ECプラットフォームを提供しながら自社ブランドも運営
――林さん、花岡さんの職業的背景と、創業の経緯を教えてください。
林:元々は大阪でWebマーケティングをメインで扱う会社に勤めていました。営業からプランニングのディレクションまで担当し、ある程度関西でシェアを取ったところで東京支社を任されることになりました。支社の立ち上げを行った後は、自分たちでプロダクトやサービスを作りたいという思いが強くなり、新事業の立ち上げをやらせてもらえないかと会社に打診しました。しかし、企業体質的にそういうことをやる会社ではなかったので、だったら自分で会社を立ち上げようと思ったのがきっかけです。
花岡:私は大学を卒業したあと大手のSI企業に就職し、システムエンジニアとして4年ほど経験を積みました。その後、自分で事業を立ち上げたいと思うようになりました。
そんな時、中学時代からの同級生である林と数年ぶりに会って話したところ、林も会社を立ち上げたいと考えていることを知りました。私はエンジニアなのでプロダクトを作れますし、林はそれを売ることができるので、一緒に会社を立ち上げようという流れになり、2014年に創業しました。
――SUPER STUDIOのビジネスについてお教えください。
林:メインはecforceというEC向け基幹システムのサービスで、収益も主にecforceの従量課金や月額費用となっていますが、システムを提供するだけではなく、コンサルの領域や実務ベースでEC戦略を作っていく部分にも力を入れています。それができるのは、自社でブランドを持っているからです。私たちがメーカーになってアパレルや食品のECを運用しており、現在業界での高い認知を得ています。それを成立させるまでにはさまざまな商品を立ち上げ、自分たちでecforceを使って販売してきたという経緯があります。
また、ECを運用していく上でのその周辺のサービスにも注力しています。これはサプライチェーンの領域や物流コールセンター、商品を作る上でのOEMとのやり取りなどです。弊社にはブランドをECで運用していく上でのサプライチェーン周りのソリューションがあるのです。
SUPER STUDIOが今、ecforceを使っていただいているアカウントが増えてきている要因も、ただお客様にecforceを提供して終わりというのではなく、問い合わせの段階である程度お客様がどういう状態なのかヒアリングさせていただいて、ecforceをベースにプラスアルファで必要な要素を提供しているからです。販売していく上でのマーケティングの部分や、商品作りで困っている領域など、初期段階のテーマに合わせて提供できる幅が広いということが我々の強みです。
―ーそれぞれのビジネスモデルをお聞かせください。
林:ecforce自体(月額課金)と、商品のトランザクションまわりの支援サービス(コンサルティングなど)を提供するビジネスモデルです。コンサルティングはお客様の状態によって提供の形が異なります。しっかり月額費用をいただいて実務ベースで入らせていただく場合もありますし、マーケティングのパートナーを紹介する場合は特に料金はいただかずに、適切なecforceパートナーを紹介させていただいて、その商品やブランドのスケールに貢献させていただくというモデルになっています。
image:SUPER STUDIO HP
カスタマージャーニーを解像度高く理解し、必要なサービスを提供
――事例をいくつか紹介していただけますか?
林:システム面では購入導線がスムーズに設計されており、エンドユーザーが買いやすいUI、UXになっています。その観点で言うと、ecforceへ移行頂いたショップ3社については、導入後1年経過した時点でコンバージョンレートが380%アップしたというデータも取れています。
エンドユーザーに買っていただいたあとも、その購入者を分析した上で販売商品の改善を進めていくことや、購入者へのアップセルを促すことが非常に重要になってきます。弊社はそれに関する分析機能や、分析をした上で新たにCRMを仕掛けていき併買率やLTVを上げるための機能が優れているので、そういった部分での事例が多いです。
最近では規模の大きいエンタープライズ企業様からの問い合わせが非常に多くなってきています。ECサイトの運用は昨今非常に複雑化しており、幅広い分析に加えて、その分析結果をもとにサイトを継続利用していただくための施策を打てるかが重要視されてきています。その全てをまとめて精度が高く提供できるところが我々の強みです。そこが評価され、エンタープライズ企業様の導入事例が増えています。
――競合との差についてお教えください。
花岡:私たちは自社でブランドを運用していることもあり、ある種、自分たち自身も顧客の1人なのです。さまざまな調査や自社のECサイトのデータ分析なども行っていますが、日本のECサイトは特に「穴の空いたバケツ」になりがちだと感じています。メーカー側は、ECサイトに広告を流して新規の顧客を獲得し、そこからさらにアップセル、クロスセスをして収益を上げていくということを当然行いますし、我々自身もやっています。しかし、穴の空いたバケツにどれだけ水を入れてもどんどん抜け落ちてしまうのと同じで、メーカーとしては資産が何も積み上がりません。
獲得した顧客にブランドを好きになってもらい、継続利用していただくことが大事です。メーカー目線から見ると、顧客をいかに資産化していけるかということです。そういうところが、メーカーとして10年後、20年後にそのブランドが残っているかどうかを決めるんだと、社内でも口を酸っぱくして言っています。
ECサイトにおいては「かゆいところに手が届く」ことができるかできないかで、結果が0:1レベルで変わります。そこに対してしっかりとソリューションを提供できているところが、競合との圧倒的な差です。ECのためのシステム選定を誤るとメーカー自身の事業のボトルネックそのものになってしまうと痛感しています。
image:enforce HP
――事業の成長率と、成長の要因をお聞かせいただけないでしょうか。
花岡:従業員の数が、直近一年間で約60名増え、現在約250名強です。導入ショップ数も1,000社を超え、前年比約150%で増えています。SaaS型のECとしてはかなり成長していると考えています。
成長の要因は、プロダクトの圧倒的な優位性にあると思います。メインであるecforceは”カートシステム”ですが、ブランドを成長させていくとカート以外にもさまざまなツールを使うことになります。マーケティングオートメーションやチャットボット、データ分析周りのツールなどです。我々はそのカスタマージャーニーを解像度高く理解しているため、必要となるサービスをecforce Appsという形で次々に開発して提供しています。
例としては「ecforce efo」という購入導線を最適化するツールがあります。LINEのようなチャット型のUIに慣れている方が多いので、購入フォームをチャット型の応対式にすることで、購入導線が大幅に改善されます。また、「ecforce chat」はチャットボット形式で顧客からの問い合わせに応答するWeb接客自動化システムです。SaaSではありますが、機能を追加することであらゆるマーケティング戦略に適用できるような拡張性を持ったプロダクトになっています。その辺りが選ばれている理由かなと思います。
「コト・モノづくり」のイノベーションを起こして持続可能な生産環境を作る
――今後協業するとしたらどのような企業と関わっていきたいですか。
花岡:EC市場そのもののビジネスに与えるインパクトは非常に大きいので、システムのあり方としてもSaaS一強にはならないと思っています。SaaSの強みは初期費用がかからずお客様が最初から用意されたものを使ってもらえるところですが、一方で大きなエンタープライズ企業になってくると、どうしても固有のフルカスタマイズで自社専用機能が欲しいといったニーズが出てきます。そうした際に、SaaSのみでやっているとそれに応えられないことになります。
我々としてはそこに対して「ヘッドレスコマース」を提供していく方針です。我々のecforce自体がECのエンジンとなってAPIを提供し、このAPIを使ってSIerなどにカスタマイズのシステムを作っていただくのです。我々のヘッドレスコマースを活用して、より安価にスクラッチシステムを開発できる仕組みをプロダクトとしても目指しています。ですので、一緒にそういったサービスを提供していけるようなSIerやコンサル会社などとぜひパートナーを組みたいと考えています。
林:弊社は三井不動産と資本業務提携をさせていただいています。我々のメインはやはりEC領域なのですが、ユーザーファーストを重視しているので、必要があればオフラインを使うという選択肢も考えています。オフラインだけをやられている方々のECへの参入は増えてきていますが、そうなった時に重要なのは、オフラインでの体験を生かしてしっかりとECへの引き上げをする戦略を作ることです。そのために必要な機能を今構築しています。三井不動産の胸を借りつつ、しっかり作り込んでいきます。
――短期的なマイルストーンと長期的なビジョンをお教えください。
花岡:短期的なマイルストーンとしては、次世代EC構想の実現です。ECビジネスを最適化していく環境作りというのが次世代EC構想です。EC運営に必要な定常業務を全て自動化して、データを統合・管理して誰でも使えるようにしていきます。そうすることで、メーカーが商品開発や顧客の体験設計といった、より本質的な業務に向き合う時間を生み出し、豊かな「コト・モノづくり」を築けると考えています。
当社のパーパスとして、「コト・モノづくり」のイノベーションを起こすことで健全な競争環境や持続可能な生産環境をつくることを掲げています。モノづくりの現場を見ると、つくることへの情熱が強いからといって、それが売れるわけではなく、マーケティングが上手だから売れているという実態があります。これが悪いことではないのですが、どうしてこのような状況になるかというと、売るためのノウハウの情報格差、実行力に差があるからです。
我々は自らがやってきたことをノウハウという形でお客様に還元してこの格差をなくしていきたいと考えています。我々のプロダクト自身がマーケティングの強弱を民主化して、皆が同じ武器を持って戦える状態にしていきます。そうすることで、モノづくりの発展に必要な要素そのものがモノづくりの価値になっていく世界を目指しているのです。
林:ECサイトは”オウンド”の業態だけでなく、Amazonや楽天もありますし、今ではYouTube上で商品が買えるようになるなど、扱う場所が広がってきています。オフラインで買ったものをその場で受け取らずに家に配送してもらうというケースも増えています。ブランドとして行うべきことはたくさんあるので、どんな思想でいるかということはとても重要です。
我々はecforceという基幹システムがあるので、どうしてもシステムを提供する会社と思われがちですが、自社ブランドも持っていますので、全てのサービスに対応できるような体制をしっかり作っていきたいです。既にリリースしているプロダクト群からも、それをご理解いただける段階に来ているのかなと思います。