品質と機能をアップデートしたカーボンニュートラルな新しい素材。石油由来製品の代替素材として幅広い展開が見込まれる。

 トウモロコシやサトウキビのデンプンから作られるポリ乳酸は、コンポスト環境下など温度・湿度・pHが揃うことで加水分解が促進され、微生物によって水と二酸化炭素に分解される。同社は独自開発の改質剤をポリ乳酸に加えることで品質改善に成功。PlaXから繊維を作り出す取り組みや、顧客の要望に応じたオーダーメイドの成型品開発を展開する。

 PlaXは、繊維化することで様々な生地に加工することができ、編み方や混紡する素材を変えれば生地の質感や機能性に多様なバリエーションが生まれる。繊維にすることでより発揮される機能として、乳酸由来の抗菌性、汗や生乾きのニオイも抑える消臭性、肌へのストレスを減らす優れた速乾性なども備えている。

 成型用樹脂への活用によって、石油由来のプラスチックが抱える焼却時の多量のCO2排出や自然分解されない埋め立てなどの課題解決につなげることができる。従来のポリ乳酸や他のバイオプラスチックの弱点でもあった耐熱性と透明性を同時に実現し、加工成形性も大幅に改善した。これまでのプラスチックで使っていた製造ラインを生かしながら加工することが可能という。

【SPACECOOL】ゼロエネルギーでの冷却により熱環境を本質的に改善する

Image: SPACECOOL HP

設立年:2021年
URL:https://spacecool.jp/

 SPACECOOL(本社:東京都、英語表記:SPACECOOL Inc.)は、大阪ガスが独自の光学制御技術で開発した放射冷却素材「SPACECOOL®」を製造・販売している企業。「世界に木陰の涼しさを」をビジョンに、放射性冷却素材を用いた人・モノ・社会の暑熱環境の改善をミッションとしている。

 同社の高性能、高耐久のしなやかな光学フィルムは、太陽光と大気からの熱をブロックし熱吸収を抑えるだけではなく、宇宙に輻射も行うことで熱を捨て、ゼロエネルギーで外気より低温にする新素材となっている。これにより、室内・体感温度の低下を可能にし、消費電力の削減につなげ、快適性、安全性を向上させ、脱炭素社会への貢献につなげる。

 この技術をもとに、フィルム、膜材料、ターポリン・キャンバスを展開している。同社によると、これらの製品は放射冷却素材の夏場性能で、外気気温より2〜6℃下げ、冷却能力は70〜100W/㎡と、体感温度としての涼しさを提供できる。

 様々な形状に加工できるため、多様な用途への使用が可能となる。ターゲットとする用途として、工場や倉庫などの建築物、トラックの荷台・バスなどのモビリティ、屋外盤・蓄電池・キュービクル・基地局などの屋外機器、テント・カバー、サンシェード・パラソルなどを挙げている。

 例えば、屋外機器の場合、屋根・外壁面に同社のプロダクトを施工することで、日射及び内部発熱による電子機器の劣化を抑制し、故障トラブルやメンテナンスのコスト低減が期待されるという。倉庫・工場などへの導入の場合は、室内の環境温度の上昇を抑制し、冷却コストとCO2の排出を削減につながり、熱中症の予防や保管品質の向上も見込まれる。

【AC Biode】廃プラスチックを低温低圧でケミカルリサイクル

Image: AC Biode HP

設立年:2019年
URL:https://www.acbiode.com/plastalyst.html

 AC Biode(本社:京都府)は、材料科学、化学、エレクトロニクスがベースのスタートアップ。化学技術により、地球の温暖化ガス削減と海洋プラスチックはじめグローバルなごみ問題解決・リサイクル率向上への貢献を目指している。

 同社は京都けいはんなに研究所を構え、ルクセンブルク、英国にも展開している。交流電池・回路開発や、廃プラ解重合触媒等の開発を手掛け、発電所や下水汚泥の灰を吸着材等にリサイクルする「CircuLite(サーキュライト)」を商業化し、国内外に展開している。

 AC Biodeの化学触媒「Plastalyst(プラスタリスト)」は、ポリマーをモノマーに分解することで、リサイクルが難しいプラスチックを焼却炉や埋め立て地に送るのではなく、分解してリサイクルすることができる。

 通常、プラスチック廃棄物の処理には、大規模な業者のみが利用できる高熱焼却が必要で、ごみ分別の課題や、ダイオキシン、温暖化ガスの問題もある。同社のPlastalystでプラスチックを低温でモノマーに解重合することによって、ごみ焼却に伴う温暖化ガスの排出を大幅に削減することができるほか、海洋プラスチックなどの汚染を防ぎ、循環経済につなげる。現在、同社はPlastalystにおいて触媒の最適化、実験のスケール化を実施し、実証実験、商業化を目指している。

 このほか、CircuLiteを活かした灰アップサイクル事業では、タイ、豪州、オーストリア、カザフスタンなどから受注を受けている。同社の技術は、スイスのソーラーインパルス財団が発信する、クリーンで収益性が高く「質的な成長」を実現すると評価された「効率的なソリューション」にも選ばれている。

【SyncMOF】可能性を秘めた 多孔性物質MOF/PCPと産業分野への応用

Image: SyncMOF HP

設立年:2019年
URL:https://syncmof.com/

 SyncMOF(シンクモフ、本社:愛知県、英語表記:SyncMOF Inc.)は、新規多孔性材料の合成及び製造/性能評価/性能評価装置の開発及び販売などを展開し、ありとあらゆるガスの分離・貯蔵に関わる総合エンジニアリングを目指す名古屋大学発スタートアップ。

 MOF (Metal Organic Framework) / PCP (Porous Coordination Polymer) / NPC (Nanoporous Complex)は、ナノメートルサイズの細孔を有する結晶性の固体で、ゼオライトや活性炭に代わる次世代ナノポーラス材料。同社は、次世代ナノポーラス材料の開発と、それらを利用した新しいガス利用システムを提案している。

 同社によると、MOFは金属イオンと有機配位子を自由に選定し、自在にナノサイズの空間を設計できるという利点を持つ。ターゲットとするガス分子のサイズや化学的な性質に応じて、ナノ空間の構造や性質を設計することが可能なだけではなく、生体タンパクのように柔らかく構造を変化させて分子を取り込むような動的特性も設計することが可能という。

 SyncMOFは、①MOF/PCPの小さな孔にガスを吸着させることで分子を規則正しく高密度に配列することができ安定・省スペースでガスを貯蔵・運搬が可能、②MOF/PCPは孔の性質を自在に変化させ、特定の物質のみを吸着し分離する性質があり、新しい分離技術で低エネルギー分離システムの開発が進行、③MOF/PCPの中に反応性の高い金属イオンを組み込み、吸着した分子に触媒として作用し反応を促すことで、吸着した分子を目的の分子に変化させ取り出すことが可能、という「貯蔵」「分離」「触媒」の性質を活かし、様々な産業への応用を提案する。



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