デジタルの力で介護業界が抱える課題の解決を目指すウェルモ(東京都港区)。介護事業所などの詳細情報を介護に関わる人へ共有する「ミルモネット」、AIがケアプランを作成し、ケアマネジャーの業務をサポートする「ミルモぷらん」など、ICTと先端技術の力で介護ワーカーをサポートし、質の高い介護を実現するためのサービスを展開している。社会課題に取り組む社会起業家として一般のビジネスコンテストでの受賞歴に加え、省庁が主催するコンテストなどでも多数の受賞を重ねている、創業者で代表取締役会長兼社長の⿅野 佑介氏に、事業とビジョンについて聞いた。

起業前の8カ月間、介護現場で無給のフィールドワーク

―鹿野様が起業を志した経緯を教えてください。

 人口減少時代を迎える中で、日本が生き残るためにはどのような国家戦略が必要かという課題を大学時代から抱き、人事領域の仕事に興味を持っていました。バブル期に、経営者だった祖父と父の苦労ぶりを見ていたので、起業はしたくないと思っていました。新卒時には企業向けソフトウェア開発のワークスアプリケーションズへ入社し、人事部向けITコンサルを担当していました。

 しかし、仕事は楽しかったものの、決められたことをやり続けるよりもミッションドリブンな生き方をしたいと思うようになりました。そこで社会課題を解決する事業を行う会社を作ろうと考えたのがウェルモ創業の発端です。

―介護という非常に大きな社会課題に目を向けた理由をお聞かせください。

 少子高齢社会で介護の役割はますます重要になります。その一方、介護業界は離職率が高く、現場の負担も大きいままです。この状況を改善し、働き続けられる持続可能な業界へ変えたいと思いました。そのため、介護業界の課題を解決すると覚悟を決めて、現場を理解するためのフィールドワークとして介護事業所で無給で働くことから始めました。

 東北から福岡まで、全国各地の現場に入り、介護に関連するさまざまな職種の方にヒアリングしたり、地域による介護現場の違いを学んだり、地域の行事に参加して高齢者や地域の人たちとお祭りでボランティアをしたりと、生活費に充てられる貯金がなくなるまでの8カ月間をかけてフィールドワークを行いました。その経験と知識を元にウェルモのサービス設計を行い、2013年4月にウェルモを設立しました。

⿅野 佑介
代表取締役会長兼社長
一般社団法人日本ケアテック協会 会長、 東京大学 高齢社会総合研究機構 共同研究員。大阪府豊中市出身。ワークスアプリケーションズにて人事領域のITコンサルタントを経て東証一部上場企業人事部へ。8カ月間にわたり、仙台から東京・福岡まで、計400法人を超える介護事業所にてボランティアやインタビューを実施。現場の働きがいに課題意識を持ち、2013年ウェルモを創業。Forbes JAPAN 2018 NEW INNOVATOR 日本の担い手99選出。

創業以来一貫して介護業務のDXを推進するサービスを提供

―御社が展開する4つのサービスについて、概要を教えてください。

 現在は「ミルモネット」「ミルモわーく」「ミルモぷらん」「居宅内モニタリングサービス」という4つのサービスを軸に、高齢化社会における介護の課題をデジタルの力で解決するための事業を展開しています。

 2013年12月に、タブレットによる地域ケア情報見える化端末ポータル「ケアタブ」β版をリリースしました。2015年から提供している利用料無料の地域ケア情報見える化サイト「ミルモネット」の前身にあたります。

「ケアタブ」リリース当時は介護保険が利用できる事業者の情報が整備されておらず、行政の持つデータベースは住所の一覧のみ、というケースも少なくありませんでした。そこで住所のほか、介護保険内・保険外での提供可能サービスや、事業所やスタッフの写真など、利用者のニーズに適切な事業者を選ぶために必要な情報をケアマネジャーや包括支援センターの方が探しやすいかたちで提供する、いわば「介護の食べログ」のようなサービスです。現在では「ミルモネット」として全国約420の自治体で利用され、地域によってはほぼ100%、低い地域でも70〜80%のシェアを獲得しています。

 また、2016年にケアプラン作成支援AIの研究開発を始め、厚労省やさまざまな自治体との実証実験を経て「ミルモぷらん」として2021年からサービス提供を開始しました。自社開発した自然言語処理技術に基づくAIを活用し、ケアマネジャーによるケアプラン作成を支援するクラウドサービスです。

 2018年12月から、東京電力パワーグリッド、エナジーゲートウェイと共同で、家電製品ごとに電気の使用状況の変化をリアルタイムに検知するため、分電盤周辺に専用の電力センサーを設置する等のIoT技術を活用し、高齢者の見守りサービスやケアプラン作成をAIアシスタントで補助するサービスの事業化を目指して実証試験を開始しました。現在は、独居高齢者の居宅内に電力センサー等を設置し、家電製品を利用する際の電力データを基にAI技術を用いて高齢者の生活行動を推定し、生活リズムが逸脱したときのアドバイスや定期レポートで、日々の生活をサポートするシステムを開発しており、居宅内モニタリングサービスとして製品化を目指しています。

 創業以来ケアマネジャーをはじめとする介護職の業務フローのDX化を続け、昨年の年間売上高は数億円規模にまで拡大しています。

image: ウェルモ

―一貫して介護領域の課題解決に挑み続ける理由は。

 介護で働く人たちは「人と寄り添う」「人と向き合う」というワードをとても大切にしています。この姿勢は、功利的な資本主義経済の思考と対極にあるスタンスです。つまり介護業界が大切にしていることは、今の社会に欠けているものだと思います。企業ビジョンとして「あたりまえの幸せを、すべての人へ」と掲げているのは、介護で働く人たちの思いに共感したからです。

 介護業界は給与は低いですが、他業界と比べても感謝されることの多い「感情報酬」が大きな仕事です。もし感謝する感情を重視しない社会が続けば、誰もお互いに共感しない、孤独で無味乾燥で多様性の乏しい未来がその先に待っているでしょう。そのような未来を変えるためには、経済合理性と感情報酬の数値化を織り込んだインセンティブシステムを内包した資本主義経済を作る必要があると考えています。だからこそ介護業界の課題に取り組むことが、私のライフワークになっています。

―「ミルモネット」は非常に高いシェアを獲得されています。強みはどこにあるのでしょうか。

 全国規模で展開している同様のサービスはほかには見当たらない上、データ項目数が非常に多く、最大300項目をカバーしています。この情報量の豊富さが利用しやすさに直結しています。小規模な介護事業所はWebサイトもなく、現地に看板もないところがほとんどで、ケアマネジャーが情報を得るには足を運んで現地を見学しないと、提供できるサービスも質も分かりません。

 半径数キロという送迎可能な範囲に100軒以上の介護事業所があるような地域では、利用者の状況と事業者の提供できるサービスを、片っ端から電話で聞いて確認する必要がありました。介護事業所のデータを網羅することで、その手間を減らし、これまでは見つけられなかった介護事業者の情報を得られるようになり、情報の非対称性の解決と業務効率の改善をサポートしています。

image: ウェルモ

介護業界の構造的課題解決に向けたロビイング活動も

―鹿野様は政策提言などロビイング*も積極的にされています。法整備の必要性は高いのでしょうか。
*企業が利益団体から政府や国際機関に働きかけをすること

 当社が取り組む介護領域には構造上の課題も多く、2〜3年で利益を出せるものではありません。ケアプラン作成用のAIの研究開発だけでも5〜6年かかっていますし、介護用のシステムを開発するにも介護業務とITとに精通する人材が必要で、その育成にも非常に長い時間がかかります。

 さらに介護業務に関するIT関連の法律がまだまだ整備されていないという問題もあります。医療機器と異なりケアテックは保険収載されておらず介護保険法の適用を受ける必要のあるITサービスの承認フローもシステム的にしっかりと確立されていないため、まず法律作りや機構作りから始めなければならないのが現状です。

 働き続けられる介護業界へと変えていくには、介護が労働集約型産業という前提で設計されている介護保険法を変え、人がやらずにすむことはAIやロボットに任せる介護業界のDXを国の方針とするロビイングも欠かせません。

 今年6月に閣議決定された「骨太方針2023」で介護サービスのIT化・見える化のためのDX推進が明言されましたが、介護保険へどう織り込んでいくかはまだ着地点が見えていませんし、介護現場への変化はまだこれからです。DX推進を介護保険適用にどう着地させるかが、国内にあるケアテック企業の成長に大きく影響する要素になると考えています。

経営資源に応じた提携・協業は積極的に行いたい

―すでに多くの大企業と提携・協業の実績がありますが、今後の提携や協業戦略について教えてください。

 提携のスタンスは、資本業務提携を前提にしています。当社はまだ小さな企業で人的にも資金的にもリソースが潤沢とはいえません。例えば、大企業なら5年間くらい利益を出さずに研究開発できますが、それだと当社は倒れてしまうので、こちらが介護領域でのノウハウや技術を提供し代わりに手出しの少ないスキームであれば、拡販や業務委託、提携でも歓迎しています。

 投資家を募る際は、中・長期のスパンで共に考えられる投資家集めが重要だと考えています。現在の株主に大企業が多く入ってもらっているのもそのためです。

―最後に社会起業家を志す方に向けてメッセージをお願いします。

 社会課題の解決をビジネスとする道のりは、普通のビジネスよりもマネタイズの難易度が何倍も高いものです。私自身が実際にビジネスを行ってきた経験からも「既存ビジネスでは絶対勝てる」と思えるくらいのビジネス力が必要で、それを持ってしても勝てない領域が社会起業領域だと思います。私たちがロビイングを行っているのも、政治を巻き込んでいかないとビジネスモデルとして成り立たせるのが難しいからです。

 それほどに社会起業家として生き抜くには、一般の企業家以上のシビアな判断が要求されます。しかし、マネタイズしづらいからこそ、才能のある人やすでに起業に成功している人に手がけてほしい領域です。

 あと、社会起業領域には社会や人のためを思って行動できる人が多いと思います。そういった志のある方々とのかけがえのないつながりを得られたことは、人生としてこの領域で仕事を続けてきて良かったと思う点です。



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