目次
・大学生で一度目の起業、ネット広告のリアル実感
・主力事業はメディア向けの「GENIEE SSP」
・売上高は年40%増の「高成長期」
・成長著しいアジア市場にも展開
大学生で一度目の起業、ネット広告のリアル実感
―工藤社長が2010年に起業した経緯を教えてください。
さかのぼると、母の実家が農業をやっていて、子供の頃から小遣いをもらって手伝いをしていたのですが、繁忙期にはアルバイトの方を何十人も雇って作業していました。そのような環境で、商品の売り方や、人を雇い給料を払うといった経営のプロセスを子供ながらに身近で体験しましたし、私自身も生産工程の改善方法を考えたりして、ビジネスの楽しさを知りました。それが、起業家を志すようになった原体験です。
そして高校生になって、「これからITの時代が来る」と強く感じるようになり、大学ではコンピューター関連の学部を選びました。コンピューターサイエンスの研究をする傍ら、ITベンチャーでアルバイトも始めました。そこでベンチャー企業の雰囲気を知れましたし、自分にもITビジネスができるのではという手応えがあり、大学4年生の時にSEO対策のサービスを行う事業を興しました。
当時は、検索エンジンが今ほど優秀ではなかったので、少しの工夫でクライアントのサイトを上位表示することができましたし、ホームページの制作も請け負っていたので、人の役に立っているという実感がありました。お店のサイトが検索エンジンの上位に表示されると、リアルに繁盛するということを目の当たりにし、ネット広告の面白さを知るきっかけにもなりました。
―大学卒業後、すぐに起業せずに、いったんリクルートに入社されたそうですね。
学生時代にITベンチャーやネット広告についての知識は深まりましたが、一方で自分の力不足も痛感していました。当時はGoogleなどが急成長していった時代で、私が研究していた検索エンジンや人工知能などの先端技術をビジネスにつなげられたら世界を変えるような会社を作れるのではないかとも考えました。しかし、具体的にそれをどう実現するかというイメージが描けなかったので、一度どこかで勉強しようと思い、ネット系のビジネスに軸足を移そうとしていたリクルートに入りました。
リクルートでは、アドネットワークの新規事業の立ち上げに成功し、日本最大級のエリアアドネットワークを構築しました。その後、事業グループを数十名規模にまで成長させることができ、立ち上げた事業を拡大していくノウハウも学びました。
そんな時、「RTB(リアル・タイム・ビッディング)」というネット広告取引の新しい技術が登場し、米国でRTBやアドテクの会社が伸びそうだという情報に触れました。インターネット広告業界にイノベーションが起こりつつあったのです。そこで、最先端をゆく技術を使ったプロダクトを開発・提供する会社をつくろうと、ジーニーを創業しました。
―起業後は会社は順調に軌道に乗ったのでしょうか?
しばらくは厳しい時期が続きましたね。創業当時はリーマンショックの影響で景気が悪く、当社の知名度も低かったため、なかなか交渉が進みませんでした。しかし、われわれのサービスや技術を一歩一歩向上させていく中で、当社に対する評価も徐々に高まっていったように思います。
主力事業はメディア向けの「GENIEE SSP」
―御社は技術開発力に定評があり、複数の広告プラットフォームやMAなどのプロダクトを全て内製で開発、OEM提供していますね。それぞれのプロダクトの特徴を教えてください。
当社グループは、ウェブサイトやスマホのアプリ上に、閲覧者に合った広告を瞬時に選択し、表示させる技術(アドテクノロジー、略称アドテク)を使って、インターネットメディアや広告主の広告収益や効果を最大化させるプラットフォームを提供しています。
主力事業は、インターネットメディアの広告収益を最大化するためのプラットフォーム「GENIEE SSP」(SSP : Supply Side Platform)です。インターネットサイトやアプリ上の広告枠を閲覧するユーザーごとに、RTB技術によりオークション形式で選択された最適な広告を配信する仕組みです。 RTBは広告の表示ごとにオークション方式で最も高単価な広告を配信する仕組みで、リアルタイムにインターネット広告枠を取引できる技術です。ユーザーがサイトにアクセスしてから選択された広告が表示されるまで、平均0.1秒以下という速さで行われています。
「GENIEE SSP」は、国内外のDSP(Demand Side Platform)やアドネットワークなどとシステム連携しており、オークション(広告取引)の参加者が多いです。また、「GENIEE SSP」の初期設定さえ完了すれば、タグの張り替えなどの面倒な作業は一切必要ありません。
次に、広告主の利益を最大化するための広告買い付けプラットフォームが「GENIEE DSP」です。国内最大級の広告在庫データを保有する「GENIEE SSP」に接続することで、優良媒体の在庫をオンライン上で押さえられ、決められた広告予算の範囲の中で広告主のニーズに合わせて選択された枠へ広告を配信します。その広告枠は、インターネットユーザーの過去の行動履歴や購入履歴、位置情報等のデータに基づいて選択された、広告主にとって有望な見込み顧客と想定されるユーザー群の枠となるため、費用対効果が非常に高くなります。
当社のプロダクトを導入いただいたお客様からは、外資系の営業支援ツールの数分の1のコストで効率的なマーケティングができるようになったという評価の声もいただいています。
image: ジーニー HP
―具体的にどのような形でコストダウンを実現されているのですか?
AIなども駆使してプロダクトの費用対効果を高めるような開発を続けています。また、「GENIEE SSP」や「GENIEE DSP」以外にも、数々のプラットフォームやサービスを展開しています。例えば、「GENIEE DMP」(DMP : Data Management Platform)は、広告主やインターネットメディアなどの内部に蓄積された顧客情報や売上、購買情報、自社サイトへのアクセス履歴などのプライベートデータと、インターネット上に蓄積されるユーザーの興味・関心データなどのパブリックデータの2つを統合し、それらを分析・活用することができるプラットフォームです。
そして、企業のマーケティング活動を自動化し、効率的に潜在顧客の集客や購買・契約などを行うためのプラットフォーム「GENIEE MA」(MA : Marketing Automation)は、「GENIEE DMP」と連携することでビッグデータを活用した高精度なユーザーのターゲティングが可能な上、メールやLINEによるメッセージ配信・自動メッセージ対応など効果的なマーケティング活動を可能にします。
さらに、顧客管理や商談管理、データ分析を一体化したクラウド型サービスの「GENIEE SFA/CRM」を「GENIEE MA」と併用することで、営業機会を最大化することができますし、ミーティングの音声を自動で文字起こししてサマリーを作成したり、次のアクションを提案するような機能も備えています。今やマーケティングには、メールやバナー広告、SNSなど、さまざまな手法が使われていますが、当社の複数のプラットフォームがそれを一元管理することで、圧倒的な費用対効果や生産性を提供できています。
―事業展開はどのように行われているのでしょう?
色々なパターンがありますが、代理店経由で広告主を紹介していただくケースと、お客様から直接引き合いをいただいてプラットフォームを導入いただくケース、主にその2パターンです。お客様はメーカーもありますし、商社、金融、サービス業など多岐にわたります。
ビジネスモデルについて、売上は主に広告表示回数などに応じて広告主様からいただく「手数料」と、システムやサービスの利用料として月額などでいただく「利用料」の2つにより成り立っています。
売上高は年40%増の「高成長期」
―ここ数年、御社の業績はどのように推移していますか?
2020年度から2022年度にかけて、売上がそれぞれ33億、48億、64億と毎年40%前後の伸びを見せていますので、高成長期に入り始めているという手応えはあります。このような成長率を実現できているのは、われわれの費用対効果の高いプロダクトが多くの市場で評価されるようになったということと、日本の大手企業のお客様にわれわれのプロダクトの機能やサービスが受け入れられ、エンタープライズ市場での取引が増えてきていることが要因ではないかと思います。今後もどんどん増員を図りながら、さらに事業を拡大していきたいです。
―見事な急成長を遂げられていますが、ここに至るまでにご苦労がありましたか?
サービスを開始して3、4年経ち、取引先が急速に増えていったころ、ウェブサイトのトラフィックに当社の基幹システムが堪え切れなくなって、取引先のサイトがたびたび落ちる事態が発生しました。おかげで方々に謝罪して回る日々が続き、骨の折れる思いでした。しかも、基幹システムをきちんとリニューアルしようとすれば、その間ビジネスを止めなければならない。かなり悩みましたが、せっかくシステムを作り直すんだったら、半年ぐらいかけて良いものにしようとエンジニアたちが言ってくれました。その半年間があったからこそ、システムやプロダクトをじっくり見直す機会ができ、日本一と自負するプラットフォームを作り上げることができたんだと思います。
―当面の目標をお聞かせください。
高い成長率を維持するために、エンタープライズのお客様の獲得をさらに進めること、それから、ネットメディアの広告代理店だけでなく、旧来型の広告代理店との協業にも力を入れていきたいと思っています。テレビCMやチラシ広告に強い代理店さんは色々いらっしゃるのですが、ネット広告やAIの知見があまりない代理店さんも少なくありません。しかし、ネット広告がテレビなどの媒体の広告費を上回るような情勢ですから、さすがにネット広告も手掛けなければまずいという危機感をお持ちになられていて、当社のプロダクトへのニーズも高まりつつあります。
そのような代理店が持っているお客様やリアルプロモーションの知見と、われわれが手掛けているネット広告やAIの知見を合わせれば、ビジネスをより一層、高収益なものに変革できるはずです。こうした取り組みも進めながら、この2年ぐらいでプライム市場に上場できればと考えています。
image: ジーニー HP
成長著しいアジア市場にも展開
―協業のお話が出ましたが、今後どんな企業とパートナーシップを組んでいくことをお考えですか?
われわれのアドテクやネットマーケティングに関する知見は、日本でもトップクラスだと自負していますので、色々な業界の事業ドメインの専門的な知見をお持ちの企業や、新たなマーケティングツールやAIを導入することで大幅な効率化が期待されるような業務を手掛けている企業とパートナーシップを組んでいきたいですね。
例えば、法律関連の会社と生成AIを活用してリーガルチェックを自動化するサービスを提供したり、電話会社と組んで企業への問い合わせ等の電話応対を自動化するサービスを作ったりと、事例はいくつかありますが、我々とは異なるジャンルの知見やお客様をお持ちの企業と組んで新しいものを創り出していきたいと思っています。
―御社は海外拠点もお持ちですが、グローバル展開も含め、将来のビジョンをお聞かせください。
当社は、「誰もがマーケティングで成功できる世界を創る」というビジョンを掲げていますが、マーケティングの世界には、使いづらいツールや成功できない要因がまだまだたくさんあります。当社はM&Aなども積極的に行っていますが、さまざまな施策を進めながら事業領域を広げ、組織力やプロダクト能力も上げて、日本はもちろん、成長著しいアジアのお客様も成功に導いていけるようなサポートをしていきたいと思っています。
―御社の事業展開にご興味をお持ちの皆さんに、改めてメッセージをお願いします。
テクノロジーの進化はますます加速しており、今後AIの発達・普及によって世の中が大きく変わるのは間違いありません。最先端のAIを使うことで、少人数で大企業並みのビジネスが動かせるようになる日も遠くないでしょう。そのような情勢の中で新ビジネスの立ち上げや大胆な業務改革など、次の一歩を踏み出さなければ、時代に取り残されていくことにもなりかねません。時代の変化を先取りして、新しいチャレンジをしたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ一緒にそれを実現していきましょう。