製造業をはじめ、さまざまな業界の顧客にIoT/AIソリューション「Orizuru」を提供し、外部のITエンジニアとコラボレーションするための人材プラットフォーム「Ohgi」を運営するコアコンセプト・テクノロジー(略称:CCT、本社・東京)。現場のDXとIT人材の活躍を支援する企業である。代表取締役社長CEOの金子武史氏をはじめ、製造業向けのDXの先駆けともいえる株式会社インクス出身のメンバーが集結して2009年に創業したコアコンセプト・テクノロジーは、2021年に東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。その間にどんなチャレンジがあったのだろうか。創業コンセプトや業況、将来展望について金子氏に聞いた。

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20年余前、大企業が列を成して依頼するDX企業でキャリアをスタート

――金子様がCCTを創業するまでの経緯をお聞かせください。

 私は2000年にインクス(現:SOLIZE)に新卒で入社し、2006年まで勤めていました。インクスは20年以上前に製造業向けDXを手掛けていた会社で、特にスマートファクトリー、工場の自動化など、ベテランの暗黙知を形式知に置き換えてアルゴリズムで再現するような大きなプロジェクトを手掛けていました。学生時代、情報科学を学んでいまして、自分の知識や技術をベンチャーで活用したいと思って入社したのです。私の社会人としてのベースはインクスという会社で培われました。

 インクスを辞めたあとは、4年ほどコンサルタントとしてIT、デジタル支援をおこなっていました。そこでは、金融や小売、通信、アパレルなど、製造業とは異なるさまざまな業界で経験をさせていただきました。

 そのあとに、インクスの業績が悪くなり、民事再生の手続きを踏むことになります。インクスで研究開発などをしていたメンバーはそのまま会社に残るか、転職するかの決断を迫られていました。かなり高い技術力を持つメンバーでしたので、自分たちで事業をやってみようと、インクス時代の仲間7名でCCTを創業することになります。当時のメンバーは30代の前半から半ばぐらいで、もし失敗したとしても、その後の転職もできるだろうという思いもあったのです。

金子武史
コアコンセプト・テクノロジー
代表取締役社長CEO
2000年、東京理科大学理工学部情報科学科卒業後、インクスに入社。製造業向けのCAD/CAMシステムの開発、自社工場の立ち上げ、分散計算システムの開発等に従事。その後コンサルタントに転身し、製造業、金融、小売、流通、通販などの企業の業務改革を支援。2010年にコアコンセプト・テクノロジーに参画。2015年から現職。

同僚とともに、独立を決意 「反省点」から始まり顧客中心のコンセプトを貫く

――インクスで得た経験を活かし、キャリアを重ねて創業に至ったということですね。その後どのような事業を展開されていったのでしょうか。

 インクスは、民事再生が承認され、会社は存続する形になりました。そのため、私達のことをよくご存じなお客様に営業することは叶わない状態になりました。全てゼロベースで開拓しなければいけないというスタートです。どんな仕事でも請けるスタンスで、昼も夜もなく働いて、次の仕事、その次の仕事、という形で存続させていきました。ただし、創業の際に決めた「未来に望まれる姿を技術力で実現し、貢献する」という、イノベーションに対する価値を提供するスタンスについてはぶれずにおこなってきました。

 最初に自分たちの棚卸しをしました。インクスという会社は、先端の技術を追求する姿勢や、顧客にあるべき未来の姿を見せして受注していく提案力、優秀な人材を惹きつける風格、そして人材育成に長けた企業でした。大手自動車メーカーを筆頭に、顧客が列を成していて、プロジェクトも大手のIT企業を下請けとしてすすめていました。お客様が並ぶという事象を目の当たりにして、若手のモチベーションを高めてどんどん成長させて、すばらしい人材を輩出していたのです。

 しかし、民事再生に至りました。これにはいくつか理由があります。ひとつはリピート率10〜20%という顧客満足度の低さです。受注するまではいいのですが、お客様が並んでいるため、新規の案件をとりに行くことを優先していたのです。どんどん仕事をとってくるので、1人あたり3人分の仕事を任されるわけです。するとクオリティが悪くなって、顧客の信頼を得られません。でもマーケティング力や提案力が高いため、次から次へとお客様を獲得し、売上利益は伸びていたので、顧客の立場に立つことが少し軽視されていました。

――棚卸しが起点になり、会社のコンセプトを確立していったのですね。

 その通りです。そこで最初のプライオリティーに考えたのが、顧客視点の姿勢です。請け負った仕事は、期待以上の成果を出し、リピート率100%を目指しました。これが実現できたら営業力がなくても顧客が減らないので成長ができるだろうという考え方ですね。顧客が途切れなければ、事例をもとに新規営業ができます。お客様中心の業務をおこなってきた結果、中には、私たちの新規営業の際に同席くださるなど、応援いただく方もいらっしゃいました。

 お客様の信頼を得るには、まずこちらの考えを押し付けず、相手の事情や求めているものを受け止めることが大切です。そして、それを100%くみとって、なおかつ相手の期待を超えた結果を出します。やりたいことについて詳しく調べて、アイデアを出し、並走しながらプロジェクトを実現するパートナーとしてお付き合いします。このような姿勢を徹底しました。並走するだけでなく、相手の売上が伸びる、粗利率が改善される、その結果、時価総額が高まるといった経済的な成果にコミットします。

 最初はスモールスタートで一つのテーマ、チャンスをいただきます。私は日本の企業の皆様は真面目だと思っていて、皆さんご相談の際に現状の課題を一覧にしてくれます。私たちもそれに応えられるよう、同じような知識レベルに数日で追いつけるよう、凄まじい勢いで資料や関連情報を調べて自分たちのものにしていきます。同業他社の場合は資料に対する質問リストを作るのが関の山ですが、お客様が質問に答えるのもコストです。ですから、私たちはお客様とすぐに議論できるようなスピードを重視しています。プロフェッショナルとして、速やかに業務に着手しなければならないという考えを持っているのです。

 お客様も課題はリストアップするのですが、その原因がわからない場合が多いです。私たちは全力で調べてその原因を探って仮説を提案します。そこでお客様に感心されます。こうした取り組みを重ねることによって、よくあるパターンが見えてきました。そして、一つ一つの案件に向き合ってきた結果、2016年にAI/IoTソリューションである「Orizuru」の最初のバージョンができました。ソリューションの基盤ができることで、提供する品質も担保できるようになっていきました。

 営業段階で「Orizuru」にお客様の情報を入力すると、自動で見積もりや生産計画ができあがり、3年後の効果を見せることができます。これが最大の武器で、皆さん「ぜひ試したい」となります。未来を見せる営業手法はインクス時代の応用ですね。

Image: コアコンセプト・テクノロジー

中小企業回り、IT人材をつなぐプラットフォームを作る

――IT人材調達支援プラットフォームはどのようにできあがったのでしょうか。

 IT人材調達支援プラットフォーム「Ohgi」も創業当初の振り返りから生まれたものです。インクスという会社は外部に依存しないで、新卒を育て、他社でエースだった社員を中途採用したりしていました。とにかく、社内の人材の質にこだわっていたのです。

 社内の人材にはよかったのですが、自分達が先端のことを実践しているあまり、外部のビジネス知識などの習得は拒絶していました。常識を身に付けない若手が大量増産されていたのです。また、大手企業としか仕事をしていませんでしたので、中小の下請け企業の存在も知らなかったのです。外部の人材は、技術的に遅れているため、コラボレーションする必要はないと思っていたのです。

 しかし私がインクスをやめてコンサルタントとして過ごすうち、中小のIT企業の存在を知りました。同じスキルを持つ人が、営業力がないばかりに安い報酬で仕事をしている多重請負の課題も知りました。世の中にはインクスのメンバー以上に成果を出せる人たちがたくさんいることを知り、コラボレーションしていくことにしました。実は、創業した2009年9月17日初日から、IT業界で30名以下の企業を1社1社訪問する活動を始めました。こういった会社はたくさんあり、優秀な技術者も在籍しています。その能力を活用しない手はありません。

 そして今、「Ohgi」のネットワークには5000社の人材が登録されています。それでもまだIT企業はたくさんありますので、訪問を続けています。日本にはエンジニアが110万人いると言われており、そのおよそ半分の50万人が中小企業で働いています。世界有数のIT企業には40万人余が所属していると言われていますが、日本の中小企業すべてが「Ohgi」に参加いただければ、それを超えるのです。

 50万人の仮想大企業を作って、中小企業の多重請負の課題をなくしていき、あるべき姿を描いていけると思っています。これは、インクス時代にできなかった、自分たちのケイパビリティを広げることにもつながるため、お客様にもメリットのある取り組みでもあります。顧客満足を起点にした仕事の進め方と、外にいる優秀な人材をつなぎコラボレーションする仕組み、それが「Orizuru」と「Ohgi」であり、すべてはインクスの反省から始まったと言えます。

事業会社の競争力強化、中小IT企業の多重請負の課題解消にも挑戦

――2021年にマザーズ上場を果たしました。今後はどのように事業を展開されていくのでしょうか。

 まず、「Orizuru」の文脈では、事業会社の競争力向上のために各業界に対応したものを作っていきたいと思っています。業界・業種によって何が変革につながるかが異なるからです。製造業であれば、自動見積やスマートファクトリーの仕組みづくりの優先度が高くなります。建設業だったらBIM(Building Information Modeling/Management)をベースとしたデジタル活用がポイントになります。各産業の競争因子を「Orizuru」の機能に取り込んでいき、カバーできる産業を増やしていきます。

「Ohgi」の文脈では、IT業界の多重請負の課題を解消したいです。営業力がない中小のIT企業は、同じ技術力でも3次、4次請負となり、中間マージンをとられます。提供する価値に対して享受できるリターンが少ないので、これを上げていきたいと思っています。ネットワークを地方にも伸ばして、単価の高い東京の案件で腕を振るってもらい、地域経済にも寄与したいと思っています。また、IT技術はすぐには身につきませんので、経験者でもフルタイムで働けない子育て中の方や障がい者の方ともコラボレーションしていきたいです。いろいろなITエンジニアがより豊かな人生を歩めるプラットフォームにして、日本の50万人のエンジニアに参加してもらい、海外にも進出していきたいです。

――日本が豊かになっていくような、希望が持てる取り組みですね。

 私たちは前職での反省から、顧客満足を向上して取引を継続いただくことを目指し、真摯に取り組んできました。そしてお客様と仕事が増えていきました。私たちが魅力的な仕事をしていくと、コラボレーションする外部のIT企業の参加も増え、優秀な人が集まってくるようになりました。すると、私たちのスキルやケイパビリティが上がり、それらをプロダクトに反映していくことで、顧客に提供できる価値もさらに上がっていくよい循環ができています。早く、安く、質の高い顧客体験を提供できるようになっているのです。これは、顧客の体験を向上しながらサプライヤーが増えていくAmazonのビジネスモデルにも似ていますね。私たちはこれをIT業界において実践している企業なのです。

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