ソニーGから転身 高度な画像処理技術を使ったサービスを構想
――佐渡島様のバックグラウンドをお聞かせください。
学生時代に、大学生に向けたコミュニティのモバイルサイトを作っていて、Webサービスの面白さを知りました。就職活動では、大企業のソニーグループなら、新しいWebサービスをたくさん作ることができそうだと考え、インターネット接続サービス「So-net」を提供する企業(現:ソニーネットワークコミュニケーションズ)に入社しました。So-netでもモバイルコンテンツのサービスに関わっていました。
――エンジニアではなく、プロデュースする立場でしょうか。
プロデューサーという立場で、エンジニアやデザイナーさんと一緒にサービスをつくるというケースもあれば、外部の方と一緒にやるケースもあり、適宜、臨機応変にウェブサービスをプロデュースしていました。その後、画像・映像処理の研究開発を手掛けてきたソニー木原研究所のチームが立ち上げたグループ子会社モーションポートレート社に移りました。
そのチームは、コンピューターサイエンスに強く、顔認識のアルゴリズムを作っていました。そこで、技術を外販してアプリにするだけではもったいない、と思っていました。高い技術をもっと世の中に役立てたいと思い、カメラを置いて、どんどん賢くなっていくサービスを実現しようと、2014年にセーフィーを創業しました。
――当時は良質な防犯カメラがなかったと指摘されている記事を拝見しました。その点が創業のきっかけになっているのでしょうか。
モーションポートレート時代に、画像認識技術を使ってデータプラットフォームやアプリケーションを生み出せないかと考えていました。また、プライベートの話ですが、自宅を建てるときに調べてみると、防犯カメラがあまり発展していないことに気づきました。
防犯カメラのベースは元々アナログから来ているものです。一方、当時はGoProのようなアクションカメラが流行っていて、スマホのように手軽に使える良い技術の製品が低コストで作られていました。そこで、GoProのようなものをベースにカメラサービスを作っていくと、ネットワークを活用できると考えました。
GoProの構造を研究していくうちに、その部品を作っているAmbarellaという会社とつながり、一緒にネットワークにつながったカメラサービスを作れるメーカーを探しました。見つかったのが、エルモ社で、今も一緒にお仕事をしているメーカーです。当時、ソニーグループで他のカメラと共にオープンなプラットフォームを作るのは難しかったので、独立・創業を決意しました。
ソニーはハードウェアのメーカーですから、カメラの競合メーカーと共にやることは意思決定として大変でしょうし、私たちは1社のカメラメーカーだけと仕事をしたいと思っていませんでした。
従来の防犯カメラは、ソフトウェアなどが組み込まれていましたが、私たちは全部クラウドでコントロールするサービスを考えていました。そこで、クラウドに対応したカメラOSを作って、Android 端末のように、いろんなメーカーがハードウェアを出すようなプラットフォームを思い描きました。
もし、これをソニーグループでやると、自社のカメラやチップにこだわりがありますし、プロダクトのラインアップが決まっているので、新製品の販売には時間がかかります。So-net出身のメンバーは、独立してもいいという考え方を持っている人が多かったので、当時の上司に相談し、ソニーグループに出資してもらって、独立することになったのです。
Image: セーフィー
――なるほど。ソニーグループではそのような進路や、独立を応援する文化があるのですね。
はい。グループ内部でやっていると、決裁の問題があったり、うまくいかないときに責任はどうするんだなどと言われたりと、自分らしい経営ができないことも多いと思います。グループの外に出て自分で勝負をかけた人たちが、結果的にすごく成功しているケースもあります。セーフィーは出資をいただいて、スピード感をもって自分たちで経営できたという点が、うまくいった理由のひとつです。さまざまな会社にも資本参加してもらって、新しい産業を作りました。
高い拡張性、セキュリティと他社が真似できない連携
――改めて、セーフィーのサービスについて教えてください。
カメラから映像データが集まってきて、アプリケーションが生まれるサービスです。Safie対応機種に当社のファームウェア(電子機器に組み込まれたコンピュータシステムを制御するためのソフトウェア)をインストールすることでクラウドプラットフォームに接続が可能となります。
カメラは小型でどこにでも置けるもの、電源を抜き差しするだけで屋外のネットワークがない所でもすぐ使えるもの、電源を入れるだけで遠隔ワークが出来る名刺サイズのものなどです。
アプリケーションには、入退場を顔認識で管理したり、カメラを自動的に顔認証にして何回訪問したか、どういう属性の方なのかを記録できたりするものもあります。映像データを集めて、それをもとにさまざまなアプリケーションになっていく拡張性が特徴です。
――映像分析のソフトウェアも開発されているのですか。
一部は開発しています。また、例えば施工管理サービスのアンドパットと組んで、施工管理はアンドパット、映像はセーフィーが担うというように、協業するケースもあります。パナソニックやセコム、NTTなどに当社OEMのサービスを使っていただいて、協業することによって、利用しやすいサービスになっています。
従来のカメラメーカーの場合、カメラに組み込むソフトウェアをメインに考えていらっしゃいました。昨今、インターネットなどのネットワーク接続が当たり前の世界になっている中で、従来のネットワークカメラにケーブルを挿してしまうと、カメラの中だけでシステムが動いているので、サイバー攻撃を受けて、覗き見されてしまったりすることがあります。
当社の場合はクラウドでコントロールしますので、お客さまは何も考えずに全データを暗号化できます。非常にセキュアになるのです。
スマホのアプリやWebアプリケーションも、誰もが使いやすくなるよう配慮しています。映像データが溜まればほかのデータと連携することもできます。せっかく投資するのであれば、壊れていくような、アナログなレコーダーよりも、クラウドカメラならお客様にとっても大きなメリットになると思います。
――膨大なデータを扱うのに、月額利用料は1300円ほどと聞きました。低コストで提供できる理由を教えてください。
当社にはもともと画像や映像処理の技術があります。美しい映像を抑えたデータ量で実現できます。また、システムにつながるデータ管理や顧客管理の部分のUXが実は1番コアコンピタンスです。お客様が望む機能を、クラウド上でアップデートしながら改善していくような仕組みができあがっています。ここがよくなればなるほど、技術も高まり、良質なデータを蓄えて活用できます。他社が安易に参入できなくなるのです。
基本的なビジネスモデルは、例えば、カメラ1台当たり7日間分のデータを保存する場合は月額1320円からと、保存する期間に応じたプランがあって、顔認識機能などのオプション料金を加えていきます。
「オセロの四隅」を押さえる 事業会社と連携・資本参加でビジネスを加速
――2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を果たしました。そこに至るまでのターニングポイントや、良かった点、大変だった点などはありますか。
良かった点は、ソニーでやらないことで、オープンになったことですね。だたし、オープンになったから売れるというものではありません。良い仲間、商流があってこそ売れるのです。当社の資本業務提携はベンチャーキャピタル(VC)を一切使わずに、事業会社を運営しています。常に「オセロの4隅」と金融について考えてきました。
顧客が私たちのサービスを選ぶときに、いきなりカメラを買うとはならないと思います。例えば、ビルに入るとトイレはTOTOやLIXIL製ですよね。ビルを作るときの商流ができているわけです。
「オセロの4隅」というのは、設備、デバイス、警備、通信です。これをしっかりと抑えないと、私たちのビジネスは広がらないと思いました。そこで自社の技術力とサービスを最高のレベルにし、これら四隅を担う企業と金融の企業に資本参加いただくことで、一緒に業界を作っていったのです。
――ソニーG以外の企業との提携、交渉はうまくいったのでしょうか。
長い時間かけてしっかりやってきました。例えばキヤノン様は、カメラはお持ちですが、クラウドシステムがありませんので、クラウドシステムをまず一緒にやって、うまくいったら資本参加いただく流れでした。他の出資者も、まずは事業としてご一緒にできるかを模索して、事業として成り立つ前提を作った上で、さらにブーストするために資本の力を使っていくやり方をとっています。これがうまくできたのがターニングポイントですね。
もう一つのターニングポイントは、新型コロナウイルスです。コロナ下で企業の映像活用が進みました。当社の2019年から2021年の間の単純成長は4.5倍になりました。ビデオ会議サービスなども伸びましたが、建設や製造、インフラの現場を見るリモート技術で、監視カメラやウェアラブルカメラが活用できることが実証されました。政府が進める遠隔臨場による監視など、今まではその場に行ってやらなければならなかったことがリモートになり、ルールが180度変わっています。
当社の売り上げの中でも、圧倒的に高いのが、現場を持っているお客様のリモートワーク推進のための利用です。例えば、大和ハウス工業様はカメラを現地に置いて、モニタリングルームを使ってその受け答えによって、現場の施工管理をしています。
最近伸びている飲食チェーンの場合、3分以内に食事を提供するためにシステムを導入しています。オペレーションのサポートを全部映像化しているのです。昨今は自治体での災害対応にも使われています。消防の人たちが災害現場に飛び込まなければいけないというようなときに、カメラを身に着けた隊員、熟練の隊員らの連携によって、現場の安全を守ることができます。ほかにも、アンテナの取り付けやガス点検など、危険が伴う現場の仕事の支援にも当社のサービスが導入されています。
AIでより賢く、誰でも使える「映像データ」ロボティクス社会、躍動型社会の中心に
――Safieには、映像データを蓄積し、賢くなっていくというというコンセプトがあります。今後はどのような発展が考えられますか。
AIを作り、賢くなっていくと、そのAIは特定の業種だけでなく、誰もが使えるようになります。あらゆる産業業態のDXを推進しながら、人がやっていた行為そのものをアプリケーションに変えていくことが望まれています。
例えば、建設現場では、映像を管理するだけでなく、ロボット型のAIカメラをつけて、遠隔から重機を操縦できるようにするというような発展を期待しています。店舗の無人化にも、当社のサービスを使っていただいています。防犯だけでなく、荷物の受け取りや来店客の分析を行うなど、役割が多岐にわたっています。最終的には1人の店長さんが複数の店舗を同時に管理できるよう、具体的かつ低コストに実現できるようにしています。
これらのアプリケーションを実現するためのデータが当社にはあります。上場して得た資金は、データを元にAIを作りやすくするプラットフォームに投資をしていきます。
――御社はあらゆる産業にサービスを提供されています。今後はどのようなパートナーシップを求めていきますか。
まずは、当社のサービスを使ってみようという方が多いです。多くのお客様はWebで注文されて、使ってみて、さらに協議をしていきましょうというスタンスです。
現場で役に立つ方が広がるのではないかと思っています。例えば、関西国際空港様も年末年始に人が増えるから、電源を入れてすぐに使える当社の製品を導入されて、使ってみたら便利だというのでより多くの台数を導入いただきました。
建設現場トップ企業のうち、多くが当社の顧客です。実は最初はクレームから始まりました。元々カメラが屋内でしか使えない設定にしていたので、屋外では上手くいかなかったというものでした。
裏を返せば、それだけ現場でカメラを使いたかったということです。そこから電源を入れるだけで使える製品ができました。当初は家庭用の防犯カメラを想定していたのですが、やればやるほどいろんなニーズが出てきています。
Image: セーフィー
――海外展開はお考えでしょうか。
映像は、誰もがすぐ見てわかるものなので、グローバルにはすぐいけるでしょう。しかし、私たちが経験して大切にしてきたのは「どこでやるか」というより、「誰とやるか」です。いいお客様、いいパートナーがいるからこそ、サービスが広がっていきます。ですので、グローバルな視点でも誰とやるかを重視して、現地に合わせた展開ができるのが、当社のプラットホームのいいところだと思います。
――最後に、長期的なビジョンをお聞かせください。
ロボティックス社会や躍動型社会の中心となるのは映像だと思います。ロボットと人間、お互いが生きやすい社会の実現をするというのが私たちのビジョンです。それは本当に万国共通で必要なもので、これが世界中に広がっていくことが私のビジョンです。カメラをクラウド対応にして、映像データをAIが判断する、VDaaS(Video Data as a Service)のプラットフォームとして展開する流れです。
自動運転のための判断材料にもできるでしょう。現在でも、ドローンを飛ばす時に、事前に周りの状況を映像で確認します。まだ遠い先の未来の話のようですが、実はもう実現しています。それが社会技術となって広範囲に展開することで、みんなの生活そのものが良くなっていくというのが私達の行きたいところです。そこを目指して頑張っています。