目次
・「大企業びいき」の市場ギャップに商機
・ニーズに柔軟に対応できる倉庫管理モデル
・日本市場への進出は2026年ごろ
「大企業びいき」の市場ギャップに商機
新型コロナウイルスのパンデミックは、ライフスタイル全般のデジタル化を否応なしに進め、それに伴い、小・中規模のeコマース事業者の数が増加した。しかし、その多くは受注から梱包、配送、アフターサービスまで、eコマース事業に付随する一連のプロセスを全て自社で行っているケースが多い。これは、こうした業務を代行するフルフィルメント企業が、大企業を対象とする傾向にあることが理由だ。
Hubooは、この市場のギャップに目を付けた。同社は、大企業だけでなく、小・中規模の事業者も含め、あらゆる規模のeコマース事業者にエンドツーエンドのフルフィルメントサービスを提供する。
「小規模なeコマース事業者の多くは、自社に適したフルフィルメントサービスを見つけることができないという課題がありました。そのような企業は、販売が軌道に乗っても、自分たちで商品の受注から配送まで対応しています。その結果、eコマース事業の起業家が、いつのまにか箱詰めの作業員になってしまうのです。これでは事業の成長も制限されてしまいます。そこに私たちはビジネスチャンスを見出しました」
Bysh氏は、現CTOのPaul Dodd氏と共に2017年にHubooを設立した。これまでにも、ソフトウェアエンジニアとしてコンピューターゲームの開発、オンラインサイトおよび決済プロバイダーなど、さまざまなスタートアップの立ち上げを行ってきた。
image: Huboo
ニーズに柔軟に対応できる倉庫管理モデル
なぜ、Hubooが小・中規模のeコマース事業者にもフルフィルメントサービスを提供できるのか。その理由の1つは、プロセスのあらゆる側面に参加する小規模チームによって運営される「ハブ」(マイクロ倉庫)に焦点を当てた同社の倉庫管理モデルにある。
従来のフルフィルメント業者は、単一の運営モデルで統一されていることから、eコマース事業者はその運営モデルに従う必要があった。一方、Hubooは顧客ごとに運営モデルを変える柔軟な体制となっており、各ハブは熟練したハブマネジャーによって管理される。さらに、顧客企業のビジネスと製品を熟知した専任の倉庫チームが対応することで、あたかも顧客企業のチームの延長線上にいる存在として機能する。
「当社の運営モデルは、仕事を単純化するためにバラバラになっていた倉庫の仕事を1つにまとめ、倉庫スタッフが価値を持って取り組める仕事へと変えました。従来、倉庫業の課題の1つであった離職率の高さが劇的に下がりました」
「スタッフは、顔の見えないeコマース事業者のために働いているのではありません。彼らは顧客企業を理解し、顧客もスタッフに感謝の念を抱いてくれています。このフィードバックのやりとりが、スタッフの当事者意識を生み出しています。顧客に合わせた柔軟な運営モデルを持つことで、より幅広い顧客と仕事をすることができるようになりました」
「配送業者との統合、チャネルとの統合、マルチチャネル管理ソフトウェアとの統合など、これらは全てソフトウェアの問題です。倉庫管理システム、配送業務の意思決定エンジン、サービスダッシュボードとしてのフロントエンドソフトウェア、顧客が使用するソフトウェア、これらも全てソフトウェアの問題です。従来、フルフィルメント企業はそのようなソフトウェアのほとんどをサードパーティーに外注するか、既製品で済ませることが多かった。そのため、変更できることも限られていました。ソフトウェアをコントロールしなければ、業界に革命を起こすことは難しい。そのため、私たちはソフトウェア会社になる必要があることに早くから気が付いていました」
image: Huboo
Hubooは、全てのソフトウェアを垂直統合している。また、注文情報や発送・追跡情報を共有するための自動化されたオープンAPIを含む、30以上のマーケットプレイスやeコマースプラットフォームと統合している。
「大企業で当社のダッシュボードを使いたくない場合、当社のオープンAPIに統合することができます。最も重要なことは、顧客のために迅速にソフトウェアを構築することができることです。そのおかげで、大企業とも連携することができています。大企業がソフトウェアの変更を必要とする場合、従来のフルフィルメント業者はソフトウェア会社に変更を依頼しなくてはならないため、通常1年~1年半のリードタイムを要します。Hubooの場合、ソフトウェアを自社で開発・保有していることから、変更が必要な場合も数週間で構築することができます。ソフトウェアを保有することで、私たちは独自の運営モデルを構築することができました」
Hubooは現在、1,700社の顧客を抱える。NestleやUnileverのような大企業から、自宅でビジネスを営んでいるような小規模な顧客まで多岐にわたり、英国ではフルフィルメント企業としてのブランドを確立している。
「直近の年商は約4,000万ポンドでした。3年前は30万ポンドだったので、この間に非常に大きな成長を遂げられました。毎月50~100社の新規顧客を獲得しています。従来のフルフィルメント企業の新規顧客の獲得数は1年に数社ということもざらにあるので、私たちはこの運営モデルを構築したおかげで、驚異的なペースで顧客を増やすことができています」
日本市場への進出は2026年ごろ
2023年11月には、シリーズBの資金調達ラウンドで新たに3,660万ドルを調達した。調達資金は、人材の確保や欧州全域でのビジネス拡大、米国展開などに充てる予定だ。日本市場への進出は、2026年ごろを目指すという。
「私たちは通常、現地のソフトウェアプロバイダーとの提携を探しています。ソフトウェアプロバイダーやチャネルは、現地での顧客を見つけるための重要なルートです。今、私たちが取り組んでいることは、米国展開に向けて米国の投資家を探すことです。シリーズC、D、Eでは、アジアでの事業参入を支援してくれる投資家を探すことになるでしょう。それが次のステップだと思います」
Bysh氏は、今後12カ月で達成したいマイルストーンとして、事業の黒字化の達成を挙げる。「1年半前の私たちはVCの支援を受け、ビジネスの市場拡大に集中していました。しかし、環境は劇的に変化し、投資家は現在、そのような拡大主義的なアプローチを取る企業を支援することに消極的になっています。収益性の高さなどが好まれる状況にあるため、過去1年間はそこに注力しました。その結果、昨年は事業規模が倍増、利幅も大幅に拡大しました。単に生き残るためではなく、エキサイティングな成長、次のマイルストーンにつながるための投資を募ります。市場は巨大で多くの可能性があります。どんな起業家にとっても、エキサイティングな瞬間です」