発電所は多量の二酸化炭素(CO2)を排出するもの。そんな常識を覆し、「CO2を出さない」どころか「CO2を減らす」仕組みをもった発電所をドイツ発のスタートアップ、Reverionが展開している。家畜のふん尿などから作られるバイオガスを使用する特別な燃料電池をベースに発電するもので、発電効率は最大80%。発電所と言いつつも、コンテナのような箱の中に収まるサイズで、しかも電力が余っている時は、水素などを生産して貯蔵できる優れモノだ。同社の共同創業者でCEOのStephan Herrmann氏に話を聞いた。

目次
「模倣は難しい」、自社の技術力に自信
こんなにある、Reverionの発電所のメリット
スタートアップ特有の課題に直面
ホンダが出資、部品面でシナジーも

Stephan Herrmann
Co-Founder & CEO
英スコットランドのヘリオット・ワット大学および、ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクで物理学の修士号を、同じくドイツのミュンヘン工科大学で機械工学の博士号を取得。同大学で部門長や学科長を務めた後、2022年にReverionを共同創業し、CEOに就任。

「可逆的」と「イオン」に由来するReverionという社名は、そのコンテナ型発電所が電気を生成するためと、余剰電気エネルギーからメタンと水素を生成する可逆的電気分解の両方で使用できるため。昨年9月のシリーズA資金調達で6,200万ドルを得た。応募超過となったこのラウンドは、Energy Impact Partners (EIP) が主導し、ホンダと欧州イノベーション評議会基金 (EIC Fund) が参加。既存の投資家である Extantia Capital、UVC Partners、Green Generation Fund、Doral Energy-Tech Ventures、Possible Venturesも参加した。

「模倣は難しい」、自社の技術力に自信

―創業の経緯は。

 2015年、ミュンヘン工科大学で高温燃料電池を使用したサイクル設計(または燃料電池・電解槽としてのシステムの二重使用)を考案・開発しました。2年後、のちに共同創業者となるFelix Fischerと実験室規模でこの技術を検証しました。同じくミュンヘン工科大学にいた他3名*の共同創業者と共に、2022年にReverionを創業しました。
*R&D担当のMaximilian Hauck、 ソーシングと製造担当のJeremias Weinrich、制御と自動化担当のLuis Poblotzki

―Reverionの技術は非常に進んでいるため競合は存在せず、十分なユニット数を生産することのみが課題だそうです。

 我々が知る限り、同様の技術を持つ企業は他にありません。もちろん、他社が研究室で何をしているかは知りませんが、市場や発表されている中では同様の技術はないと認識しています。燃料電池発電所、電解装置や炭素回収施設を建設して当社の技術を模倣しようとすることはできますが、当社と同じ効率とコストで競合できる企業はないはずです。

―2024年9月には1億ドル以上の予約注文を確保したそうですが、この注文はドイツからですか。

 予約注文はドイツからで、まだドイツ国外からの予約は受け付けていません。リクエストはありますが、需要ではなく、生産能力による制約があるからです。世界中から予約注文を受けても何年もかけてしか実現できないというのは、合理的ではなく、遠方の国々に非現実的な約束をしたくはありません。

 現在はドイツで最初のユニットを配備しているところですが、その後はオーストリア、オランダ、ポーランド、そしてイタリア、スペイン、デンマークなど欧州各地へ進出する計画です。米国や日本などからも多くの関心が寄せられているため、欧州以外でもパイロット配備を始めるかもしれませんが、規制面での課題もあるため海外では適切なパートナーとの協力が必要だと考えています。

image: Reverion HP

こんなにある、Reverionの発電所のメリット

―過去のインタビューで、Reverionのコンテナ型発電プラント1つで最大500世帯に再生可能ガスと電力を供給でき、4万個あれば、ドイツの既存のバイオガスプラントすべてに装備できる。さらに、ドイツ全体の電力需要の最大30%・2021年のロシアのガス輸入量の半分を生産可能、世界的に7兆ドルの市場を超える化石燃料ベースの発電所もすべて置き換えることができるとおっしゃっているのを拝見しました。これらの数字について教えて下さい。

 当社には約100世帯に電力を供給できる100キロワットの発電システムと、最大500世帯に電力を供給できる500キロワットの発電システムがあります。ドイツのバイオガス発電所の総容量は20ギガワットですので、当社の500キロワット発電システムの4万倍です。これは理想的なシナリオですが、これがこの数字の由来です。

 当社の発電システムは天然ガス、水素、バイオガス、さらにはメタノールやその他の燃料から電力を生産でき、非常に柔軟性があります。存在する最も効率的な、極めて小さなユニットのコンテナ型発電所であり、農場などどこでも使用可能です。また、完全に自動化されているため、オペレーターは必要なくリモートで制御できます。コンテナ式なので、簡単に出荷でき、基礎工事も必要ありません。もちろん、7兆個、数十万個という膨大な数なのでその段階に到達するには数十年かかりますが、この柔軟性のため世界中の化石燃料発電所のほとんどまたは全てを置き換えることも理論的には可能です。

―主なターゲットユーザーは農家と産業従事者だと理解していますが、Reverionの製品の利点について教えて下さい。

 現時点で最も先進的な市場の1つであるバイオガスに焦点を当てると、顧客にはいくつもの利点があります。

 最大の利点は、当社の機器の発電効率が非常に高いことです。バイオガスで動作する場合の燃焼エンジン技術の効率が通常40%程度に過ぎないのに対し、80%の電気効率を達成できます。同じ量のバイオガスで比較した場合、発電出力は従来と比較して2倍に達し、バイオガスの生産コストを増やすことなく、収益を2倍にできる計算です。それだけでも大きな利点です。

 さらに、当社ではプラントを逆に電解装置として使用することも可能です。太陽光や風力発電が電力網に過剰に供給されるたびに、ドイツなどの国では年間の半分近くが供給過剰となります。電力網に過剰供給される時期が年間の半分近くに達することもあるほどです。電力価格もかなり低くなるので、この場合バイオガスからより多くの電力を生成することには意味がありません。私たちの技術ではそうした場合、余剰電力を逆に使用することで、水素など価値ある製品を作ることができます。これが2番目の主な利点です。

 バイオガスから電力を作る場合の3つ目の利点は、基本的にユニットが生み出すのは電力とCO2ですが、そのCO2はバイオガスから発生するグリーンCO2、つまりグリーン炭素分子です。化学会社などが再生可能なプラスチックなどを作る際にグリーンCO2を求めるため、ここにも価値が生まれます。炭素回収貯蔵にも使用でき、カーボンネガティブを生み出すことができます。これは販売することもできます。

 4つ目の利点は、電力を生成し、グリッドから電力を引き出すことができることです。これにより、市場で提供できる電力の範囲が広くなります。電力取引所で取引できるユニットの容量は非常に高いため、多くの収益を得ることができます。これは柔軟性から生じる二次的な効果です。

 これら収益の積み重ねによって、既存の燃焼エンジン設備と比較して最大5倍もの収益を得ることができます。これが、当社のユニットを非常にユニークなものにしています。

スタートアップ特有の課題に直面

―非常に有望な技術ですが、現在直面している問題はありますか?

 もちろんです。当社は規模を拡大しており、会社は常に変化しているため、毎日何千もの問題に直面しています。

 最高のユニットを最低のコストで製造するためにサプライチェーンを絶えず構築し、拡大していますが、十分な数の優秀な従業員を見つける難しさや、現時点では利益が出ていないため資金調達の問題があります。より多くのユニットを製造するための生産インフラの問題もあります。

 生産インフラに必要な施設の資金をエクイティファイナンスなどでは支払いたくないものの、信用取引やデッドファイナンスは収益性がないと利用できません。スタートアップでよくある、資金調達と資金調達の形態についてが主な課題です。

image : Animaflora PicsStock / Shutterstock

ホンダが出資、部品面でシナジーも

―シリーズAの資金調達の出資者にはHonda Xcelerator Venturesも名を連ねました。日本進出の計画はありますか。

 現時点で日本で最も重要なパートナーはホンダです。ホンダは私たちの投資家でもあり、いくつかのプロジェクトで密接に協力しています。ホンダは一種のファシリテーターでもあります。彼らは巨大な自動車サプライチェーンを所持し、部品面も私たちが必要としているものと近いです。

 当社は高品質のコンポーネントを必要としていて、リーズナブルな価格で高品質の製品を提供できる日本は非常に重要です。サプライチェーンからユニットの生産や展開まで、さまざまな側面で日系企業と協力する大きな可能性があります。

 秘密保持契約があるためまだ具体的な企業名を公にすることはできませんが、私たちと提携することに興味を持っている日本企業数社と話し合いを進めています。これらは大企業であり、自動車やエネルギー部門、バイオガス分野の企業です。

 北海道はバイオガス生産に適した場所ですが燃料電池を製造する企業は私たちにとって非常に興味深く、そのうちの何社かと協議しています。



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