シャトルバスや物流車両に搭載する自動運転ソフトウエアを開発するOxa(本社:英国オックスフォード)。地図やGPSなどを必要とせずに自動走行を可能にするアルゴリズムと3Dシミュレーションアプリを手掛け、大学構内や太陽光発電所で現在、実際にOxa搭載車が走っている。AmazonやYouTubeといった世界的IT企業でエンジニアを歴任してきたOxaのChief Product Engineering OfficerのGraeme Smith氏に話を聞いた。

目次
GPSも地図データも要らない自動運転ソフト
まずは米国での商業展開にフォーカス
ENEOSイノベーションパートナーズも出資

GPSも地図データも要らない自動運転ソフト

―自動運転技術の開発はさまざまな企業が進めていますが、Oxaはどのような分野に特化しているのでしょうか。

 当社は「Oxa Driver」という自動運転向けソフトウエアを開発しています。このソフトウエアが特化しているのは主に「6〜20人乗りの旅客シャトルバス」と「物流や倉庫業など産業シーンで使う輸送車両」の2つの分野です。つまり、一般乗用車ではなく産業用の車両にフォーカスしています。

 当社の技術は、飛行場や倉庫、鉱山、太陽光発電所など一般車道ではない走路の走行に適しています。これらの走路では自動運転が必要とするGPSや高精度3次元地図データ、車線マーキングなどの情報がない場合が多いのですが、これらなしで自動運転を可能にするアルゴリズムを開発しました。

 さらに当社は「Oxa MetaDriver」というAIを活用した3Dシミュレーションソフトを展開しています。走行場面の時間帯と天候を合成映像にして大量の仮想シミュレーションを行うことで、周囲の環境を正しく車両が認識できるようになります。

「Oxa Driver」と「Oxa MetaDriver」は旅客シャトルバスやオフロード車両、産業用物流車両など、さまざまなタイプの車両に搭載可能です。特に旅客車両と輸送車両といった分野ではドライバー不足が深刻で、自動運転のニーズが高いです。一般車両のように自由自在に運転することが目的というよりは、「A地点からB地点まで(人・物)を運ぶのが目的」であり、相対的に必要な安全性処理が少ない分野でもあります。

 Oxaは現在、英国の石油・ガス大手BPと提携し、風力発電所や太陽光発電所、製油所などで実験車両を走らせています。

 Oxaは自前で車両を製造しているわけではありませんが、提携先のメーカーも再現可能な設計仕様に満足していますし、車両を運用する企業もドライバー不足の解決になると期待しています。

 Oxaは2014年の創業以降、市場で高い注目を集め続けています。私自身、コンピューターサイエンスの世界に長くいますが、自動運転はこの業界で最も難しい技術であることは忘れてはいけないと思います。

 Oxaはそんな中で、何年も地道な実証実験を行なっていることに加え、さまざまなテクノロジーに磨きをかけています。実際に、多くの車両にソフトウエアを搭載するまでになっているのです。私のミッションは磨き上げてきた技術をスケーラブルなものにするところにあります。

image: Oxa

―今後の商業展開の詳細なスケジュールについて教えてください。

 米フロリダ州ジャクソンビル市で2024年2月に商業展開を開始しました。ジャクソンビル大学の構内ですが、公道も走っています。今年中に米国内の数十カ所で同様の車両を走らせる予定です。

image: Oxa

まずは米国での商業展開にフォーカス

―シリーズCで調達した1億4000万ドルは、どのように活用していきますか。

 米国での商業展開にまずはフォーカスしていきます。大型車にもOxaのソフトウエアを搭載させるべく、資金を投じていきます。さらに、ソフトウエアの研究開発も加速させる考えです。現在、われわれの車両は路上走行時に安全係員が同乗していますが、最終的には彼らなしで運転を可能にさせたいです。

 Oxaは2023年3月にはGoogle Cloudとの提携を発表しました。これにより、コンピューティング能力が飛躍的に向上し、複雑な路上環境でも安全係員なしで運転が可能になる可能性が大きくなりました。

―Smithさんは2023年8月にOxaにジョインされましたが、それまでAmazonやYouTubeなどでエンジニアとして勤務した経験がありますね。

 Oxaは元々、現CTOである共同創業者のPaul Newmanがオックスフォード大学からスピンアウトして立ち上げた企業です。CEOのGavin JacksonとはAmazon時代からの知り合いで、彼らの技術レベルの高さと、追い求めている市場の優位性には気付いていました。

 AmazonやYouTubeで勤務していたことから分かるように、私は世界を変えるテクノロジーに常に触れていたいという野心があり、それと同時に、転職する企業については保守的でもあります(笑)ただ、Oxaは2023年にシリーズCで1億4000万米ドルを調達するなど市場から有望視される企業で、確実な技術も有しています。自動運転の未来を拓くためにOxaに入社したのです。

Graeme Smith
Chief Product Engineering Officer
2006年にAmazonに入社し、ソフトウエア開発のSenior ManagerやスコットランドのAmazon Development CentreでManaging Directorを務めた。2020年からはSizmek by AmazonのCEOを務めた。2022年からYouTubeのSenior Director of Engineeringとして勤務した後、2023年8月にOxaのChief Product Engineering Officerに就任。現職。

ENEOSイノベーションパートナーズも出資

―将来的に日本市場に参入する可能性はありますか?

 まず最初に申し上げたいのは、ENEOS傘下のVCであるENEOSイノベーションパートナーズは当社に出資しているということです。また、あいおいニッセイ同和損害保険とは資本業務提携を結んでいます。

 ENEOSイノベーションパートナーズはOxa提携車両が走行するエネルギー関連施設での展開に関係がある企業ですし、あいおいニッセイ同和損害保険のような保険会社にとってはインシュアテックという新分野で先鞭をつけるための機会になるのだと思います。今後、本格的に自動運転車両が展開された暁には、新保険の開発が必要になりますから。

 今後は、より多くの日本の大企業と話がしてみたいと思っています。もちろん、適切な規模のビジネスチャンスがあれば、という前提ではありますが、日本市場進出には前向きです。

―日本の大企業との協業を考えた時、どのような形態のパートナーシップが理想でしょうか。

 業界としては、Teir1の自動車メーカーや物流企業、エネルギー企業との協業に関心がありますね。Oxaのソフトウエアは冗長なステアリングやスロットル無しで搭載可能ですので、提携先のメリットも大きいと思いますよ。これらの企業との提携形態へのこだわりは特にありません。また、投資の打診も歓迎しています。



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