自然電力株式会社は、自然エネルギー発電所の発電事業(IPP)や事業開発を行うスタートアップだ。青い地球を未来につなぐため、自然エネルギー発電設備の設計、建設を手掛けており、その発電設備は太陽光発電、風力発電、小水力発電など多岐に渡る。日本を含む世界各国で自然エネルギー100%の世界実現を目標に事業活動を行う。共同創業者兼代表取締役の川戸 健司氏に、事業の成り立ちや将来展望を聞いた。

東日本大震災を機に、再生可能エネルギーを伸ばしていくべきだと考えた

――創業のきっかけとなった体験や出来事をお教えください。

 私の祖父は戦後まもなく農薬会社を創業しました。当時はなかなか作物が育たない時代でしたが、祖父は「日本人はお腹いっぱいご飯を食べて頑張れば復興できる。だから農薬の会社を始めた。人が生きる上で絶対に必要なものを一生の仕事にするというのはいいもんだぞ」とよく言っていました。子供のころそれを聞いて、たとえ地味でも人が生きる上で絶対必要な仕事をするのはかっこいいなと思いました。

 大学時代に風力発電事業を行うベンチャー企業にインターンで入りました。風車の完成式典で地域のおばあちゃんと話したら、「こんな何もないところに産業を作ってくれてありがとうね」と言っていただけたのです。再生可能エネルギーを作るということは地球にとってもいいことですし、人が生きるために必要なエネルギーを作り、目の前の人に喜んでもらえるのはいいなと思い、そのままその会社に就職しました。

 2011年に東日本大震災が起こり、やはり再生可能エネルギーを伸ばしていくべきだと考えました。創業メンバーの一人である磯野が「自分たちはまだ30歳で、30年後、50年後のことも真剣に考えられる世代。今の時代に次の行動をするのは自分たちの使命だ」と言った言葉にビビッときて、2011年に起業しました。

川戸 健司
共同創業者兼代表取締役
1980年千葉県生まれ。2004年慶應義塾大学理工学部卒業後、風力発電事業を行う会社にて大規模風力発電所のプロジェクトマネジメント、資金調達、経済産業省や電力会社との交渉などに従事。2011年6月に、磯野謙氏、長谷川雅也氏とともに自然電力株式会社を創業。主に太陽光発電事業の開発、発電所の自社保有(IPP)事業、その他自然エネルギープロジェクトや自社の資金調達管理部門などを担当する。

――創業当初の歩みについてお聞かせください。

 2011年6月に創業したのですが、日本で再生可能エネルギーの固定価格買取制度が施行されたのは2012年7月です。これといった戦略がなく、想いだけで創業してしまったので、固定価格買取制度が施行されるまでの一年間は暇でした。しかし、その間にさまざまな気づきがありました。

 再生可能エネルギーは当時、分業化されていたのです。工事はこの会社に、お金のことはこの会社に、メンテナンスはこの会社に、といった具合でした。しかし、お客様からすると誰かにお願いして全部やってもらえる方が楽です。そこで、我々は上流から下流までを手掛けようと考えました。同分野において”先輩”にあたるドイツ企業のjuwiに話を聞きに行ったところ、それぞれの事業ビジョンにお互いが共感し、提携することができました。

 最終的なゴールを見据えた時に、ある程度のインパクトが与えられる規模ということで、数億円単位のビジネスをターゲットにしていました。しかし、創業間もないスタートアップ企業が数億円のビジネスを取り付けるのは大変です。一件目を取るまではとても苦労しました。運よく熊本の企業様と取引することができ、最初のプロジェクトが2012年末に完工しました。その後は九州を中心に仕事が広がっていきました。

――それから今までの間にどのような形で事業を広げていかれたのですか。

 当時は日本で再生可能エネルギーの活用がさほど進んでいなかったので、固定価格買取制度ができたことを機にどれだけ広がるかがとても重要だと思っていました。

 我々はjuwiと組んでいたので世界標準の発電所建設のノウハウがあり、そのノウハウを全部パートナーとして一緒にやっていただく工事会社にはオープンにしていました。ノウハウを抱え込むのではなく、いかにオープンにするかというやり方で取り組んだところ、さまざまな方からお声がけをいただいて、どんどん事業が広がっていきました。また、発電所の売上の一部を地域に還元することにも、創業間もない時期から取り組んでいます。

Image: 自然電力

バリューチェーンを整備し、デジタル分野にもいち早く参入

――御社は発電所の建設や運用、電力の販売といったことに取り組まれていますが、ビジネスモデルや事業の割合をお教えください。

 発電所自体を保有するのは莫大な資金がいるので、当初は発電所を開発して工事して、それを買っていただいてメンテナンスをするというビジネスモデルでした。

 2021年頃までは日本でのビジネスがほとんどで、その割合としては3分の2以上が開発報酬でした。残りの3分の1未満は、我々自身が発電所を保有したり、メンテナンスなどさまざまな資産管理をしていました。東京ガスとの中長期的な資本業務提携も行っています。

 最近はビジネスの流れが少し変わってきて、現在伸びているのが海外事業の発電事業です。これは発電所を保有して売電していくビジネスになります。企業や自治体などの法人が電力の需要家となって発電事業者から直接再生可能エネルギーを購入するコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)のニーズが近年増えていることが背景にあります。

 もう一つ、今後数年間で急激に伸びそうなのが、デジタル事業です。再生可能エネルギーはデジタル制御をしないと需給の調整が難しいため、再生可能エネルギーの普及に伴いその必要性が高まっています。我々はそこが得意分野なのです。数年前にデジタル事業部を立ち上げ、発電所を作るだけではなくきちんとエネルギーのマネジメントをした上でマーケットや需要家にお届けするというサービスが徐々に伸びています。

 この需要に対するマーケットはまだ成長過程で、皆さん様子見の状況ですが、我々は自社でハード自体も作っていますし、システムをクラウド管理できるような仕組みも持っています。現在、家庭用蓄電池の分野で高いマーケットシェアを持つ電池メーカーとの提携の話が進んでいます。電池メーカーとしては蓄電池を売るためにも我々のようなエネルギーマネジメントシステムが必要なのです。未来からの逆算で我々が早めに同分野に参入したのは良い決断でした。

Image: 自然電力

――次のステップについてお教えください。今後、再生可能エネルギーの市場はどのくらい伸びていきそうですか。

 日本の固定価格買取制度の変化に伴い、正直ここ1~2年は過去に比べて利益ベースは減ってきています。ただし想定内でもありましたので、2021年からそれに対する準備を進め、2022年にカナダのケベック州貯蓄投資公庫より数百億円規模の資金を調達しました。再生可能エネルギーや脱炭素に関する市場は大きく拡大していくということが見えていたので、やはり損益に左右されずに次のあるべきところに事業投資をする必要があると考え、そのために大型の資金調達を行ったのです。なお、資金調達をできたことで、新たに我々のことをニュースで知っていただいた方からお声がけいただくなど、新たなビジネス機会が広がっています。

 現在の日本の電力市場は数十兆円規模で、再生可能エネルギーはまだその中の約20%です。業界ではそれを2030年までに40%に引き上げようとしています。さらに、我々はそれを100%にまでしていきたいと考えているので、そうなると全ての金額が再生可能エネルギーに切り替わります。世界規模で見たら市場は数百兆円以上になると思います。

――この分野での競合はいるのでしょうか。

 我々は全てのバリューチェーンをカバーしている点で競合はほぼいません。分野ごとには競合はいるのですが、それらの企業はパートナーにもなり得るのです。例えば我々は工事会社もやっていますが、他の工事会社が競合というわけではなく、逆に我々が依頼することもあります。他の開発会社も競合ではなく、彼らが開発したものを我々が買い取って発電所に仕立て上げてお客様に提供することもあります。ですので、競合という概念はあまりありません。

 世界中で再生可能エネルギーに関するマーケットが拡大しており、その成長スピードも速いので、競合を意識するよりも自分たちでいい発電所をどんどん作り、需要家のニーズに合わせて最適なエネルギーマネジメントを行い、調整力を持った電気を届けるということに集中しています。

お互いの強みを生かせる協業相手とともにビジネスを加速させる

――すでに大企業や自治体との協業に取り組まれていますが、今後は協業相手とどのような取り組みをしていきたいですか。

 大企業との協業では、お互いの強みがどこかというところがポイントだと思います。我々の強みは、マーケットの黎明期と言われた時期からリスクをとって再生可能エネルギー事業に取り組み続け成長してきたこととスピード感です。一方で、例えば気候変動を止めようとすれば、相当の信用力や資金力が必要となるので、それはもう圧倒的に大企業の方に強みがあります。

 我々が期待する協業のやり方としては、最初にリスクをとってどんどん取り組みを進める部分は我々がやり、大企業にはその後ろ側で信用や資金の面で応援していただくことです。それがある程度ビジネスとして確立してきたら、今度はその企業がご自身でどんどん投資をして利益を取っていっていただくというような、お互いの得意な領域を組み合わせたやり方が良いと考えています。

Image: 自然電力

――今注目している業界はありますか。

 自動車業界やバス業界に注目しています。輸送で出る温室効果ガスは非常に多いので、そこをEV化することが必要です。EVというのは走る蓄電池のようなものなので、我々のデジタル技術を使うことができます。輸送だけではなく、災害時の電力供給なども可能になると思います。2022年に西日本鉄道と提携させていただいたのですが、同社はバスを非常に多く持っているので、このような話もさせていただいています。

――海外事業は今後どのように展開していきますか。

 海外事業の展開の仕方として、日本企業として日本人がその国に行き、ビジネスに成功したら全ての収益を日本に持って帰ってくるというのとは真反対のやり方をしています。基本的にはその国で従来のエネルギーを再生可能エネルギーに転換したいという強い想いを持っている人にカントリーマネージャーになってもらい、そこに我々が並走して資金やノウハウや信用力の面でサポートしながら一緒に事業を展開していくというイメージです。やはりその地域で強い想いを持っている人たちが事業を進め、地域の人たちも応援してくれるという形を作ることが大事です。

 最終的には世界196カ国で事業を行いたいと考えています。全ての国に発電所を作るのは難しいかもしれませんが、デジタル技術を使ったビジネスであればどの国でもできます。今後はそういったサービスを広げていくことに挑戦したいです。

――御社のビジョンについてお聞かせください。

 過去10年間では、電源の多様化、地域の多様化に取り組んできました。今はガラリとステージが変わり、エネルギーのマネジメントも含めて自分たちで行う時代に来ているので、どちらかというと発電事業者ではなく、再エネのテクノロジー・サービス会社になっていく必要があると考えています。

 2026年以降のビジョンとしては、カーボンニュートラルに寄与するテクノロジー・サービスの提供を掲げています。再生可能エネルギーは、脱炭素の中のエネルギー分野でしかありません。ですので、例えば輸送に使うガソリンをどう変えていくかですとか、農業で使うエネルギーをどう変えていくかといったような、物流等を組み合わせた包括的なサービスを展開していきます。

 また、気候変動の問題を解決するには、エネルギー分野以外のところも解決していかなければなりません。再生可能エネルギーだけでなく、脱炭素文脈で解決できる会社になっていきたいというのが将来のビジョンです。

 我々は自立分散型の組織です。コロナによって働き方の価値観も変わってきた中で、我々の組織のあり方を強みとして出していきたいと思っています。現在も働き方に魅力を感じたクルーが世界20数カ国から来てくれているので、それをさらに加速させていきたいです。現代は、仕事のためにプライベートを投げ捨てるような人は減ってきています。やはり働き方や生活の仕方も楽しい、かつそれが社会のためになっているという両輪が大事だと思っているので、組織のあり方を今後の強みにしていきたいです。

――読者へのメッセージをお願いします。

 地球が今の状態をキープ、もしくはさらに良くなるということが現実的に可能かどうかはわかりませんが、少なくとも人が住みにくくなってしまって自分の子供や孫、ひ孫が苦労することをよしとする人はいないと思います。そして、地球が汚れていくのを止める手段は目の前に広がっています。だったらもう実行するしかありません。

 我々のビジョンは再生可能エネルギーを含む自然エネルギー100%の社会を作ることです。しかし、一つの会社でできることは限られています。自分たちだけでノウハウや利益を抱え込んでも、小さな規模のことしか実現できません。情報やお金などいろいろなものを誰かとシェアしながら一気に広げていくことが大事です。そうしなければ気候変動の問題は解決できないと思います。タッグを組むことでできることはとても増えてくると思いますので、まずは同じ夢を語り合った上で提携ができれば、両者にとってもいいですし、地球にとってもいいと考えています。



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