ブロックチェーン技術から分散型アプリの可能性を見いだす
Dapper Labsの共同創業者の1人であり、Presidentを務めるNaayem氏は、そのキャリアのほとんどをスタートアップで過ごしてきた。米コロンビア大学で学んだ後、Features-as-a-Serviceとモバイルゲームをつなぐクラウドベースの開発プラットフォームを提供するスタートアップ、Fuel Poweredを創業し、CEOを務めた。
SEGAやバンダイナムコなどの大手モバイルゲーム社を含む顧客を抱え、月間アクティブユーザーが2億5,000万人を超えるサービスを提供するようになったFuel Poweredを、2017年に仮想通貨分野で事業を展開するAnimoca Brandsに売却した。
Axiom Zenの創業者であるRoham Gharegozlou氏らと2018年にDapper Labsを創業。2022年8月からPresidentに就任。
ビジネス課題にブロックチェーンやAIといった新技術を適用することを専門とするAxiom Zenの役員も務めた。そして、同社の創業者、Roham Gharegozlou氏(Dapper Labsの現CEO)と同社でChief Software Architectを担っていたDieter Shirley氏(同CTO)とDapper Labs創業のきっかけとなるブロックチェーンベースのゲームCryptoKittiesを開発した。
仮想猫の売買や収集、交配で猫を飼っているように楽しみ、仮想通貨を稼ぐCryptoKittiesは、ブロックチェーン技術をエンターテインメントに展開した最も早い試みの一つ。メインストリームのユーザーにリーチし、商業的な成功を収めたブロックチェーンアプリケーションとなった。
CryptoKittiesの成功から、Andreessen HorowitzやUnion Square Venturesといった著名なベンチャーキャピタルから1,200万ドルの資金を調達し、Dapper Labsが2018年に誕生する。
「2017年にさかのぼると、誰もがブロックチェーンをただお金が行き来する方法として見ていましたが、私たちはイーサリアムのアーキテクチャを見て、分散型アプリや分散型インターネットの可能性を感じました」
「Dapper Labsのミッションは、分散型インターネットと分散型アプリケーションの利点を、何百万人、何千人ものユーザーに届けることです。その中で、皆がとっつきやすいエンターテイメントを介してブロックチェーンの技術を使ってもらえるようなアプリを構築すること、ゲームから始めることがベストだと考えました」とNaayem氏は語る。
Dapper Labsは「ブロックチェーンはあなたのためにある(Blockchain is for you.)」をミッションに掲げる。
NBA Top Shotの成功 特化型ブロックチェーンFlow、Dapperウォレットを開発
Cryptokittiesは当時、業界で大きな存在となったが、世界的には大きな存在ではなかったとNaayem氏は語る。しかし、人気は口コミや報道を通じて、どんどん広がっていった。Cryptokittiesでブロックチェーンベースのゲームというアイデアを生み出した後、大人気アプリとなるNBA Top Shotをリリースし、NFTが主流になるきっかけを作った。
NBA Top Shotは、NBAのデジタルビデオコレクタブルプラットフォームであり、ファンは公式ライセンスのデジタルグッズを収集することができる。「Moments」と呼ばれる公式ライセンスの限定版デジタルコレクタブル商品を通して、NBAの最高の瞬間のプレーを購入、所有、販売する機会をファンに提供する。
購入はすべてDapper Labsが開発したDapperウォレットを経由して行われるため、取引は簡単で安全かつ確実という。さらに、Dapper Labsが独自に開発したブロックチェーンであるFlow上に構築され、シームレスで優れた消費体験をサポートする。
「Dapper Labsの最初のミッションは、まず何百万人ものユーザーにCryptokittesのような技術を試してもらえるようなアプリを作ることでした」
「しかし、当社が利用していたインフラは何百人ものユーザーを集めるには十分ではないことがわかりました。そこで、結局、アプリケーションとインフラの両方を構築することにし、分散型アプリケーションに特化した独自のブロックチェーンFlowを開発し、ユーザーが簡単にアプリを利用できるように、独自のウォレット(Dapper Wallet)を開発しました」
NBA Top Shotは、ユーザー同士だけではなく、NBA選手自身やNBAチームのオーナーによって話題にされ始め、ユーザー数は著しく増加を続けた。
Image:Dapper Labs
一方、Dapper Labsが開発したNFT特化型のブロックチェーンFlowも、ローンチ以来多くの企業を魅了し続けている。顧客には、アメリカ及び欧州の開発者が多いが、中国の開発者にも人気が高いという。
日本の企業も数社、Flowを利用している。ソーシャルメディア大手ミクシィは、2021年11月にFlow上で新規事業創出するためにDapper Labsと業務提携を発表。2022年2月には、スポーツ・チャンネルDAZNと共同で、Flowを活用したスポーツ特化型NFTマーケットプレイス「DAZN MOMENTS」の提供開始を発表するなど、エンターテイメントとスポーツに精通した企業として、消費者とデジタルコンテンツとの関わり方を変えるためにブロックチェーンに着目する。
「ミクシィは、Web3と、Web3のゲームの力を信じています。私たちは、ブロックチェーンをどう活用するかということに真剣に取り組み、現在ある以上のものを顧客に提供しようとする企業との提携を進めています。リスクを負うことを厭わないという点でスタートアップとの提携も多いのですが、ミクシィのように多くの素晴らしい大企業が、常に次のことを考え、どうしたら将来への準備ができるかを考えています。私たちはそのような企業との関わり合いを大切にしています」とNaayem氏は語る。
Dapper Labsと提携する日本企業の多くはWeb3分野での事業開発を目指し、その基盤となる適切なブロックチェーンを探しているところが多いという。Dapper Labsは、そのような企業にFlowブロックチェーンやDapper Walletを提供し、Web3に参加するのは初めてという企業に対して、Dapper Labsが培ってきた経験や学びを共有し、事業の成功を支援する。
Image:Dapper Labs
Web3を広めるための取り組みを推進 政策立案へロビーイングも
Dapper Labsは、2022年1月にNFT企業として初めて、米政府にロビー活動を行うための連邦政府登録を完了させたことを発表した。Dapper Labsは、Crossroads Strategiesをロビー活動会社として採用し、「Web3の教育活動と主流化」を推進するために、ブロックチェーン、金融サービスに関連する政策要望を政策決定者に伝える活動を行っていく。
「新しい技術については、市場や政策決定者を教育することが本当に重要だと思います。特に、価値のある資産を扱う業界では、トークンやNFTなど規制が重要になってきます」
「同時に、イノベーションを妨げないような方法で規制することが重要です。そこで、私たちは政策決定者と共に、これらの技術がどのようもので、どのような可能性があるのかを共に議論することで、顧客が保護されていることを確かなものにしたいと考えています。また、この活動は、技術の利点が顧客に良い影響を与えるような、正しい種類の法案をよりよく作成するのに役立つだろうと考えています」とNaayem氏は説明する。
Image:Dapper Labs
Web3を広めるための取り組みを進めるDapper Labsは、過去7回のラウンドで合計6億1,250万ドルの資金を調達している。
投資家には、Google Ventures(GV)、Samsung、Coinbase、Warner Music Group等が名を連ねる。調達資金は製品の拡張と、より多くの製品のライセンスを取得するためにチームを成長させることに充てる。チームの大半が技術者であるDapper Labsは、エンジニアリングを第一に考える企業であり続けるという。
「私たちが成功するための方法は、開発者にとって安全で、使いやすく、エンドユーザーにとって非常に使いやすいテクノロジーを作ることです。そのためには、優秀なエンジニアとアーキテクトが必要です」
短期的なビジョンとして、アプリ事業に関しては、構築した製品をさらに成長させ、数百万人のユーザーを獲得することを目指していく。最終的には何億人ものユーザーにリーチするために一歩一歩進んでいくことが大事だとしたNaayem氏。
Flowプラットフォーム事業に関しては、継続的に成長させていくために、世界中のスタートアップや大企業など、多くの優れた企業と提携していくとした。
「長期的なビジョンとしては、ブロックチェーン技術の利点を多くの人に紹介するという私たちの約束を果たすことです。私たちは分散型インターネットが全ての人に普及するのを加速させるために、これからも取り組んでいきます」と、Naayem氏はDapper Labsの展望を語った。
日本市場の展開に関しては、強い期待をのぞかせてこう語った。
「日本の消費者は、他の国とは違って、新しい技術にリスクを負ってでも挑戦することが多く、デジタルにお金を使うことを好みます。その意味で、日本市場とブロックチェーンの適合性は非常に高いのです」
「また、日本市場ではWeb3分野で素晴らしいスタートアップが誕生しています。我々の業界はまだ非常に小さいので地理的に集中するのは早計だと思います。それよりも、誰が興味を持っているか、誰が本当に斬新なアイデアを思いつくか、そして誰が限界を超えようとしているかが重要なのです」
「私たちは新しいことをしようとしている企業、多くの価値をもたらすことができる企業と関わっていきたいと考えています」