image: VectorMine / Shutterstock
アグリテック・フードテック市場は、コロナ禍における過大な評価額の揺り戻しなどを背景に、厳しい資金調達環境に直面している。成長分野として期待されていた植物工場分野では資金繰りが難航し、複数の有望なスタートアップが事業停止に追い込まれるという状況だ。今回の記事では、まず前半でTranslink Capitalでフードテック領域などを専門に投資する内田 知宏氏にアグリテック・フードテック市場の現況をうかがい、後半で逆風下でも注目すべき3つの領域と注目スタートアップを紹介する。(本文中は敬称略)

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目次
アグリテック・フードテックを取り巻く環境
アグリテック・フードテックで注目すべき3領域
TECHBLITZが選ぶ、農業・フード関連スタートアップ5選

アグリテック・フードテックを取り巻く環境

―アグリテック・フードテック市場の厳しい資金調達環境に直面しています。具体的な数字で見ると、どういった状況でしょうか。

内田:アグリテック・フードテック市場は、過去数年で最も厳しい資金調達環境に直面しています。2023年の世界全体の調達額は156億ドルで、2022年の305億ドルから半減し、過去6年間で最低となりました。ディール数とサイズも前年比で25%〜30%減少しました。

―アグリテック・フードテック市場の市況が厳しい背景には、どういった要因があるのでしょうか。

内田:この厳しい環境の要因として、コロナ禍で過大に評価された額が是正されたこと、規制や承認が多くスケールに時間がかかること、消費者からの健康懸念が払拭されにくいことが挙げられます。さらに、世界的なインフレも影響している。特にフードテック企業は新しい技術を持ちながらも国からの助成金が少なく、単価が高くなりがちです。そのため、インフレーションが進行する中、消費者はより安価な選択肢を求めており、企業は苦戦を強いられています。

 この状況は2024年後半も続くと予想され、今年度いっぱいは2023年よりも一段と評価額の是正やブリッジファイナンスでの調達が増える見込みです。

内田 知宏
Partner
慶應義塾大学で経済学の学士号を取得。2001年に日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)に入社し、キャリアの中で建設技術およびスマートビルディング分野における事業創出などをリードした。現在はTranslink Capitalでパートナーを務め、エンタープライズ向けのソフトウェア / SaaS企業および持続可能性に重点を置いたフードテック企業などに投資している。

―アグリテック・フードテック市場の今後の見通しについて教えてください。

内田:アグリテック・フードテック市場は厳しい資金調達環境が続くと予想されます。この領域が将来にわたり成長していくためには、各国の助成金の拡大と承認フレームワークの整備が必要で欧州連合(EU)、米国、イスラエル、シンガポール、韓国などで取り組みを始めていますが、各国の足並みはまだそろっていません。

 厳しい資金調達環境が続きますが、今後2年間で規制や承認の整備が加速する見込みです。この環境下で、規制や承認に先行して対応でき、顧客に明確なROIを提供できる企業を見つける競争が続くと考えられます。

 従来のセンサーを用いた農業管理システムや代替食品など多くのカテゴリは明確なROIを打ち出すのに苦戦する一方、特定の有力なROIが望める領域への投資集中が進むと予測されます。例えば、栄養源の新たな製造方法となるバイオエンジニアリングフード、人手不足をカバーする農業用ロボティクス植物性タンパク質と培養技術のハイブリッドなどは今後も注目していきます。

アグリテック・フードテックで注目すべき3領域

ここからは、内田氏が注目領域として挙げた「バイオエンジニアリングフード「農業ロボティクス」「植物タンパク質と培養技術のハイブリッド」について海外の注目スタートアップの事例を中心に見ていこう。

バイオエンジニアリングフード

 バイオエンジニアリングフードは、遺伝子組み換え技術などを用いて作られた食品を指す。米農務省は「特定の組換え技術によって変更された検出可能な遺伝子物質を含む食品、また従来の育種では作成できない、もしくは自然界に存在しない食品」と定義しており、米国では法律でバイオエンジニアリングフードであることを示す表示やQRコードなどによる詳細情報の提供が義務付けられている。

 例えば、イスラエルで2020年に設立されたImagindairyは、精密発酵プロセスやAI、機械学習、分子生物学を統合したテクノロジーで、タンパク質と動物性原料不使用の乳製品を生産している。本物の乳製品に限りなく近い品質を実現する一方、乳糖 (ラクトーゼ) が含まれないため、乳糖不耐症やアレルギーがある人でも安心して乳製品の美味しさを楽しめるというメリットがある。

image: Imagindairy社LinkedIn

農業用ロボティクス

 農業用ロボティクスは、労働力不足の課題解決に欠かせない技術として注目されてきたが、近年はAIと機械学習の統合やセンサー技術の進歩、ロケーション技術の向上、マニピュレーション技術の発展などにより急速に進化している。

 米国で2018年に設立されたCarbon Roboticsは、AI搭載のトラック型自動レーザー除草ロボットを開発している。ロボット制御技術やLiDAR搭載により昼夜を問わず稼働することが可能で、除草方法も炭酸ガスレーザーを使用して、熱エネルギーで耕作地の雑草を根絶することができるというユニークなものだ。

 同じく、米国で2017年に設立されたTerraClearは、AIを活用した農地の除石ソリューションを開発。既存のトラクターなどに「Rock Picker」と呼ばれるロボットを取り付けることで、搭載された複数のカメラがリアルタイムで前方の石を正確に識別して拾い上げ、1時間に最大400個の石を拾うことができる。

image: TerraClear HP

植物性タンパク質と培養技術のハイブリッド

 植物性タンパク質と培養技術のハイブリッドは、従来の植物性タンパク質を基にした代替肉製品と、細胞培養技術を組み合わせたアプローチ。

 比較的新しい技術分野だが、例えば、2021年にカナダで設立されたMaia Farmsは、バイオマス発酵で作るキノコの菌糸体由来のタンパク質を開発。代替肉やスナックなどに活用している。微生物を使った方法よりも高い収穫量が見込め、動物性タンパク質よりも低コストでの大量生産を可能だといい、植物由来タンパク質とブレンドした「CanPro」という消費者向け製品も提供している。

image: Maia Farms HP

TECHBLITZ編集部が選ぶ、農業・フード関連スタートアップ5選

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1.Maia Farms キノコの菌糸体ベースのタンパク質を代替肉やスナックなどに活用

Maia Farms
キノコの菌糸体ベースのタンパク質を代替肉やスナックなどに活用
設立年 2021年
所在地 カナダ バンクーバー
 美味で高栄養なキノコの菌糸体ベースのタンパク質。世界中のタンパク質需要を満たす持続可能な方法として、キノコの菌糸体の活用が注目されているなか、同社はバイオマス発酵で作る菌糸体由来のタンパク質を開発。2024年5月、Pre Seedで$1.7Mの資金調達を実施。同時に、Canadian Space Agency (カナダ宇宙庁) などから助成金 (金額非公表) を獲得。
image:Maia Farms

2.Bluewhite 複数の自動農業マシンを一元管理

Bluewhite
複数の自動農業マシンを一元管理
設立年 2017年
所在地 イスラエル テルアビブ
 トラクターなど数種類の自律走行フリートを管理し、農業全体を自動化するためのプラットフォーム。Intel、NVIDIA、Renaultといった大企業や、Cornell大学、イスラエル農業開発省などの大手機関が顧客。
image:Bluewhite

3.Burro 農作物の運搬を助ける協働ロボット

Burro
農作物の運搬を助ける協働ロボット
設立年 2017年
所在地 米国 ペンシルベニア州 フィラデルフィア
 農作業において収穫物や用具の運搬作業を手助けする協働ロボット。2024年1月、Toyota Venturesなどによる$24M (シリーズB) の資金調達を実施。同資金は製品ラインの拡大などに使用する予定。
image:Burro

4.TerraClear AIで農地の除石のピッキングを効率化

TerraClear
AIで農地の除石のピッキングを効率化
設立年 2017年
所在地 米国 ワシントン州 イサクア
 AIを活用し農地の除石を効率化するピッキング / マッピングソリューション。2024年4月に$15.3Mの資金調達を実施。同資金は、販売組織の成長やOEMメーカーとのパートナーシップの成長に使用する予定。
image:TerraClear

5.Carbon Robotics レーザーで除草するトラック型ロボ

Carbon Robotics
レーザーで除草するトラック型ロボ
設立年 2018年
所在地 米国 ワシントン州 シアトル
 AI搭載のトラック型自動レーザー除草ロボット。ロボット制御技術やLiDAR搭載により昼夜を問わず稼働する。2024年5月、NVIDIAのベンチャーキャピタル部門NVenturesから$85Mの資金を調達。
image:Carbon Robotics

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