小型SAR衛星の開発・運用を行うICEYE。フィンランド発の同社は、高解像度データを「いつでも」「どこでも」「素早く」提供できる企業として注目を集めている。今日、さまざまな自然災害への対応や一次産業のモニタリングの重要性が指摘される中、ICEYEは従来の人工衛星よりも簡単に衛星画像を届けられるという強みを有する。日本市場にも既に進出し、東京海上ホールディングスと資本業務提携を結んでいる同社。共同創業者でCEOのRafal Modrzewski氏に話を聞いた。

従来の人工衛星の「約10倍」速く衛星画像を届ける

――御社はどんなサービスを展開しているのでしょうか。

 ICEYEは、夜間や雲に覆われた場所などでも、天候に左右されずに観測できる小型SAR(Synthetic Aperture Rader=合成開口レーダー)衛星の製造から、保守・運用、衛星画像の解析まで一貫して行う企業です。当社のSAR衛星を用いることで、企業や政府機関は自然災害の状況把握や、農作物や鉱業などのモニタリングといった多岐に渡る領域で高精度のデータを活用し、問題解決を図っています。

Rafal Modrzewski
Co-Founder & CEO
ポーランドのWarsaw University of Technologyの電気工学を専攻後、フィンランドのAalto University でRadio Science and Engineeringを専攻。VTT(Technical Research Centre of Finland)に就職しRFIDと無線センシンググループに所属。Aalto Universityで超小型衛星Aalto-1の開発チームの仲間だったPekka Laurila氏と共に、ICEYEを共同創業、CEOに就任。

 ICEYEのSAR衛星は打ち上げ質量100kg以下と、これまでのSAR衛星に比べても非常に軽量で、開発コストを低減しています。その最大の特長は以下3つの機能に要約できます。

 1つ目が雨や曇りなどの天候に左右されずに解像度の高い衛星画像を入手できること、2つ目はデータを一般的な人工衛星より速く(1時間ごとに更新、24時間対応)入手できること。そして、顧客が望む地点にSAR衛星を2時間以内に飛ばせること、の3点です。

 これまでの人工衛星ビジネスは、BoeingやAirbusなどの大手航空企業が、高価で巨大な人工衛星を打ち上げる形が一般的でした。彼らの人工衛星は地球を1周するため、特定の地域の情報を得るためには、おおよそ24時間かかります。対するICEYEは、2時間と約10倍速く情報を入手できるのです。

 また、ICEYEのように小型衛星を打ち上げる企業との差別化においては、当社が用いるレーダー技術の搭載が挙げられます。通常の人工衛星は光を利用して地上を撮影するのですが、それだと夜間においては画像が不鮮明になってしまいます。

 当社のレーダーは日中でも夜間でも、晴れでも雨でも高精度の画像を撮影ができます。つまり、ICEYEは、顧客にとって非常に使い勝手のよい衛星画像をいつでも提供できるのです。

――ICEYEを使用した顧客の成功事例を教えてください。

 ブラジル政府と契約し、アマゾンの森林の監視のためにICEYEが使われています。以前は、アマゾンの奥地で森林の違法伐採が行われていても、当局がそれに気づくのは数カ月以上先だったといいます。しかし、ICEYEを使う現在では、特定の森林エリアに絞った衛星画像を入手できるため、数日で違法伐採がなされている現場を突き止められるようになったのです。

 今回紹介した、アマゾンの森林のようなケースを当社ではNatural Resource Managementと呼んでいます。森林に限らず、農業や漁業などの一次産業、鉱業に携わる事業者に対して当社は的確なソリューションを提供できます。氷山の監視や海上の石油流出の監視にも役立てることができます。

Image:ICEYE

需要増加の背景に「気候変動」アリ

――ICEYEに対する需要はどのように推移していますか?

 需要は拡大しています。2022年度の売上高は対前年比100%を超える数値で推移するなど好調です。2023年も、同程度のペースで成長を予想しています。現在、当社が世界で打ち上げているSAR衛星は24機です。2018年に第一号機を発射して以来、より打ち上げの頻度が高くなっており、今では1年で約10機打ち上げるほどです。

――ICEYEのプロダクトが求められている背景には、何があるのでしょうか。

 背景には、気候変動を起因とした自然災害の増加があります。たとえば、洪水の発生件数は毎年増えていますし、自然災害の被害規模も年々大きくなっています。そうした状況下で対応するためには、ICEYEの衛星を使って地球上のどこでも、素早く、天候にかかわらず衛星画像を入手する必要があります。

 後でお話しますが、日本からの需要が増加しているのも、この自然災害への対応が理由です。津波などで地域を破壊しかねない甚大な被害を未然に防げる可能性が高まるのです。

――御社はDNX Venturesなどから、累計3億1330万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。

 当社はこれまで人工衛星ビジネスにかかわるさまざまな領域に投資をしてきましたが、2022年2月にまとめたシリーズDラウンドの資金調達(1億3600万ドル)は、主にSAR衛星の開発に充てました。具体的には、SAR衛星のサイズを2倍大きくすることで、目的地までより速く到達できる仕様に変更しました。また、人員の拡大も資金の投入先です。とくに、自然災害への対応や、1次産業の問題解決という領域に注力しています。

Image:ICEYE / DNX Ventures

日本市場に訴求する「DX」と「安全保障」ニーズ

――日本市場に進出する考えはありますか?

 日本市場は大変興味深い市場で、すでにICEYEのメンバー数人が日本で勤務しているほか、東京海上ホールディングスなどの大企業とのパートナーシップも締結しています。

 ICEYEはフィンランド発の企業ですが、フィンランドと日本の企業文化は似ているところがあると思います。たとえば、2つの会社が膝を突き合わせて、ともに問題を解決していこうとする姿勢に共通点があります。

 当社と東京海上ホールディングスの関係性がそうでしょう。ICEYEは人工衛星の専門家ですが、先方は海上保険に関するスペシャリスト。お互いに話をしていくうちに、災害サービスの高度化や衛星データを活用した事故予兆サービスの高度化など、さまざまな領域でパートナーシップのシナジーが発揮できることが明らかになりました。

 また、DX(デジタルトランスフォーメーション)と国土防衛という日本が直面する課題の解決という意味でも、ICEYEが貢献できる可能性は高いと考えています。前者については、超高齢化社会への解決策としてDXの必要性が叫ばれていますし、後者は年々不安定になっていく安全保障環境下では、衛星通信網の構築はマストです。

 以上のような理由から、ICEYEは日本市場のフロントランナーになれる可能性があると考えています。

――日本の大企業との協業を求める場合、どのようなパートナーシップの形態が理想でしょうか。

 協業の形態は問いません。むしろ、協業において最も大切なのは「(協業先が)ICEYEと組むことで、問題を解決できる」ことにあると考えています。

 たとえば、ICEYEは建設会社に対して「人工衛星を使って、ビルの建設を素早く完了させるヒントを知りたい」というニーズに応えられるでしょうし、農家に対しては「人工衛星を使って、収穫量を最大化するノウハウを知りたい」というニーズにも訴求できるでしょう。つまり、お客の中にあらかじめある問題意識に対して、ICEYEが貢献していく、という形がベストです。

 現在のところ、当社は投資という関係性よりは、顧客や対等なパートナーシップという形態を求めています。ともに問題解決ができる企業と話をしてみたいですね。

Image:ICEYE

――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 SAR衛星の大型化に取り組むなかで、複数のセンサーを取り付け、より多くのデータを取得していきたいですね。多くのデータを組み合わせれば組み合わせるほど、より多くの問題を解決することにつながるからです。その問題が自然災害への対応であっても、資源の保全のためであっても、データが集まれば、より効果的なソリューションを編み出せます。

 現在も、当社の顧客との協業で、先方が既に持っているデータとSAR衛星が取得したデータを組み合わせるという動きが加速しています。より多くの企業と協業し、ICEYEが一般化された未来では、人々は安心して生活を営むことができるようになるでしょう。



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