目次
・雰囲気にあったBGMで売上アップ⁉
・「Spotify Business」として創業
・日本進出を阻むライセンス問題の壁
雰囲気にあったBGMで売上アップ⁉
―Soundtrack Your BrandはBtoB向けの音楽ストリーミングサービスを提供しています。顧客は潜在的にこのようなサービスを必要としていたのでしょうか。
小売店や飲食店、サロン、ジムからしてみると、「店内で流れるBGM」はとても重要で、われわれのサービスは重宝されています。その理由は大きく分けて2つあります。第1に、著作権と価格の観点から。Apple MusicやSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスは、音楽業界に革命を起こしました。いつでもどこでも、消費者が自由に音楽を楽しめる環境はこれまでには考えられないものです。ただ問題は、ストリーミングサービスはあくまで一般消費者向けに解放された音楽であり、これを商業利用することは禁止されているところにあります。Netflixの動画を、映画館で流すようなものですから、小売店が従業員の個人アカウントから音楽を流すのは著作権違反なのです。
そこでSoundtrack Your Brandは「1億曲以上の楽曲を月額平均35米ドル」で商業用に解放しています。ストリーミングサービスを使わないとなると、ラジオを流すか音源を購入して店内で流すかといった選択肢しかありません。実際にわれわれの顧客である某世界的ブランドは、これまで世界中の4,000店舗にCDを直接送っていたそうです。当社の顧客であるNikeやMcDonald'sなどは世界中に膨大な数の店舗を運営していますから、ストリーミングサービスの利用がとても便利であり、コストカットにもつながります。
第2の理由は「店内で流すBGMと顧客体験の良し悪しには高い相関性がある」ことです。サービス業の96%が、顧客体験向上のために音楽を流しています。自社が打ち出したい雰囲気や日時に合わせて正しい音楽を配信することは、心地よい店内空間を演出する上でとても重要なのです。例えば、NYのブルックリンにある日本食レストランで、ギャングスタラップで有名な「ウータン・クラン」を流すと、お客様は困惑するでしょう。
そこで当社は、小売店の種類や雰囲気、お客様が来店する時間帯、天候に合わせた1,000以上のプレイリストを作成しています。このプレイリストは、機械学習とAIでキュレーションしており、効果が非常に高いのです。実際、あるレストランチェーンでは、当社のサービスを利用することで顧客の滞在時間が伸び、売上も9%増加したと報告されています。
―音楽で売上が伸びるとは驚きです。それほど、BGMの効果は侮れないものなのでしょうか。
当然ですが、お客様がお店に滞在する時間が長ければ長いほど、商品を購入する確率も高まります。別のレストランチェーンでは、普段は購入金額が少ない時間帯にアイスクリームやパイなどのデザートをお客様が買うようになったと言っていました。心地よい店内の雰囲気に身を委ねていると、ついつい色々な商品を買ってみたくなるものですよ。
image: Soundtrack Your Brand
「Spotify Business」として創業
―どんな経験をきっかけにSoundtrack Your Brandのビジネスを思いついたのですか?
Beats MusicでCOOを務めていた際、ありとあらゆる業界の方々が私のところにやってきて、「どうすればうちの店舗でストリーミングサービスを使えるのか」と尋ねてきたことがきっかけです。私はもともと音楽関係の仕事にずっと携わっていましたし、業界に対する情熱と、それが消費者に与える影響にも関心がありました。当時の経験をきっかけにSoundtrack Your Brandを創業した次第です。
―2013年に創業して丸10年が経ちますが、これまでに達成したマイルストーンにはどのようなものがあるのでしょうか。
2013年に創業した際は、Spotifyの資金が入っており、当初は「Spotify Business」という名前でした。2018年にSpotifyから独立し、現在の会社名になっています。今では世界75カ国でビジネスを展開しています。コロナ禍は世界中でロックダウンが実施され、一時的に苦境に陥りましたが、2022年夏以降は回復し、現在は50%の成長率を示しています。
われわれはスウェーデンのソフトウェア企業でコストベースが非常に小さいのも強みです。コロナ禍においても製品に磨きをかけることに集中する、我慢の経営を実践できました。
image: Soundtrack Your Brand
日本進出を阻むライセンス問題の壁
―日本市場には進出しているのでしょうか。
日本には進出したいのですが、残念ながらまだ日本でライセンスを取得できていないので、進出できません。これは非常に残念なことです。日本では協会の力が非常に強く、音楽業界自体がレガシー産業化しているという印象を受けました。もしかしたら、まだビジネスモデル自体がCDなどのハードウェアを前提としたもののままなのかもしれません。
日本には素晴らしい音楽クリエーターやレーベルが多数存在しますし、小売市場も非常に豊かです。レストランやホテルなど、他国には見られないほど市場が充実しています。国民性としても音楽への関心が非常に高く、センスも抜けています。それだけに、ぜひとも進出したいと思っているのですが、いかんせん権利の問題を解決しない限りは先に進めません。
―規制の問題をクリアできたとして、どのような業界・業種の企業と提携したいと考えていますか。
地域の飲食店をはじめとしたサービス業、またはホスピタリティ業界との提携が第一。また、ソフトウェア業界ともお話ししてみたいです。
―向こう1年間においては、どのような目標を立てていますか。
当社の売上の約半分を占める米国市場に注力していきます。先ごろも、アリゾナ州に本拠を構え、多くの州でチェーン展開するP.F.Chang’sという中華レストランと契約しました。米国市場でのオーガニックな成長を実現していきたいですね。
―最後に、今後の目標を教えてください。
音楽体験に関する世界最大のプラットフォーマーになることです。当社は世界の1億店舗で使用されるサービスになることを目標にしています。単純計算すると、1店舗あたりの平均来客数は毎日300〜400人ですから、単純計算すると300〜400億人が当社のサービスを通じて流れる音楽に触れることになります。より多くの人に、心地よい音楽と店舗での体験を届けられるサービスでありたいです。