Image: maroke / Shutterstock
総合保育支援サービス「ルクミー」を展開するユニファ株式会社(本社・東京都)。保育施設でのIoT、AIを活用した見守りサービスや、子どもの写真撮影・販売など、子どもの安全・保護者の安心とともに、保育施設の業務負担軽減といった社会課題の解決を支えている。創業者で、代表取締役CEOの土岐泰之氏は、2017年にスタートアップ・ワールドカップ第1回大会で優勝するなど、国内外で注目される起業家だ。社名の由来は「Unify(1つにする)+ Family(家族)」。「テクノロジーの力で、もっと家族を豊かに」をミッションに掲げる土岐氏に、ユニファの成り立ちや今後の事業戦略を聞いた。

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保育園に通う子どもとの会話から、事業を着想

――土岐さんのバックグラウンドと、ユニファ創業の経緯をお教えください。

 新卒で総合商社の住友商事に入り、ベンチャー投資やスタートアップの事業開発に携わりました。その後は外資系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーやデロイトトーマツにいました。

 結婚し、子どもが生まれ、共働きをしている中で、育児や子育て、家族のあり方に悩みが生じていました。そんな中、配偶者の仕事の関係で、愛知県豊田市に引っ越しをしました。学生の頃から起業したいという想いがあり、家族をテーマにビジネスをやっていこうと、2013年に起業しました。

 起業のきっかけは、子どもです。子どもが保育園に通っていた3歳くらいのときなんですが、「今日は何して遊んだの?」と夕食を食べながら話をしていると、だいたい笑顔で「忘れた」と言うのです。その時に、もし保育園の写真が1枚でもあれば「今日これで遊んだんだね、誰と遊んだんだね」と、会話のきっかけになるのになと思いました。

土岐 泰之
ユニファ
代表取締役 CEO
2003年に住友商事に入社。リテール領域などにおけるスタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、外資系戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーやデロイトトーマツで経営戦略・組織戦略の策定と実行支援に関わった。2013年にユニファを創業。2017年、世界から1万社以上が参加したスタートアップ・ワールドカップ第1回大会で優勝している。

 当時LINEが流行り始めていて、これからはクローズドなコミュニティが流行るだろうという事業としての読みもあり、身近に最もクローズドなコミュニケーションの課題があると父親として感じました。両親だけでなく、おじいちゃんおばあちゃんも皆そう感じているのではないかと思ったのです。

 保育士さんが子どもたちの写真を撮り、それを保護者に共有するのはすごく手間だと理解していました。ならば、保護者と保育現場の両方のペインを同時に解決できるプロダクトがビジネスアイデアとして面白いのではないかと思い、保育士さんがスマホで撮った写真が自動でアップロードされて、それを保護者もしくはおじいちゃんおばあちゃんが見られるサイトを立ち上げたのです。

Image: ユニファ

写真販売からヘルスケアIoT事業、サービス広がる

――開発に加え、保育園への提案など、セールス活動はどう展開されましたか?

 配偶者の仕事のために豊田市に引っ越したということもあり、周りに友達がいるわけでもなく、開発以外は自分で全部やっていました。オフィスもいわゆるシェアオフィスで、そこにいらっしゃる方に片っ端から声をかけて仲間を募りました。

 正社員になってほしかったものの、ゼロからプロダクトを作った経験はなかったのでエンジニアの方との業務も経験がなく、皆すぐに辞めてしまうなど、当時はいろいろ苦労しながらプロダクトを作っていきました。

――そこからおよそ9年を経て、現在は大きく成長されていますね。どのようなサービスを展開されていますか。

 サイトの立ち上げ当時は、園内での写真サービスのみでしたが、だんだんと保育現場での課題が見えるようになりました。そこで、お昼寝の間にお子さんたちの様子を見守るためにIoTセンサーを使ったり、体温を測ったら連絡帳に連携したりするなど、ヘルスケアIoT事業をサービスに取り入れました。もっとさまざまな情報をクラウドにまとめられるようにライバル会社でもあったリクルートグループからキッズリーという保育ICT事業を買収しました。

 現在は写真とヘルスケアIoTとICTをひとまとめにし、1つのプラットフォームの中でさまざまなデータが連携されるプロダクトになりました。導入件数も累計で1万1000件を超えました。国内の保育施設の数が5.6万カ所と言われていますので、業界でも存在感を示せるようになったと思っています。

保育園側の費用は抑えても、ECで収益を確保できるビジネスモデル

――基本的なビジネスモデルや、競合に対する優位性についてお教えください。

 大きなポイントは3つあります。1つはまず、プロダクトがワンパッケージであることです。保護者向けの物販や写真のECもあり、IoTを使ったバイタルデータも集まれば、ICTのドキュメントソリューションの全部ができるということです。全て内製です。しかもデータ連携を単一のプラットフォームでできている会社は我々だけです。

 2点目は営業面です。他社さんはどうしてもデジタルマーケティングを使ったオンラインのインサイドセールスだけというケースが多いと思います。しかし我々は園長と信頼関係を築いているような販売代理店とかなり深い関係があるので、現地に行き、場合によってはそこがアフターサポートも含めてやってくれるというような、そういった安心感のあるカスタマーサクセスの体制を作れています。

 3点目はビジネスモデル上の優位性です。我々のビジネスモデルの売り上げの半分は、保育施設からICT事業として料金をいただくのですが、残りの半分は写真の販売など、保護者から支払っていただいています。基本的には保育施設側の負担は一定で、保護者もしくは、おじいちゃんおばあちゃんがたくさん写真を買ってくださるので、ビジネスモデルはBtoBと、BtoBtoCのところで融合できている、という点が大きなポイントです。

 マーケットシェアを伸ばそうとすると、保育施設側に潤沢な資金がない場合もありますので、導入価格を下げながら、最終的なBtoBtoCでグロースするというモデルなのです。

Image: ユニファ

――写真販売のボリュームが大きいのですか。

 コロナ禍によって、写真の販売が伸びました。我々は子どもたちの写真だけでも1億枚以上の写真を持っているので、これを使ってさらに付加価値を提供したいと思っています。たとえば、お子さんの顔を認識し、心理面や視線の分析をして「この子は最近、この絵を描いている」「こんな絵本を読んでいる」といった興味関心を推測することで、保護者に向けて最適な絵本や教材を提案するなどのサービスも構想しています。

 コロナ禍では、ヘルスケアIoTの面でも需要が高まりました。非接触型サービスが注目され、体温測定や登園の管理に活用されています。マーケットシェアや事業を伸ばせている実感がありますね。

――システムを内製しているとおっしゃっていましたが、テクノロジー面で他社に負けない分野はありますか。

 顔認識の部分に関しては、3年以上前から内製のR&Dのチームで独自の開発を進めており、かなり良いものができています。乳幼児に特化していますので、大人の顔認識とは違ったかなり特徴的な部分のアルゴリズムが必要になります。そこの部分は他社と比べて我々の精度の方が優勢であるところまできています。

Image: ユニファ

 保護者の方々は写真を注文する際に、数千枚の写真の中からでも自分の子どもの写真を見つけなければなりません。また、保育士の方々も撮り漏れがないか、また1人の子どもの写真が多くないか偏っていないかなどの確認にも使えますので、我々のビジネスにとって非常に強い部分だと感じています。

 2022年には、顔認識のアルゴリズムを刷新しますので、それに基づくレコメンドの精度がぐっと上がるだろうと思いますし、新たな付加価値を提供できると考えています。

アジア諸国への事業拡大も狙う

――社員数や開発メンバーの割合はいかがですか。2022年はどのような目標を掲げていますか。

 現在正社員は170名くらいおりまして、エンジニアのメンバーは50名くらいです。3割くらいが外国人で、世界中からエンジニアに集まってもらって開発を進めている状況です。

 事業としては、アナログのままでいる保育施設がたくさんありますので、できる限り支援をしてシェアを拡大していきたいと思っています。写真だけでなく、より付加価値を高めていく部分で支援をしていきたいです。保育施設は、以前にも増して保護者からも選ばれる存在にならなければなりません。我々が現場を支えるだけでなく、保育施設の経営パートナーになっていければと思っています。

 その先に、やはり保育施設がもっと子どもの育児支援ができるようになれればと考えています。子どもの食育や発達、教育の支援といった部分は保育施設から家庭につなげていくべきだと思っています。そのために、データをもとに、お子さんたち1人ひとりに合わせた育児支援をやっていきたいですね。

 時間はかかると思いますが、日本のみならず、海外にも進出していきたいです。実はもうシンガポールの保育施設からはお話をいただいています。

 アジアの保育施設の数はシンガポールだけでなく、ベトナムやインドネシア、インドなど、どんどん増えている状況です。JAPANスタンダードの質の高いチャイルドケアといった「スマート保育園」のコンセプトを、アジアを中心にぜひ浸透させたいと思っています。

――アジアに目を向けると、すごく広い市場のように感じます。日本においても共働き家庭が増えて、これからも保育への需要は高まっていく状況でしょうか。

 日本での保育施設のIT化はまだ始まったばかりですので、成長が続いていくと考えています。国内にもグローバルにも、強い競合がいない状況です。

 子どもたちの状態をセンシングしていくと、0歳児から何が好きなのか、どういう健康状態なのかなど、子どもたちの「声なき声」を可視化できるようになります。スタートアップ・ワールドカップというピッチコンテストで優勝したのも、チャイルドケアにおけるAIの可能性に期待してもらえたのだと思っています。

保護者から選ばれる保育施設になるために

――すでに多くの企業とコラボレーションされていますが、今後はどんな企業とのパートナーシップが考えられますか。

 紙おむつや哺乳瓶、教材の大企業さんと組ませていただいている状況にあります。今後は、保育業界や自治体などの領域でのアライアンスが必要だと感じています。例えば、保育施設のITインフラなどを提供されている業種の方々とのアライアンスが考えられます。また、データ活用の観点でのパートナーシップも重要だと感じています。

 基本的には「保護者から選ばれる保育施設になっていく」というのがホットなテーマになっていますので、それに関わるさまざまな新しいサービスや取り組みはどんどんリリースをしていきたいなと思っています。

Image: ユニファ

――最後に、御社の長期ビジョンを教えてください。

 保育業界は、日本も世界もDXが本当に進んでいません。その本質が単なる現場の業務効率化ではなく、子どもの周りにいる大人たちがもっと笑顔になったり幸せになったりして、価値を高めていくことを実現していきたいです。

 最終的に子どもの教育の質を上げ、家族の幸せを見出していくことが、業界のDXの意味だと思っています。家族の幸せにつながる活動を、世界中で実現したいというのが我々のパーパス(存在意義)です。

 この活動を愚直にやり続けたいと思っており、保育施設だけでなく、小児科医や、場合によってはベビーシッター、小学校など、さまざまな点と点をつなげていきたいです。そして、子どもたちが自分では言えない興味関心や健康状態など、「声なき声」をとらえられる、世界ナンバーワンのプラットフォームを実現していきたいです。

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