TableCheck(本社:東京都中央区)は、飲食店向けのネット予約・顧客管理システムと、ユーザー向けの飲食店検索・予約ポータルサイトを提供するスタートアップだ。同社が提供するシステム「TableCheck」は、リアルタイムの空席情報を把握し、多言語対応で海外ゲストも集客するのと同時に、店頭での会計が不要のコンタクトレス決済やキャンセル対策機能も充実。世界展開を図り、有名ホテルチェーンやミシュランガイド掲載店にも利用され、月間予約人数は200万人に迫る。代表取締役社長CEOの谷口 優氏に、同社の事業の革新性や将来展望について聞いた。

レストランのネット予約普及を確信、日本発のレストランテック企業を創業

――TableCheckの創業の経緯を聞かせてください。

 大学卒業後、クレジットカード決済代行会社に勤めたのですが、そこでさまざまな業界のビジネスモデルを裏側から見ることができました。例えば、ホテル業界では、ネット予約が普及する前は、英語や中国語を話せるスタッフを常に電話の前に置いておかなければならなかった。さらに、急なキャンセルが発生しても、予約客からキャンセル料を取れないという問題もありました。特に、海外からの予約客にキャンセル料を払ってもらうとなると、コストも手間もかかるので泣き寝入りせざるを得ない状況でした。

 しかし、私が勤めていた頃に急速にネット予約が普及し、電話の前に人を置いておく必要もなくなった上に、予約時にクレジットカード情報の入力を必須にすることで、キャンセル料回収問題も一気に解決しました。飲食店も同様の問題を抱えていますので、今後ネット予約が主流になるのは間違いないと確信しました。実際、サンフランシスコの人気レストランを予約しようと電話したら、店のスタッフに「ネットで予約してくれ」と電話を切られた経験もあり、日本発のレストランテック企業を創業したのです。

谷口 優
代表取締役社長CEO
1984年生まれ。神奈川県出身シンガポール育ち。帰国後、16歳から働き始め、大学検定試験で早稲田大学政治経済学部に入学。2007年、国際的な統合決済管理プラットフォームCyberSource日本法人(VISAの100%子会社)に入社。営業・リーガル・経営企画など様々な業務に携わり、2010年よりEnglish OK(ピクメディアに社名変更)の新規事業立ち上げに参画。2011年、TableCheck設立。

――創業後、事業は順調に軌道に乗ったのですか?

 いえ、全然順調じゃなかったです(笑)。ベンチャーキャピタルなどに話を持っていっても、われわれのビジネスモデルの将来性を理解してもらえなくて。レストランの予約はネットでするのが当たり前になるというのは、私にとっては自明だったのですが、当時のベンチャーキャピタルに断られた理由の95%ぐらいが、「レストランではネット予約は流行らない」というものでした。百聞は一見に如かずで、実際にそういう状況を体験していない人に、ネット予約が当たり前になる世界観について納得してもらうのも難しく、システムの開発コストだけがどんどん出ていく状態が続きましたね。

――そのような状況が好転したきっかけは何だったのですか?

 最初に出資してくれたベンチャーキャピタルのJAFCOは、ヒルトンホテルが「TableCheck」を採用したので出資を決めたそうです。外資系のグローバルホテルブランドは、ネットによる宿泊予約が当たり前になっているので、レストランのネット予約も受け入れられやすかったのです。彼らは国ごとに予約管理システムを変えるのは非効率なので、全世界で使えるシステムの中から数を絞り込んで採用しています。そのうちの1つに選ばれたのが大きかったですね。

グルメサイトに払うコストをカットし、無断キャンセルもほぼゼロに抑える

――「TableCheck」の機能やビジネスモデルを教えてください。

 まず、レストランを取り巻く環境ですが、以前は電話予約や直接来店される方が多かったのですが、その後ネット予約が普及して「食べログ」や「ぐるなび」などのグルメサイトからの予約が増えました。さらに、今ではグルメサイトよりもGoogleやInstagramなどでお店を探して予約するのが主流になりつつあります。そうなると、お店はいろいろなチャンネルに対応しなければならず、手書きの台帳やエクセルで予約管理をするのはもはや不可能になっています。

 そこで、われわれは電話からネットまで、すべての予約と顧客情報が一元管理できるシステムをクラウドサービスとして提供する「TableCheck」を開発したのです。利用料金は、グルメサイトのような予約1件ごとの課金ではなく、お店の席数に応じて月額の固定費用をいただく形になっています。

 また、インバウンドのお客様も増える中、18カ国語に対応し、24時間365日、海外からの予約も自動的に受け付け、取りこぼすことがありませんし、電話予約でもネット予約でもキャンセル対策ができる業界唯一の「キャンセルプロテクション」機能も搭載しています。これは、予約受付時にクレジットカード情報を取得することで、ドタキャンや無断キャンセルが発生しても、キャンセル料を確実に請求できるため、それによってキャンセル自体が劇的に減るという効果も得られます。

 さらに、非接触型決済サービスの「コンタクトレス決済」は、会計時の手間を不要にします。今までは、会計の際にクレジットカードを出して、情報をカードリーダーで読み取ったり、サインをしたりしなければなりませんでした。われわれが提供するサービスでは、予約時にお客様にカード情報を登録してもらうことにより、お店のスタッフが「TableCheck」の管理画面で請求金額を打ち込むだけで決済が完了し、領収書もオンラインで自動発行されます。お客様は会計時に待たされることもありませんし、お店の方は忙しい営業中に会計に時間や人手を取られることもなくなります。

 この決済ソリューションに関しては、例えばカード会社の決済手数料が3%だとすると、われわれはお店から4%の決済手数料をいただき、カード会社に3%の手数料を払います。その差額の1%が我々の利益になる形です。

――TableCheckの収益は、席数に応じた定額制のサービス利用料と、1%の決済手数料ということですね?

 薄利多売ですね(笑)。でも、これまでお店はグルメサイトなどに月に数万円の広告費を払っていたのに加えて、ネット予約の登場によってさらにその予約手数料も払わなければならなくなり、どんどんコストがかさんでいます。当社は以前、あるグルメサイトの代理店をやっていましたが、そのサイトは8%もの手数料を取るので、これでお店がやっていけるのかと心配になるほどでした。

 ところが、店のオーナーたちは「大丈夫ですよ。そのサイトで予約・来店したお客さんには、割高な食材を使わないとかボリュームを減らすとかしてコストを下げてますから」と言うんです。それを聞いた時に、このままでは誰の得にもならないと痛感しました。そこで、お店とお客様に利益が還元され、両者ともにハッピーになれる世界を作りたいと思ったのです。「TableCheck」から予約すれば、お店にも最小限のコストしかかかりません。

――素晴らしい理念だと思います。「キャンセルプロテクション」も、お店にとってはありがたい機能だと思います。

 無断キャンセルする予約客の多くは、知り合いと人気店で食事したいからと、とりあえず先に予約を入れてしまうんです。ところが、その知り合いに連絡したら、予定が合わないというので、予約の取り消しもしないまま放置する。そうなると、お店にとっても大きな損失になるのはもちろん、本当にそのお店で食べたい人が予約を取れなくなるし、損失分が料理の値段に価格転嫁されるかも知れない。一部のマナーの悪い人のせいで、お店もお客様も不利益を被るわけです。

 ある焼肉の人気店では、以前はキャンセル率が50%にも達していましたが、当社のシステムを導入してからキャンセル率がコンマ数パーセントにまで劇的に下がりました。本当にそのお店に行こうと思って、ちゃんとスケジュール調整をしたお客様たちが、予約することができるようになりました。今後はグルメサイトも含め、すべてのレストラン予約サイトがこういう機能を実装すべきだと思いますね。

image: TableCheck

優れた機能で自動化・最適化を実現。グローカリゼーションで世界展開

――ほかに「TableCheck」の導入によって大きな効果が表れたお店の事例などを教えてください。

 店内に船と生け簀があって、そこで自分が釣った魚を料理してくれる人気の居酒屋チェーンがあるのですが、以前はグルメサイトで集客・予約管理をされていて、1店舗当たり毎月数万円の手数料が発生していました。チェーン店全体で見るとかなりの額を支払っていたわけですが、「TableCheck」の導入により、手数料という形でのコストを払わずに済むようになりました。

 また、このお店にはインバウンドのお客様もたくさん来られますが、無断キャンセルも多く、それも悩みの種でした。しかし、「TableCheck」導入後は、無断キャンセルの被害はほぼゼロになっています。加えて、このお店では来店日の前日にお客様にリマインドの電話もされていましたが、「TableCheck」には来店前に自動的にショートメッセージでリマインドメールを送信する機能がありますので、予約確認の時間も4分の1以下に抑えられました。結果的に、客単価や席効率が向上し、利益率が大幅に上がったという声をいただいています。

――効果絶大ですね。お客様がGoogleなどからお店を予約される際には、御社のインターフェイスを通す形になっているのですか?

 APIも提供しています。Googleの場合は、裏側で当社のAPIとつながっていて、Googleでお店を検索した時などに表示される予約ボタンをクリックすると、当社のシステムで予約データが作成されるようになっています。Instagramも、予約の問い合わせがDMでたくさん来て、お店側がそれに対応するのがとても大変だったのですが、当社が裏方となり、Instagramのお店のプロフィールページから予約ができるようになりました。その他、ミシュランガイドのウェブサイトなどは、掲載店舗の画面から直接「TableCheck」の予約ページに飛ぶようになっています。

――競合他社もいるかと思いますが、御社のビジネスの強みはどんな点にあるのでしょうか?

 競合は世界にもいますし、日本にも数社ありますが、日本の同業他社は国内マーケットがメインであるのに対し、われわれはグローバルマーケットで戦おうとしています。その際に、われわれが重視しているのが、ローカライゼーションです。グローバル企業がよく失敗するのは、進出国でグローバルスタンダードに則って事業展開しようとして、そのスタイルがその国に上手くはまらなかった時です。食に関しても、国によって顧客の行動パターンが違いますので、当社はローカルのPOSベンダーなどと連携し、市場開拓を進めています。

 当社のもう一つの強みは、自動化と最適化をキーワードに、きめ細かにプロダクトを設計しているところです。予約台帳のデジタル化などを売りにしている競合もいますが、デジタル化したからといって、お店のオペレーションが自動化・最適化されるとは限りません。「TableCheck」はそれを実現するためのさまざまな機能を搭載していますので、世界的に見ても優位性のあるサービスを提供できているのだと思っています。

――コロナの影響も受けたと思いますが、業績の推移はいかがですか?

 2020年度は若干売上の伸びが鈍化しましたが、当社はコロナ下でも成長を続けていて、今期は50%程度の成長率を見込んでいます。現在は、海外の売上が15%、日本の売上が85%という内訳ですが、月当たりの新規申し込み店舗数を見ると、海外が1に対して日本が3といった感じで、海外事業がだいぶ育ってきました。5年後ぐらいには、海外の売上が日本を上回るようになってもらいたいですね。

image: TableCheck HP

世界中のレストランとカスタマーをつなぐ架け橋となり、世界制覇を狙う

――御社の今後の事業展開、将来的なビジョンについてお聞かせください。

 当社は「Dining Connected 世界中のレストランとカスタマーをつなぐプラットフォーム」をミッションとして掲げており、両者の架け橋になることが当社の最終目標です。ともすると、われわれのビジネスは、レストラン向けの業務管理システムを提供しているだけのように思われがちですが、実際はレストランだけでなく、消費者の利便性も向上させるサービスを提供しているんです。これまでは、スムーズにネット予約ができるお店を増やすために、まず多くのお店に当社の予約管理システムを導入していただくことに注力してきましたが、今後は消費者向けの機能やサービスをどんどん拡充していく予定です。

 将来的には「TableCheck」というプラットフォームで世界制覇したいですね。これまで世界の時価総額ランキングのトップ50に入った日本企業は、すべてモノづくりの会社でした。もちろん、それが悪いわけではありませんが、IT産業がこれだけ大きく成長しているのですから、ぜひ世界に通用する日本発のITサービス企業になっていきたいと思っています。

――御社は大きなポテンシャルを秘めた事業を展開されていますが、御社に関心を持たれている企業とどのような協業ができるかという点も含めて、メッセージをいただけますか?

 今後、当社は消費者向けに様々なバリューをお届けしたいと考えていますので、海外ユーザーを含めて消費者へのリーチをお持ちの企業などとの提携を強化していきたいですね。例えば、航空会社さんと組んで、来日される海外のお客様に機内のモニターでレストランを紹介し、その場で予約もできるようなサービスを提供したら面白いんじゃないでしょうか。アイデアはいろいろありますので、「世界で勝負をする」というわれわれの志に賛同いただける会社がありましたら、ぜひお話させていただきたいです。



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