目次
・風力発電プロジェクトの縁の下の力持ち
・レラテックならではの強みとは
・創業以降の業績は?政府方針が追い風に
・大学での研究が起業のきっかけ
・どんなパートナー企業を求めるか
風力発電プロジェクトの縁の下の力持ち
―風力発電プロジェクトを計画している民間企業など向けに風況調査を行っていますね。風況調査の位置付けを教えてください。
風況調査は、採算性・安全性の両面から風力発電事業の実施可否を判断する上で非常に重要なフェーズになります。ご存知の通り、風力発電は風速への依存度が高いので、発電事業を始める前段階で年間を通してどれぐらいの風力エネルギーが得られるか、約20年と言われる風力発電の耐用年数の中での発電量を試算しなければなりません。
安全面でも、風車が強風に耐えられずに倒壊してしまうような事故を防ぐために、風車設計に必要となる風条件パラメータを算出しなければなりません。その算出結果を基に、風車機種の選定や風車・基礎に係る設計を行うのです。
洋上風力発電の事業コストは、2,000億円とも3,000億円とも言われますが、巨費を投じて立ち上げる事業が成功するか失敗に終わるかは、風況調査の精度にかかっているとも言えます。ところが、国内には、その風況調査に特化した会社が非常に少なく、今後日本で風力発電を普及させていく上で、その役目を担う会社が必要だと考えました。
レラテックならではの強みとは
―御社の風況調査サービスの特徴を教えてください。
当社は主に風況観測、風況シミュレーション、風況解析の3つの柱でサービスを提供しています。風況調査の最初のステップである風況観測は、風力発電の開発サイトで各種の計器を用いて風力や風向、乱流などを観測するものです。もっとも、一般的な計器は「風況観測マスト」と呼ばれるもので、高さ60メートルぐらいの鉄塔を建てるのですが、風車の大型化に伴い、さらに高い観測タワーが必要になってきていますし、洋上風力発電の場合、そもそもそのようなタワーは建てられません。
そこで、最近では「ドップラーライダー」というリモートセンシング機が用いられるようになってきています。これは、上空に照射した光の散乱からドップラーシフトを利用して風況を観測するもので、これを用いることで風況観測にかかるコストを減らせます。浮体ブイに搭載するタイプのものも研究されていますね。
風況観測の次のステップの風況シミュレーションでは、メソ気象モデルのWRF(Weather Research
and Forecasting Model)によって洋上風況シミュレーションを行います。これはアメリカの気象機関などで開発されたメソスケール(中規模)の気象シミュレーションシステムで、オープンソースなので全世界で天気予報などに使用されてきました。われわれはこれまでの観測実績なども加味してWRFをカスタマイズし、洋上の風況シミュレーションの精度を高めてきました。今、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公開している「NeoWins」という洋上風況マップも、WRFをベースに神戸大で作成されたものです。
最後のステップの風況解析では、開発エリアにおける観測およびシミュレーションの結果を基に、プログラミング言語やGIS(地理情報システム)を利用して、発電量評価やサイト風条件評価を行います。風力発電の事業性を評価するためには、風車位置のハブ高度における風況データや風車の出力などに基づいて、発電量を算出する必要があります。
また、風力発電事業の認可にはウィンドファーム認証の取得が必要で、開発サイトの風条件に対して風車及び支持構造物の強度や安全性が設計上担保されていなければなりません。われわれが観測とシミュレーションから導き出した風条件評価を反映させ、開発サイトに適した風車設計がなされるようサポートを行うのです。
―御社の風況調査サービスの強みは何でしょうか。風況調査事業での競合はありますか。
風況調査の技術や観測機器の進化はとても早く、それにいち早く対応していかなければなりません。ドップラーライダーなども、この数年で本格的に導入が進んできていますが、それをどのように使えば観測精度が上げられるのかといったことについては、まだ研究の途にあります。その点、われわれは神戸大で行っている最新の研究成果を実際の風況調査に反映することができますので、より高精度なサービスの提供が可能になります。さらに、開発サイトで得たデータを神戸大にフィードバックしますので、そのデータを使って研究も深化させるという好循環を作り出せるのがわれわれの強みだと考えています。
競合ですが、風況観測を専門にしている会社やシミュレーションを専門にしている会社はあるものの、観測・シミュレーション・解析の3ステップを全て手掛けている会社は国内にはないと認識しています。当社は、風況調査に特化し、3ステップを一気通貫で実施できるので、その点は他社にはない強みだと思います。ヨーロッパには、当社と同じような業態の調査会社やコンサルもいますが、ヨーロッパに比べ、日本は台風なども多いので規制が厳しく、ガイドラインが少し特殊なので、外資のコンサルとは競合というより、手を組んで一緒に調査を実施するパートナーのような関係になっています。
image: レラテック HP
創業以降の業績は?政府方針が追い風に
―ビジネスモデルや業績の推移を教えてください。
大学発のベンチャー企業の場合、資金調達をして研究開発を進めるというスキームが多いのではないかと思いますが、当社の場合は民間企業から委託されて調査を行うケースが大半ですので、売上も立ち、事業として成り立っています。お客様は当然のことながら風力発電の事業者で、洋上だけでなく、陸上風力発電の風況調査の依頼なども幅広くいただいています。
創業以来、順調に成長を続けており、年間30件以上の案件を受注しています。特に最近は、風力発電を推進する政府の後押しもあって、洋上風力発電の調査依頼が増え、業績も大きく伸びています。地域的には、風力発電開発の盛んな秋田や青森、北海道をはじめ、千葉や北九州など、全国にわたっています。ニュースで取り上げられているような大きなプロジェクトに関わっているケースも多いです。
―洋上風力発電は今後拡大していくことが予測されます。御社はどのような取り組みに注力しますか。
2020年度比で言うと、2030年までの10年間で洋上風力発電の国内市場は460倍に拡大すると言われています。それに伴い、洋上風力調査に関わる市場も、2030年には500~1,000億円規模になると見込んでいます。
注力する領域一つに、「フローティングライダー」を用いた風況観測の技術開発があります。これは、ドップラーライダーを搭載した洋上風況観測用のブイで、将来市場が拡大すると見られている浮体式の洋上風車を設置する上で、不可欠の観測機器です。しかし、まだ観測のガイドラインも決まっていない新しい機器なので、乱流強度などの細かいスケールの観測ができるような技術が確立されていません。その技術課題をクリアし、沖合でも高精度の観測ができるようにすることが今後の重要テーマです。
もう一つは、NEDOの事業において青森県のむつ小川原港湾内に作った国内初の洋上風況観測試験サイトの運営です。フローティングライダーやスキャニングライダーなど、新しい機器を使って風況観測をする際には、その精度検証をする必要がありますが、それができる洋上サイトが日本になかったので、今回新たにそれを整備しました。この試験サイトは、風況観測を行う皆さんが、機器を持ち込んで精度検証することができる公的な場であり、この3月に神戸大と当社が中心になってサイトを運営する法人も設立しましたので、しっかりと運営に当たっていきたいと思います。
image: 神戸大学/NEDO 「むつ小川原洋上風況観測試験サイト」
―政府は2030年までに10ギガワット、40年までに30~45ギガワットという風力発電の導入目標を打ち出していますが、その目標の達成は可能でしょうか?
かなり野心的な目標だとは思いますが、今、風力発電の公募がラウンド2まで来ていて、それらのプロジェクトがしっかり実現されれば、2030年の10ギガワットは達成できるでしょう。2040年の目標を達成するには、着床式の風力発電だけでなく、浮体式の風力発電を導入しなければ不可能だと考えます。先般、洋上風力発電の設置場所を現行の領海内から排他的経済水域(EEZ)に拡大する法案が閣議決定されましたが、今後、浮体式風力発電の開発・普及を加速することが目標達成の必須要件でしょう。
大学での研究が起業のきっかけ
―起業の経緯をお聞かせください。
私はもともと、筑波大学の大学院で気象学・気候学を学んでいたのですが、在学中に地熱発電に関する検証論文を書いたのがきっかけで再生可能エネルギーへの関心が深まり、気象・気候分野の研究をその役に立てられるのではないかと考えるようになりました。そして、日本に適した再生可能エネルギーは何かと検討するうちに洋上風力発電に辿り着き、それを修士論文のテーマとして、洋上風力発電のポテンシャルなどを調査したのです。
大学院を卒業した後は、環境・リサイクル事業を展開する企業に環境コンサルタントとして10年ほど勤め、風速、風向や乱流などを観測・解析する風況調査を手がけました。その業務の中で、風況調査の面白さや、社会の役に立つ仕事であることを改めて実感し、それをさらに深く学ぶために、会社に在籍しながら社会人学生として神戸大学大学院で気象工学を専門とする大澤輝夫教授に師事しました。現在、レラテックの技術顧問でもある大澤教授は、洋上風力開発のための気象シミュレーション研究の第一人者で、教授の下で培った技術や得た人脈を活かして社会に貢献したいと思い、再生可能エネルギーに関するコンサルティングや研究開発に従事していたメンバーと共にレラテックを設立しました。
どんなパートナー企業を求めるか
―2022年に豊田通商と資本業務提携を締結しました。サービスの質の向上などを目指したものと伺っていますが、今後どのような企業とパートナーシップを組んでいく考えですか。
豊田通商さんは、風況調査用の燃料電池やドップラーライダーなどを輸入販売されていますので、それらの機器の調達をスムーズに行うために同社と提携しました。今後、われわれのパートナーになっていただきたいのは、洋上風況観測試験サイトの管理や企画などの運営を支援してくれる企業です。運営法人は設立したものの、課題もたくさんありますので、今いろいろと募集をかけています。
また、風力発電に関わる観測業務には、風況マストなど大型の建造物の設置も必要になりますが、それを設置できる業者さんが非常に少ないんです。ですので、その実績のある土木や電気工事の会社、それから気象関係の知見やノウハウが豊富な会社とパートナーシップを組んでいきたいです。
―御社の将来のビジョンをお聞かせください。また。御社の技術やプロジェクトにご興味をお持ちの方々に、メッセージをお願いします。
当社は、「100年先も住みたい地球(まち)をつくる」というビジョンを掲げています。そのビジョンを実現する上で、風力発電は大きな役割を果たすでしょうし、「気象×ICT」という手法を活かして漁業などの一次産業の支援もできるのではないかと思っています。また、海外の風力発電案件の問い合わせも来ており、当社の風況シミュレーション技術などの輸出も十分可能ですので、東南アジアをはじめ、風力発電の導入を進めようとしている国々に展開していくことも検討しています。
われわれが培ってきた技術やノウハウは、風力発電はもちろん、他の再生可能エネルギーの開発にも活かせます。青森の試験サイトにしても、風力発電を使ったグリーン水素やグリーンアンモニアの製造などの実証試験にも対応できるポテンシャルを秘めています。そのような企画や技術をお持ちの方も含めて、再エネ産業を発展させるという大義の下、一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んでいければと思っています。