企業が銀行・金融サービスを、APIベースで自社のソフトウェアに組み込めるデジタルプラットフォームを提供するWeavr(本社:イギリス・ロンドン)。ユーザーは、銀行との接続や本人確認、金融詐欺監視などの仕組みを考えることなく、銀行口座やクレジッドカード、その他金融サービスを自社サービスに統合して実行できる。「プラグ・アンド・プレイ・ファイナンス」と呼ぶ同社のサービスや業況について、共同創業者でCEOのAlex Mifsud氏に聞いた。

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コンピューターサイエンスの研究・指導者から、フィンテック起業家へ

 Mifsud氏は1995年にThe University of Edinburghでコンピューターサイエンスの博士号を取得し、1999年まで研究者・指導者として母校のUniversity of Maltaで勤務していた。2000年代に入ると、自身が持つスキルをベースに起業するべく金融の世界に足を踏み入れる。

「自分の技術を生かして決済や銀行業務を行うことで、多くの問題を解決できることを発見したのです。最初に創業したEntroPayという会社では、VISAのスキームを使った欧州初のプリペイド式の仮想クレジットカードを作りました。インターネットによって世界中どこでも対応する決済ソリューションを作ろうとしたとき、プラスチックのカードは必要ないことに気づいたのです。このビジネスを世界中で展開しました」

Alex Mifsud
Weavr
Co-Founder & CEO
1984年から1989年にUniversity of Maltaで電気工学を学び、コンピューターエンジニアとしてキャリアをスタートしたのち、1995年にThe University of Edinburghではコンピューターサイエンスの博士号を取得。1990年~1999年までUniversity of Maltaの研究者としてコンピューターサイエンスを教える。
2002年にはヨーロッパ初の消費者向け仮想プリペイドカード提供するEntroPayを共同創業しCEOとなる。2014年にはB2B決済を提供するIxarisを創業。より簡易に金融サービスを提供するべくWeavrを2018年に設立し、2020年に本格的に事業を開始した。
Weavrは企業が金融サービスを迅速かつ効率的に統合できるようにするプラグ・アンド・プレイ・ファイナンスを提供。サプライヤーへの支払いや従業員の福利厚生、経費管理などのデジタルアプリケーションにシームレスに統合できるようにする包括的な金融プラグインを企業に提供している。

 2002年に創業したEntroPayでリスクやコンプライアンスを管理しながらグローバルにビジネスを展開する経験を重ねたMifsud氏は、その知識を活かして、2014年に商業決済のための事業を行うIxarisを創業する。そこで、企業向けのバーチャルカードの提供を開始し、多国籍企業に展開した。なかでも旅行業界にフォーカスし世界最最大級の旅行代理店向けにサービスを提供していたという。2つのオンライン決済企業で成功を収めるなか、Mifsud氏は、決済ソリューション構築の課題を感じ、Weavrを創業する。

「それまで、大企業向けに決済ソリューションを構築する際は毎回ゼロからスクラッチでつくっていました。もっと早く効率的に構築できる方法を探していて、決済ソリューションのためのOS(オペレーティングシステム)を構築するというアプローチを思いついたのです」

「たとえば、Appleのアプリストアにアプリを提供する場合、iOSの機能を使えるので開発が楽になりますね。銀行や決済システムでも同じようにしたいと思ったのです。幸運なことに、研究資金をHorizon 2020 Fund(EUの助成制度)から得ることができ、それを商業化したのがWeavrです」

すぐに金融サービスを統合できる「プラグ・アンド・プレイ・ファイナンス」

 決済ソリューションのためのOSとはどのようなものだろうか。たとえば、Uberのような配車アプリでは、消費者やそこで働くドライバーが金銭をやりとりするための決済や報酬支払いの機能が統合されている。提供しているのは配車サービスで、金融そのものが目的ではないが、ユーザー体験のなかに金融サービスが統合されているのだ。一方、海外旅行に行く際に航空券や宿泊先の予約は旅行代理店で行うが、通貨の両替や保険は別の企業で手続きする場合もある。旅行代理店は、顧客の旅の行き先がわかれば必要な通貨や保険も提案できるはず。それが実現すれば顧客体験はより滑らかでスムーズになるだろう。

 さまざまな金融サービスは異なる方法で扱われるため、アプリケーションへの統合にはコストも時間もかかるが、Weavrはそれを簡単にできるようにするツールを提供しているのだ。その対象顧客はソフトウェアアプリケーションを提供するすべてのデジタルビジネスで、Mifsud氏はいくつかの事例を紹介した。

「自動車向けの融資を扱う企業のアプリケーションでは、利用者は書類を記入するために販売店やディーラーに行く必要はありませんし、銀行に電話する必要もありません。車を買うという体験自体をWeavrのプラットフォーム上に構築しています。もう1つはB2Bの例で、従業員の福利厚生を行う企業です。医療や年金だけでなく、スポーツジムやNetflixの利用やランチ券の提供など、新しい福利厚生が増えています。これらすべての金融サービスをソフトウェアに統合するためにWeavrを利用しています」

 Weavrの収益モデルは、典型的なSaaSモデルで、プラットフォームへのアクセスと、API使用料から構成されている。会社設立は2018年だが、本格的にサービスを提供したのは2020年11月だ。Mifsud氏は、サービス開始以来、毎月20%前後の成長を続けており、ユーザー数も四半期ごとに倍増していると説明した。急成長の理由は、その利用しやすさだとMifsud氏は話す。

「サービスプロバイダーとしての銀行業務を提供する企業はありますが、データセキュリティのためのコンプライアンスやリスク管理のための顧客への警告など、利用する企業は多くの責任を負う必要があります。しかし、多くの顧客はこれらすべてのスキルを身につけることを望んでいません。私たちの金融オペレーティング・システムというアプローチでは、複雑なコンプライアンスやデータ・セキュリティの責任を私たちが担っていて、必要な機能をすぐに使えるようになっています。これが『プラグ・アンド・プレイ・ファイナンス』というコンセプトです」

 このコンセプトにより、これまで9カ月から12カ月かかっていたような金融サービスの統合を5週間で実現できるようにしているという。また、顧客がさまざまな事業領域でイノベーションを起こせることから、Weavrでは顧客のことを「イノベーター」と呼んでいる。自社サービスの改善に貪欲な顧客の存在も急成長の背景にあるのだ。

Image: Weavr HP

世界のどこにいても安全に取引できるグローバルなプラットフォームを目指す

 2022年2月に4000万ドル(約52億円)のシリーズAラウンドでの資金調達を果たしたWeavr。今後はマーケティングや営業、カスタマーサクセスの分野にも投資していく。2022年5月の取材時点で従業員は65名ほどで、毎月10名程度増えている状況にある。拠点は本社のロンドンに加え、英国内はニューカッスルなどに広がり、ベルリンやリスボン、マルタなどヨーロッパで幅広く展開している。これからはヨーロッパを超えて、アメリカ進出に注力し、2022年末にはアジア太平洋地域への展開も視野に入れている。

「日本は非常にエキサイティングな経済国です。プラグ・アンド・プレイ・ファイナンスの恩恵を受けられる社会のひとつだと考えていますので、パートナーを探さなければなりません。金融機関やデジタルエージェンシー、テクノロジーパートナーとの提携を楽しみにしています」

 製品としては、さらに多くの機能をシンプルに提供するための研究開発を行い、新たに生体認証の仕組みも容易に組み込める機能を提供するなど、プラグ・アンド・プレイ・ファイナンスのコンセプトを推し進めていく計画だ。

 Weavrの使命は、どんなアプリケーションにも金融サービスを提供すること。その長期的なビジョンは各地の金融機関と接続し、利用者が世界のどこにいても安全に取引できるグローバルなプラットフォームになることだ。Mifsud氏は読者へのメッセージとして次のコメントを残した。

「金融サービスは、サービスを集めることが好きだから契約したり利用したりすることはありません。何かのために必要だから契約するのです。老後の安心のための金融サービスを使いますし、休暇で旅に出かけるにもスーツケースに現金を入れて持ち歩く必要はありません。至る所に金融の需要があるのです。イノベーションを生み出す人たちは、顧客体験に金融サービスをどのように統合するかを考える必要があります。次世代の事業のために、このことを深く考えることは本当に価値があります」

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