なでると尻尾を振って応えるクッション型セラピーロボットや、指を口に入れると程よい力加減で甘噛みしてくれるロボット。一般的なロボットの概念から少し斜めに逸れた、しかしながら暮らしに自然と溶け込むような製品を世に送り出すロボットベンチャーがユカイ工学(本社:東京都新宿区)だ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのアート集団、チームラボの共同設立者であり、ロボット開発への思いの強さからユカイ工学の創業へと舵を切ったCEOの青木 俊介氏に、アイデアの源泉やロボティクスがもたらす未来の社会の姿について聞いた。

甘噛みロボットの「甘噛みハムハム」(ユカイ工学提供)

「誰が何と言おうと、私は欲しい」を形に

―個性的な製品を生み出し続ける秘訣を教えてください。

 新しい製品を生み出す時、自分たち自身が最初のユーザーでなければならないと考えています。世の中の「誰か」の課題を解決しようとしても、自分が当事者でなければ解像度が低くなりますし、どの会社がやっても同じものになってしまう。自分たちが作る意義や独自性を打ち出すのが難しくなってしまいます。

 言葉を変えると、「自分たちの妄想を形にしよう」ということです。自分たちの妄想からスタートし、「他の誰が何と言おうと、私は欲しい」というものを作れば、少なくとも自分たちはユーザーです。そして、そういう熱気の高いユーザーが集まってきてくれます。そのような戦略でものづくりをするのが、私たちの特徴です。

 ただ、商品を作った時には、ユーザーへの届け手となる販売店の方にまずたくさん見ていただき、価格や流通チャネルなど多面的にフィードバックをもらったり、シリーズものであれば既存ユーザー向けのファンミーティングでプロトタイプを触ってもらったりしています。妄想から生まれた製品をそのままユーザーへ届けるのではなく、客観的に検討してブラッシュアップするプロセスを必ず挟むようにするためです。

青木 俊介
Co-Founder & CEO
東京大学在学中にチームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立(現代表取締役)。'15年よりグッドデザイン賞審査委員。'21年より武蔵野美術大学教授。

家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」、共感するファミリーロボット「BOCCO emo」、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」、小さなしっぽクッション「Petit Qoobo」エデュケーションシリーズkurikit「ユカイな生きものロボットキット」などを発表。

―ビジネスモデルと売上比率について教えてください。

 自社製品を開発するプロダクト事業の売上が約3分の1、残りがロボットプラットフォーム事業とBtoBのソリューション事業です。今後はロボットプラットフォーム事業を売上の柱として大きく伸ばしたいと考えています。

―各事業ごとのユカイ工学の強みとは、どのような点でしょうか。

 プロダクト事業の強みは、まさに「妄想」の部分で、ユニークなアイデアをデザイナーとエンジニアのチームで商品化できること、そして販売するノウハウを持っていることです。国際的なデザインアワードの「Red Dot Award」や「iF DESIGN AWARD」、日本のグッドデザイン賞などの受賞実績があり、例えば、尻尾のついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」は4万匹以上の出荷実績があります。デザイン・開発・製造・販売まで一貫して行えるスタートアップはあまりないのかなと思っています。

尻尾のついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」(ユカイ工学提供)

 ソリューション事業の受託開発では、社内にデザイナーとエンジニアが在籍して密に連携できるため、スピーディーかつコストを抑えて開発とデザインができるのが一つの特徴です。デザインや設計ができるという企業は多いですが、製品化のノウハウまで持っている企業は意外と少ないです。

 当社には電機メーカーで長年量産を担当していたエンジニアが在籍し、量産品向けの設計や生産工場の選定、物流や販売後の修理・交換などのユーザーサポート。そしてマーケティングの一環としてクラウドファンディングを活用してメディア向けに販売前から打ち出していくサポートも行えます。これらを一貫してサービスとして提供できる点が大きな強みだと考えています。

 ロボットプラットフォーム事業においても、デザイナーとエンジニアの連携によるハードウエアの開発が強みになりますが、さらにサービス提供の部分も構築できるのが特徴です。

コミュニケーションロボット「BOCCO emo」(ユカイ工学提供)

 例えば、コミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコ・エモ)」にはスマートスピーカーと同等の音声認識マイクを搭載し、Wi-Fiとの接続が可能です。またLTEでの接続にも対応し、Wi-Fi環境のない独り暮らしのお年寄りの家庭でも使えます。Bluetooth接続に対応した専用センサーを搭載し、Bluetooth経由で体重計や血圧計などのヘルスケアデバイスと連係が可能です。ChatGPTをはじめとした対話AIなどとも接続できるようになっています。

 さまざまな技術要素を組み合わせたロボットをベースにカスタマイズすることで、ロボットプラットフォームの資産を活用してスピーディーにロボット開発ができる環境を提供しています。具体例としては「BOCCO emo」を使った、セコムが提供するシニア向けのコミュニケーションサービス「あのね」があります。

image: ユカイ工学

共にサービスをグロースさせるパートナーとの提携を指向

―東京ガスや住友生命、東洋製罐グループホールディングスなど数々の大企業と提携・共創事例がありますが、今後はどのような展開を考えていますか。

 すでに行っている共同開発による製品化でも、単純に作って終わりという協業はしていませんし、これからも同様です。当社が一番役に立てるのは、BtoCビジネスのノウハウがなかった企業が新規事業を始める時や、ハードとソフトが統合したIoTサービスを提供するノウハウが必要な時だと考えています。

 当社の持つ技術をモジュールとして組み合わせることで、ロボットをスピーディーに形にしたり、クラウドシステムを活用したりして、共同のサービスを成長させるところまで一緒に携われるパートナーとの協業を今後も行っていくつもりです。

―海外展開についてお聞かせください。

 経済産業省が、高い技術力や優れた事業アイデアを持つ日本のスタートアップ企業を選出して海外へ派遣する「中堅・中小企業等イノベーション創出支援プログラム(飛躍 Next Enterprise)」で、2019年にシリコンバレー派遣企業となるなど、海外向けには積極的にチャレンジを続けています。

 中国、香港、タイ、シンガポールでは現地の販売店代理店経由で自社プロダクトの販売も行っています。クラウドファンディングでも北米やヨーロッパへの出荷実績があります。また北米向けにAmazonでの販売も行っています。ラスベガスで開催される、電子機器の業界向け見本市CESにも2021年から毎年出展しています。

大学仲間とチームラボ設立、6年後にユカイ工学を創業

―ロボットやAIへの興味の発端は映画「ターミネーター2」だったと伺いました。

 中学2年生の時に、あの映画に登場する自我を持ったAI「スカイネット」を見て、とにかくAIを作りたくなったのが興味の始まりです。その後、高校時代に到来したインターネットのブームに乗ってそちらへと興味が移り、東京大学に入ってからはホームページ制作やプログラミングのアルバイトを始めました。当時のクラスの仲間らと一緒に「インターネットで何かしよう」と2001年に立ち上げた会社がチームラボです。チームラボでは6年間、CTOとして仕事をしていましたが、「人と共生できるロボットを作りたい」という思いと憧れが強くなり、2006年に会社を辞めて、2007年にユカイ工学を創業しました。

―起業された当時と現在とでは、テクノロジーにまつわる状況や空気感もかなり違ったのではないでしょうか。

 当時、ロボティクス界隈では、オープンソースソフトウエアを活用し、ベンチャー企業のような小さな企業でも何十万人、何百万人というユーザーが利用できるサービスを構築できるようになった時期でした。オープンソースのソフトだけでなく、オープンソースハードウエアの「Arduino(アルデュイーノ)」が登場したのもこの時期です。2005年に開催された愛知万博で、トヨタやホンダのような世界的企業だけでなく、ロボットベンチャーが自社開発のロボットを出展しているのを見て、ハードウエアとそれを操るソフトウエアもオープンソース化されていけば、小さな企業でもロボットが作れるようになるのでは、と思ったのが起業のきっかけです。

―創業当初はどのようなハードルに直面しましたか。

 共同創業者と2人でいきなり事業を始めて、右も左も分からない状態でしたし、CADソフトが高額でロボット設計にも多額の投資が必要な時代で、あらゆる面でハードルは高かったです。まずはIPAの未踏事業に応募して、開発資金の提供を受けたり、企業経営者や大学の教授をメンターとして指導を受けたりしながら、さまざまな試作品作りに挑戦しました。

―そのときの経験で現在にも生きていることはありますか。

 メンターの1人に、ヒューマノイドロボット開発で有名な大阪大学の石黒浩教授がいました。当時から石黒教授が描いていたビジョンは、今で言うIoTそのもので、「人とやりとりをするインターフェースがロボットの最大の役割だ」という思想でした。私たちのものづくりも、その思想に大きな影響を受けています。

人間は意思の弱い生き物だから

―今後の事業展開や目標について教えてください。

 直近の目標は「BOCCO emoプラットフォーム」のように、当社のロボットをプラットフォームとして、さまざまな企業がサービス単位で利用し課金できるようなサービス展開を目指しています。イメージとしてはガラケーのi-modeのように、自分たちで独自のロボットプラットフォームを構築し、さまざまな企業がロボット上でサービスを自由に選べる形です。

 産業用のロボットに代表されるように、これまでのロボットは生産性を高め、効率を上げるのが主な目的でした。私たちが作るロボットは日常生活のなかで、人間に寄り添う存在を目指しています。

―長期的にはどのような社会課題の解決をイメージされていますか。

 65歳以上の1人暮らし世帯の高齢者は、2025年には700万世帯を超えると予測されています。その社会課題の解決をサポートできると思います。高齢者だけでなく現役世代にもロボットがサポートできることは、たくさんあると考えています。ロボットならではのインターフェースが、人を元気づけたり、勇気づけたり、モチベーションを維持させて行動変容につなげることができます。

 人間は意志の弱い生き物で、習慣付けを自分でできる人はごくわずかだと思います。私自身もお酒を控えようとか、早めに寝ようとか、毎日体重計に乗ろうとか、思っているのになかなか習慣付けができません。睡眠習慣や定期的な服薬、ダイエットや英会話学習といった継続性が求められる行動を続けるときに、誰かに寄り添ってくれる相手が必要なのは、高齢者に限ったことではありません。世代を超えて、パートナーとして日常的に伴走できるロボットを提供することで、「ロボティクスでのウェルビーイングの実現」を将来的な大きな目標としています。



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