DXの波が押し寄せる中、法務の領域でもAIなどのテクノロジーを駆使して作業の効率化を図る「リーガルテック」の導入が加速している。近年、リーガルテックサービスは増えているが、中でも急成長を遂げているのがLegalOn Technologies(リーガルオンテクノロジーズ、旧社名リーガルフォース)だ。同社は、契約書のレビューやそれに紐づく業務を効率化するAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」を2019年にローンチ。さらに、締結後の契約書を一元管理する「LegalForceキャビネ」の提供も2021年より始め、両サービス合わせて延べ3000社以上が利用している。同社の代表取締役 執行役員の角田 望氏に両サービスの導入効果や企業ミッションなどを聞いた。

契約書のレビューや検索を瞬時に実行。豊富なひな形が契約書作成にも一役

 角田氏は、2010年に京都大学卒業後、大手弁護士事務所に勤めるが、待っていたのは膨大な契約書のチェックだった。誤字脱字がないか、引用条文が間違っていないかなど、単調で定型的な作業が多い一方、見落としは決して許されず責任は重大だ。これは企業法務の課題でもあると感じた角田氏は、同じく弁護士の小笠原 匡隆氏(現取締役)と共にリーガルフォースを立ち上げる。

 当初は契約書専用のWebエディターの開発も模索したが、軌道に乗らず、一番の課題である契約書のレビューに的を絞り直し、約3カ月でβ版をつくり上げた。「仲間たちの知見や手厳しい指摘があったからこそ完成できた(角田氏)」というLegalForceは、2019年に4月に正式にリリースされ、多くの企業の支持を集めていく。

角田 望
代表取締役 執行役員/弁護士
2010年に京都大学法学部を卒業し、同年、旧司法試験合格。2012年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。森・濱田松本法律事務所を経て、2017年に独立。同年、法律事務所ZeLoと株式会社LegalForce(現:株式会社LegalOn Technologies)を創業。現在、同社の代表取締役及びZeLoの副代表弁護士を務める。

 LegalForceは、PDF化した契約書をクラウドにアップロードし、契約の類型と自社の立場を選択するだけで、AIが契約書に潜むリスクを洗い出し、不利な条文や欠落している条項を指摘。アップロードしてから数秒で、修正箇所がハイライトして表示されるため、短時間で契約書のレビューを完了できる。実際、同社が実施したユーザーアンケートでは、契約書の審査・修正にかかっていた時間が平均3割削減できたという結果も出ている。

 さらにLegalForceには、条文検索機能もあり、キーワードを入力するだけで、自社のひな形やレビュー済みの過去の契約書から欲しい条文を瞬時に検索できるため、リサーチ時間も大幅に短縮できる。

 また、新しい領域の契約案件が次々に舞い込み、対応に苦慮している企業から「参照するひな形が欲しい」という声が上がったのに対し、「LegalForceひな形」を実装。企業法務に精通した弁護士が作成した700点以上のひな形(2022年7月現在)が搭載されており、契約書作成業務の負担軽減と品質向上を図ることができる。

 リーガルオンテクノロジーズの従業員は486名(2023年1月末現在)。うち弁護士資格のある従業員が15名在籍し、契約書レビューの指摘項目の信頼性や正確性を担保している。

 角田氏は「加えて、当社にはカスタマーサクセスチームがあり、当社サービスに関するお客様の活用の仕方や課題をヒアリングし、それを開発側にフィードバックしてサービスに反映しています。当社の実績は、業界ナンバーワンであり、これまでに多くのお客様から様々な声をいただいています。その声を基に、日々サービスや機能の改善に努め、完成度を高めてきたことが大きな強みになっていると思います」と自信をのぞかせる。

契約書管理の手間とリスクも激減 安心の「社会づくり」に貢献する

 企業法務において、締結後の契約書の管理も大きな負荷になる。契約書をキャビネットにしまったまま放置しておくと、更新期限が来ているのに気づかず契約が失効してしまったり、逆に不要になった契約が更新されてしまい余計な支出が発生したりといったリスクが生まれる。

「契約書の管理がきちんとできていない企業も多いですし、管理はしていても、エクセルで管理台帳を作成しているようなケースが少なくありません。そうなると、契約の期限などを1件1件、手入力しなければならない上、更新期限が迫っていないかどうか、何度も台帳を開いて確認しなければならず、多くのロスが発生してしまいます」(角田氏)。

 その課題解決に向けて、同社が2021年1月にリリースしたのが、AI契約管理システム「LegalForceキャビネ」だ。これを使えば、契約書のPDFデータをアップロードするだけで、契約書の表の文字まで含む全文をテキストデータ化して情報抽出し、自動的に契約管理台帳を作成してくれるため、手入力のミスや手間を削減できる。また、AIが契約の更新期⽇を⾃動で計算し、メールでリマインドするので、不要な契約の更新や重要な契約の失効を防ぐこともできる。

 契約書を探す際も、契約書の情報がすべてテキストデータ化されているため、条文検索機能により、契約書に含まれる単語から検索することができる。ファイルを1つ1つ開かなくても探したい契約書がすぐに見つかるし、確認したい条⽂に直接たどり着けるので、該当部分を探す⼿間もかからない。LegalForceキャビネを活用することで、契約書の検索時間と管理工数を限りなくゼロに近づけられるのだ。

 これらの機能と使い勝手の良さが高く評価され、LegalForceキャビネはリリース当初から大きな反響を呼んだ。LegalForceの導入企業は2500社(2022年9月現在)、LegalForceキャビネは600社(2022年11月現在)に上り、国内リーガルテックサービスの中でもトップランナーとなっている。

 ユーザー企業である、サントリーホールディングスの法務部は、LegalForceの持つ可能性を早期から認識し、プロダクトパートナーとして参画。契約書レビューや検索機能を活用して業務の効率化・品質向上を実現しており、契約書のチェック時には、1度はLegalForceのレビューを通すことがルール化されている。

 LegalForce導入の恩恵を受けているのは大企業ばかりではない。1人法務体制や、法務の専任がいない中小企業の場合、契約書の作成や審査を担当者1人でこなさなければならず、重要な契約ともなれば、心理的負荷も高くなる。

 MaaS(Mobility as a Service)に取り組む企業や自治体に向けたプラットフォームを提供する企業、MaaS Tech Japanも、法務専門の部署を設けておらず、コーポレート部門のメンバー1人が法務を担当。以前は、月2~3件の審査で手一杯だったが、LegalForce導入後、10件ほどの依頼にも対応できるようになった。

 インフルエンサーとブランドのマッチングにより企業のマーケティングをサポートするC Channel社も、以前は1人法務の状態で、日々審査業務に追われていたが、LegalForce導入により審査にかかる時間を約50%削減。また、700点を超える「LegalForceひな形」は、リソースとしての信用度も高く、新たに法務部に加わったメンバーとのナレッジ共有にも役立っているという。

 LegalForceキャビネの利便性を実感している企業も多い。クレジットカードの大手、クレディセゾンは、年3000件もの契約を扱い、契約書を法務チームから総務部に送って保管していた。契約書の参照が必要になるたびに、総務部に依頼しFAXで送ってもらっていたが、LegalForceキャビネを導入したことで、その手間が省けるのと同時に、契約書の「見える化」も実現。さらに、更新期限の自動通知により、契約書の見直しの漏れもなくなった。

 100年の歴史を誇る総合物流会社、辰巳商会も、5000件に及ぶ紙ベースの契約書を全国の事業所に分散して保管していたが、東日本大震災で東北の事業所が津波に襲われて契約書が流され、そのリスクを痛感した。また、契約書を参照する際には、各部署に電話して探してもらう手間も課題となっていた。LegalForceキャビネを導入して、タイトルだけでなく条文でも検索できるようになり、契約書を探す手間・時間が劇的に減ったという。

 旧リーガルフォース社は昨秋、「法とテクノロジーの力で、安心して前進できる社会を創る。」というパーパスを策定し、12月1日に「リーガルオンテクノロジーズ」と社名を改めている。角田氏はその背景にある想いを述べた。

「我々の社会は、法によって規律され、形作られています。『法』と『テクノロジー』を結び付けることができれば、『法』は強力な味方となり、不測のトラブルも回避して、安心して活動できる社会がつくれるはずです。そのためにも、当社のサービスを日々ブラッシュアップしていかなければなりませんし、今まで培ってきた知見や技術を活かしてさらに多くの社会課題を解決していきたい。当社に興味をお持ちの方がいれば、ぜひ一緒に新たなステージに向かって前進していきたいと思います」



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