目次
・「人の創造力」を可視化するツール
・企業に変革の勝ちパターンを提供する
・ゴールドマンサックス時代、リーマンショックで痛感したAIの弱点
・誰もが課題解決の一員であると伝えたい
「人の創造力」を可視化するツール
―意見やアイデアの価値を数値化する合意形成アルゴリズム「コンセンサスインテリジェンス(CI)技術」を開発しました。この技術を活用し、どのようなプロダクトを提供されていますか。
私たちのプロダクトの1つに創造力や課題発見・解決力を測る「デザイン思考テスト」があります。これは、与えられた条件の下、ユーザーの立場での「課題」と「解決策」を考え出す「創造セッション」と、参加者同士が相互に評価する「評価セッション」からなるオンラインテストです。提案されたアイデアは、ニーズが共感できるか、まだ実現されていないか、また、供給されていないが需要があるかどうかといった軸で評価されます。2つのセッションが完了すると、弊社が開発したCI技術(日米特許取得)により、デザイン思考力が数値化され、「デザイン思考スコア®」として算出されるのです。
デザイン思考テストは、大手企業の新卒採用やインターンの選考過程などでも使われており、学生の間でも認知度が高まっています。大学のキャリアセンターからの関心も高く、AI時代に必要なデザイン思考力を身につけるためのプログラムが増加しています。私もデザイン思考に関して大学での講座開設支援をしており、多数のセミナー依頼もいただいています。
また、デザイン思考テストのスコアをもとにDX人材の発掘・育成が一元管理出来る「DXクラウド」というクラウドサービスも展開しており、幅広い領域の企業様に導入いただいています。
もう1つのプロダクトが意見収集・分析ツールの「VISITS forms」です。これは意見の重要度をAI技術でランキング化できるツールで、組織変革やイノベーション創出などに活用できます。どの意見が信頼できるか、どのような特性を持つ人がどの意見に賛同しているかを分析し、AIで特徴やバックグラウンドを学習します。これにより、企業は組織内での意見の分散、価値観の違い、それらを生み出す背景を詳細に把握でき、適切なコミュニケーションや戦略立案に役立てられます。ビジネスアイデアの創出だけでなく、人材発掘や組織変更・マインドセットの変革など、幅広い用途に利用可能です。
事業開発や組織づくりにおいて、デザイン思考テストは主に個人の能力開発に焦点を当てています。しかし、個々人の能力向上だけでは組織の意思決定には不十分なので、多様な人材の知見をいかし共創するための「VISITS forms」の活用が重要です。私たちは、質の高いアイデアを生み出しながら、それを適切に整理し、組織全体が成長するためのご支援をしているのです。
image: VISITS Technologies
企業に「変革の勝ちパターン」を提供する
―デザイン思考テストとVISITS formsのビジネスモデルを教えてください。
デザイン思考テストは、個人受検と団体受検、法人受検が可能で、個人での受検料は税込4,950円です。定められた日程で申し込みができ、企業に関してはチケットをまとめて購入して社員に提供できます。
VISITS formsはシステム利用に加えて導入支援のコンサルティングサービスも提供しています。AI機能で多くの示唆出しはできますが、信頼性の高いランキングを出すために重要な設問設計や結果の読み解き方といった伴走支援はわれわれが行います。
さらに、変革をリードする人材が不足している場合、リーダーを選定し、育成するプランも提供しています。デザイン思考テストを通じて社内の適切な人材を選び出し、VISITS formsで企業の未来ビジョンや戦略、組織カルチャーについて意見を出し合い、フィードバックを交換するプロセスを支援するのです。このアプローチにより、リーダーたちは経営者と同じ目線で会社の将来を考え、部署に戻った際にそのビジョンを実現するためのチームワークを促進します。
―導入事例はどのような事例がありますか。
例えば、キヤノンマーケティングジャパン様は全社員1万5千人以上を対象にデザイン思考テスト、教育フレームワーク、およびVISITS formsを導入されています。これらのツールを活用して、まず社員の創造性を測定し、動画でアイデアの出し方を学んだ後、VISITS formsを用いてさまざまなテーマに対するアイデアを出し合い、フィードバックを交換しています。このプロセスを通じて、社員は多様な考え方を学び合うことができ、繰り返し実施することでテストスコアの向上などの効果を測定しています。
社内サーベイのツールをVISITS formsに置き換える動きもあります。サーベイによって集めた大量のテキスト情報を人間がすぐに理解したり、理解するために整理したりするのは大変ですよね。VISITS formsなら膨大な情報や社内の意見、大量のアンケート結果もAIが処理し、重要な情報が迅速に分かります。ある大手IT・通信ベンダー様は、VISITS formsを社内変革のために活用し、社内のタウンホールミーティングで何度もご利用されています。経営陣が現場との対話を図る際、社員が聞きたい内容を明確にするために、事前に議論したいテーマを挙げてもらい、後半のレビューセッションでは社員同士で意見を相互評価していただきます。評価結果を弊社の特許技術で分析すると、社員が本当に聞きたいと思っているテーマがランキング形式で可視化されるので、経営陣はこれを基に社員との対話を進めています。
なお、アイデア出しの会議を行うと、地位が高い人や声が大きい人の意見に左右されがちな課題がありますが、VISITS formsの評価は匿名で行われますので、何を言ったかに焦点を当て、明確な基準で判断できるのも大きなメリットです。ディスカッションする際には全参加者の視点が一致し、合意が共有され、会議の進行がスムーズになります。
―事業開発や、社内文化・マインド醸成に役立つツールということですね。
特許技術とこれまで蓄積したデータによって独自のサービスを提供しているのが私たちの強みです。全く同じことをしている競合は私の知る限りありませんが、社内サーベイツールを私たちのプロダクトに切り替えるといった動きはあります。それから、コンサルティングファームも競合といえますが、私たちのサービスは大手コンサルに比べてコスト効率が良く、お客様の社内にデータを蓄積し、将来にわたって活用することが可能です。また、多くのコンサルティングファームがレポート提供に留まるのに対し、私たちのサービスでは社員が自ら意見を出し合い、フィードバックを交換することで積極的な関係構築とモチベーション向上を促すことができます。
現在は、大企業の変革支援に活用されていますが、プロダクトに磨きをかけて、どんなお客様に対してでも変革を成功できる「勝ちパターン」のようなものを提供したいと考えていますそのためにも導入事例を積み上げて学習を重ねていきたいです。そして、データドリブンで企業の課題解決を進める新しい形のコンサルティングを提供したいと考えています。企業の戦略立案から組織づくり、実行支援までを一貫して提供していきたいのです。
image: VISITS Technologies
ゴールドマンサックス時代、リーマンショックで痛感したAIの弱点
―職業的背景や創業の経緯を教えてください。
大学院を卒業後、Goldman Sachsにてデイトレーダーとしてキャリアをスタートさせ、株式とオプション金利デリバティブのトレーディングに携わりました。ITバブルが崩壊した後、コスト削減のためにトレーディング業務の自動化が進められ、アルゴリズムを利用して熟練トレーダーの手法を学習させ、大幅な人員削減を実現しました。この経験を通じて、AIが業務自動化の未来を切り開くことを感じ取ったのです。
しかし、その後リーマンショックを経験し、AIが大規模な経済危機に対応できない弱点を持つことに気づきました。これは、AIが過去の統計データからしか予測できないため、統計的にまれな事象を過小評価することの影響の一例です。iPhoneの登場・普及のような破壊的イノベーションも、統計からは生まれません。このことから、AIでは再現できない人間の創造性や未来を描く力の重要性を理解し、これらの能力の育成が必要だと感じました。
「デザイン思考」は、共感から目的をデザインするという、コンピューターでは実現できないアプローチです。海外にはデザイン思考を教える学校が存在しますが、そこでの学びは属人的で再現性に欠けると感じました。学んだ人の中で能力の分化が生じ、普及が難しいと思ったのです。そこで、再現性のあるデザイン思考のフレームワークを独自に開発しました。
私たちが開発したCI技術は、評価者の信頼度に基づいてアイデアの重みを最適化するもので、日米で特許を取得しています。これは、被リンクされたページを評価するGoogleのページランクと似た考え方で、どのアイデアが良いか、どの評価者が優れているかを、相対的な信頼関係から求めることができます。これにより、多数決では見落とされがちな優れたアイデアや評価者を特定できるようになりました。
誰もが課題解決の一員であると伝えたい
―御社とのパートナーシップにはどのような形が考えられますか。
新たにコンサルティング事業を始めたい企業に向けて、私たちのサービスを活用いただくことができます。電通様とは、VISITS formsを応用した新規事業開発のコンサルティングプランを共同で開発・提供しています。金融機関などが顧客の課題に伴走するためのコンサルティングサービスを始めていますが、そこでも私たちのツールが使われています。顧客の課題が迅速に明らかになり、さまざまなサポートプランを提案できるのです。
また、人的資本経営やESG(環境、社会、ガバナンス)に対応したい企業にも貢献できるため、そのようなコンサルティングを考えている企業とのパートナーシップも考えられます。多様な意見の収集と共有により、社員の成長と良いアイデアの創出を促進し、適切な人材を育成しながら、透明性のある組織のガバナンスを実現します。このような取り組みによって、企業が変革に取り組む意欲のある人材を有していることを定量的に開示し、投資家へのアピールにもなるでしょう。
―最後に、長期的なビジョンと事業を通じて貢献したいことをお聞かせください。
働くことの意義や社会貢献を再認識し、それを加速させたいと考えています。従来は「労働=時間」を切り売りしてお金を得るという考えがありましたが、本来は会社のパーパスに沿って社会課題の解決に取り組むことが目的です。会社という集団で力を合わせ、知見や労力を集めて社会を良くする目的を達成することが大切ですが、多くの人がビジョンやミッションを忘れがちです。自分が何のために働いているのかを明確にすることで、仕事が楽しくなります。
自分が課題解決の一員であると実感し、仕事に対するクリエイティビティが高まり、アイデアを出す楽しさを感じるようになります。私たちは、働くことの意義や組織のビジョンと自分とのつながりを強化する取り組みを進めています。これにより、仕事を通じて成長やミッションの達成感を感じられるようになり、組織全体が活性化します。これが、弊社が提供したい価値の本質です。
私たちは自社だけでなく、さまざまな分野のパートナーと協力して事業を展開しています。技術開発やノウハウの提供を通じて、パートナーと共に社会に大きな価値をもたらしたいと考えています。そのためには、自由な対話が重要です。初めは協業の方法が不明確でも、議論を進めることで具体的な取り組みが見えてくるはずです。変革のアイデアを実現するために、志を同じくする方々と共創を進めたいです。