商品企画から生産、物流、マーケティング、収益化まで支えるプラットフォーム
――はじめに御社の事業概要について教えてください。
私たちの事業は大きく分けて2つあります。1つは「ブランドコマース事業」、もう1つは「パートナーグロース事業」です。
ブランドコマース事業では、ECやD2C領域を中心としたブランドの設計・企画から生産管理、ECサイトの構築・運用、マーケティング、物流管理まで支援するプラットフォームを開発・提供しています。
工場の検索やプロジェクト管理などもできる生産管理ツール「AnyFactory」、ECサイト構築ツール「AnyShop」、マーケティングツール「AnyTag」「AnyDigital」、物流管理ツール「AnyLogi」といったプロダクトがあります。これらをトータルで利用できるだけでなく、必要なツールだけ個別に利用していただくことも可能です。
パートナーグロース事業では、ウェブメディアやアプリを運営するパブリッシャーとクリエイター向けに、収益化やブランド成長に向けた支援サービスを提供しています。データ分析やUX改善を通じてスポンサーとのマッチングやコンテンツのマネタイズをする「AnyManager」と「AnyCreator」というプロダクトがあります。
課金モデルはプロダクトによって少しずつ異なっていますが、基本的に利用する量や収益によって変わる仕組みです。複数のプロダクトを一気通貫で利用していただく場合は、パッケージ料金での提供もしています。
――どのようなタイプの顧客が利用しているのですか。
法人・個人を問わず、インターネットを通じて自分たちがプロデュースするブランド商品やコンテンツを販売し、収益化したい方にご利用いただいています。
クライアントのタイプは3つあります。化粧品メーカーや航空会社のようなブランド企業、YouTuberやTikTokerなどのクリエイター、そしてメディアやモバイルアプリを運営するパブリッシャーです。
AnyMindが持つ複数のプロダクトは、3つのどのタイプのクライアントにも共通して有効です。また私たちは複数のプロダクトを組み合わせた販売(=クロスセル)をしているので、ECに必要な機能をシームレスに提供できているところが付加価値となっています。このクロスセルは顧客単価のアップにもつながるので、2017年から5年間、売上は平均して毎年60%強ずつ成長することができました。
積極的に新規プロダクトの開発に取り組み、成長率の高い海外市場で展開していることが私たちの成長につながっています。
ANAのECプラットフォーム構築など複数事業を支援
――御社のプラットフォームを使った成功事例について教えてください。
成功事例は多くありますが、例えば全日本空輸(ANA)の事例をご紹介します。もともとANAは日本国内やアジア向けに当社のインフルエンサーマーケティングやデジタルマーケティングのプラットフォームを使っていましたが、新たにECを始める際にも、私たちはサイト構築から物流管理、アプリの収益化、データ解析といったあらゆる機能をワンストップで提供できました。
また、ANAグループが取り組むメタバースのトラベルアプリ開発にも、収益化や解析支援で当社のプロダクトを使っていただいています。ANAグループの複数の事業で取り引きがあり、私たちの一気通貫のサービスが生きた事例だと思います。
Image: ANA NEO
――従来、そのような仕事は総合広告代理店が担ってきたような役割だと思います。マーケティングのデジタル化やEコマースが進み、その役割が御社のような企業にシフトしてきているのでしょうか。
仰る通りだと思います。プロダクトを自社開発している私たちは、デジタル中心のビジネス展開を考える法人や個人のニーズにマッチしたプロダクトを提供できていると思います。
私たちは創業以来、ずっとテクノロジープラットフォームに投資してきました。これが私たちの自信です。ANAが私たちを選んだ理由も、グローバルに統一されたプラットフォームで、マーケティングも、物流もクロスボーダーによる管理を叶えるところだったのではないかと思っています。
時代を見据え、インフルエンサーマーケティングに着目
――どうしてこのような事業を起こそうと思ったのですか。
もともとマーケティングをDX化したいという想いが強くありました。そこでデジタルマーケティングを最適化できるロジックのプラットフォームを作ろうと思ったのです。最適化のロジックとは、マッチングの精度を上げるとか、施策の効果をトラッキングする機能などのことです。
当社がシンガポールで創業した2016年頃、ちょうどインフルエンサーやSNSを使ったマーケティングが流行り始めていました。インフルエンサー自体がメディアになる時代だと思い、そのプラットフォーム構築から始めました。
東南アジアは平均年齢が非常に若い。けれど、若年層にリーチするツールやプラットフォームがまだありませんでした。そこでインフルエンサーを活用して、クライアントが効果を納得できるような透明性の高いマーケティングプラットフォームを構築したいと思ったのが始まりです。
「AnyMindはインフルエンサーマーケティングの会社」というイメージを持つ人が多いのですが、インフルエンサーがメディアの1つになるタイミングだったというだけで、とくにそこにこだわっていた訳ではありません。Advertising Technologyの1つだと思っています。
――いまではD2C事業にも進出されています。その狙いや既存事業とのシナジーはどこにあるのでしょうか。
理由は、お客さまからのニーズに応えたかったからです。1000社を超えるブランド企業が私たちのマーケティングプラットフォームを利用するようになった頃、EコマースやD2Cに取り組みたいという企業が増えてきたため、それに応えるプロダクトを提供することにしました。
またクリエイター側からも、自分たちのブランドを持ちたいとか、アパレルや化粧品を作って売りたいというニーズが増えてきました。ブランド企業とクリエイターと両方を支援したいというのが私たちの考え方です。
グローバル展開する理由は「ポテンシャル」と「人材」
――御社が急成長したもう1つの背景に、アジア市場の大きさがあると思います。海外事業はどのように展開しているのですか。
私たちは創業当初からグローバル展開を視野に入れてきました。AnyMindが起業したのはシンガポールです。今ではアジア13カ国に拠点を設けています。
東南アジアやインドといった国々は、GDPもECマーケットも確実に伸びることが期待されている成長市場です。こうした伸びしろの大きい国で、知名度を磨き、ニーズに応えるプロダクトを開発することによって大きなポテンシャルを獲得できています。
――アジアで展開するメリットは、他にどんなところにありますか。
海外展開するメリットは、何といっても優秀なエンジニアを確保できるところです。当社は日本、インド、タイ、ベトナムの4カ所に開発拠点を設けています。
日本国内で優秀なエンジニアを採用しようと思うと争奪戦になりますが、グローバルに目を向ければ可能性が広がります。短期間でプロダクトを開発する仕組みを整えており、開発力は私たちの強みと言っていいでしょう。
もう1つのメリットは、多国籍なリーダーによる開発ができているところです。各国のカントリーマネージャーのもと、それぞれの地域に合わせたニーズをすくい上げ、プロダクト開発ができています。こうした実績が評価されて、日本、中国、ASEANでGoogle Certified Publishing Partner(サイト運営者向けGoogle認定パートナー)に認定されました。
――現地ニーズに対応するために大事にしているポイントは何ですか。
どのプロダクトも基本的に統一のプラットフォームを使っていることです。ただ、国によって言語や商習慣が異なるところがあるので、ローカライズする部分も必要です。つまり、ビジネスモデルはグローバルで統一し、セールスマーケティングは各国の事情に合わせています。
ローカライズの場面では、現地ネットワークを築くことが重要です。例えば、各国でインフルエンサーネットワークをつくるのは、現地のチームが担っています。このほかアパレルや化粧品をつくる生産工場、クリエイターたちの獲得も現地チームが行なっています。特にパブリッシャーの獲得においては、これまで1200社を超える企業を獲得していて、月間解約率は1.0%を下回るという安定したネットワークを築いています。
――文化や価値観の違う外国企業とはどうやって協力関係を築いてきましたか。
私たちはインド、タイ、香港などの現地企業を買収することで、急拡大してきました。私たちがM&Aを重視する理由は、現地の優秀な社長を採用できるところです。各国でシェアを獲得していくためには、現地に強い販売チャネルを持つ、優秀なマネジメントチームを取り込む必要があります。
しかし、せっかく買収しても現地の経営陣のやる気が失われては意味がありません。インセンティブの設計を工夫したり、ストックオプションを発行したりするなど、いかに「現地の経営陣のコミットメントを引き出せるか」というところに焦点を当てています。
原点は海外放浪時代に味わった「アジアの熱量」
――なぜ海外で起業しようと思ったのですか。
子どもの頃、よく家族で海外旅行をしました。学生時代にはバックパッカーとして海外放浪していたこともあります。東南アジアやインドの熱量に引かれました。これから成長しようとするまさに過渡期で、若者たちのものすごいエネルギーで溢れていました。混沌としたカオスの状態でありながら、はっきりと「成長するにちがいない」と実感したのです。新しいビジネスが次々に興る様子を目の当たりにして、ここでビジネスをやりたいと思いました。
大学卒業後、就職したマイクロアドで6カ国の海外拠点の立ち上げに携わり、グロース化に導いた成功体験も大きかったです。東南アジアからスタートできたというのが良かったとのだと思います。
東南アジアは、とても親日家が多い国です。当時はまだ東南アジアのEコマースは今ほど育っておらず、競合が少ないブルーオーシャンなマーケットでした。しかも日本人が来てくれたというだけで歓迎してもらえました。だから現地に優秀なチームさえ作ることができれば、日本で通用しているプロダクトやビジネスモデルはアジアで十分に通用するのではないかと思います。
「アジアのプラットフォーマー」を目指す
――アジアに競合はいますか。サービスの特徴や違いはどんなところにありますか。
AnyMindのようなサービスで、アジアにフォーカスしている企業はほとんどないと言っていいでしょう。というのもアジアのEC市場でビジネスしていくためには、ローカルのECサイトと連携していく必要があるからです。現地の事情に詳しくない外国企業には参入ハードルが高くなっています。
今年4月に「AnyX」という新しいプロダクトを、1年弱の開発期間を経てようやくローンチすることができました。これは複数のECチャネルを一元管理できるプラットフォームです。Amazonをはじめ、日本の楽天やYahoo!、インドのFlipkart、東南アジアのShopee、LazadaなどあらゆるECサイトの販売を1つのプラットフォームでリアルタイムに管理できるようにしました。
売上、オーダーの状況、在庫管理、配送まで横断的に管理できます。複数のチャネルを扱うと、複雑な運用やノウハウが必要になりますが、これを使えば簡単で効率的な運用が可能になります。
マーケティング力は、きちんとデータを収集して、分析することによって強化されます。横断的にデータを集めることができるAnyXは、他のプロダクトとのシナジー効果が高い製品です。これが上手くいくと、クロスセルの仕組みがもっと増えてくるでしょう。
似たようなプロダクトは欧米では見られるものの、アジアでローンチしたのは当社が初めてです。アジアでの存在感を増していけるよう、どこよりも先駆けたプロダクト開発に力を入れていきたいと思っています。
Image: AnyMind Group
――日本企業に対する期待や求めるパートナーシップはありますか。
日本もDXで非常に伸びしろのある市場ですし、日本のブランドがアジアやグローバルにより羽ばたいていってほしいと思います。ECビジネスのグローバル展開に当社が貢献できればと思います。
――最後に、これからの長期的なビジョンを教えてください。
アジアはこれらからも伸びる可能性が高い、ポテンシャルの大きい市場です。ビジネスモデルは異なりますが、AnyMindはアジアにおいてリクルートやZホールディングスのような存在になりたいと思っています。アジアの企業やクリエイターたちが、インターネットを通じてもっと「可能性の羽」を広げていけるよう、支援できる企業になりたいですね。