(2023年12月27日に東京地方裁判所へ破産申請を行い、2024年1月10日に破産手続き開始が決定。帝国データバンク調べ。2024年3月追記)
エアモビリティの社会実装には、機体と管制システム両方が必要
――片野様の職業的背景や、A.L.I.Technologiesへジョインした経緯をお聞かせください。
私は東京大学工学部のシステム創成学科の出身でして、ここは工学部にありながら経営やデータ分析を扱うような学科でした。2007年に大学を卒業した後は、ボストン・コンサルティング・グループの日本代表だった堀 紘一氏が創立したドリームインキュベータに入社し、戦略コンサルティングを行っていました。当時の事業は半分が大企業のコンサルティングでして、のこりは主にベンチャー企業へのインキュベーション(ビジネス支援)でした。私としましては、ITや環境関連のビジネスに投資してコンサルティングをし、企業価値を高めるような仕事をしていました。
2010年にはボストン・コンサルティング・グループに移り、戦略コンサルティングを続けました。そして2014年にコンサルティングやプライベートエクイティ投資を行うYCPグループの日本法人代表取締役に就任しました。さらに、2016年には同グループ英国法人の代表として欧州エリアのビジネス展開を推進しました。
その傍らで個人的にスタートアップへのエンジェル投資もしていまして、A.L.I.Technologies創業者の小松(周平)氏と知り合いました。彼が持つホバーバイクと航空管制システムのビジョンを面白いと思って株主になったのです。当初は、大企業の紹介や、大企業との共同プロジェクトなどさまざまな支援していましたが、2018年には私自身も役員としてA.L.I.Technologiesに参画し、資金調達や事業開発など諸々の職務を担ってきました。
――有人飛行できるホバーバイクが注目されています。現在の事業概要についてお聞かせください。
2018年ごろは、今ほどエアモビリティに資金が集まる状況ではありませんでしたが、少ない資金でホバーバイク「XTURISMO」を開発して2019年の東京モーターショーに出展しました。同じタイミングで20億円程度の資金調達ができましたので開発を加速し、2021年10月には富士スピードウェイで有人走行の発表を行いました。2022年からはこの機体を海外に売り込むため、アメリカや中東でビジネスを展開しています。現在、UAEの政府関係企業が強い関心を持っています。
ホバーバイクの開発に加え、ドローンなどの航空管制に関する事業も創業当初から取り組んでいます。2019年〜2020年ごろになるとドローンがどのように使われるか定まってきたので、さまざまな企業や自治体とドローンの社会実装に向けた実証実験を行なってきました。たとえば、土木点検や測量などです。
ドローンやホバーバイクが日本中を飛行するようになった際には、機体同士がぶつからないようにしたり、どの機体がどこで何のために飛んでいるかをリアルタイムで把握するための管制システムが必要になることがわかっていました。ですから弊社は、機体と管制システム両方を手掛けています。エアモビリティが社会に広まっていくためのインフラをビジネスにしていきたいと考えてきたのです。
image: A.L.I.Technologies
ホバーバイクの早期実用化を目指し、中東での事業を推進
――ホバーバイクと管制システムはどんなビジネスモデルなのでしょうか。
ホバーバイクは機体の販売が収入源ですが、本格的な販売はこれからです。
現在は中東のUAE(アラブ首長国連邦)が一番の注力先となっています。UAEは石油依存からの脱却のためテクノロジーに投資し、世界中からさまざまな技術を誘致しています。テクノロジーのハブになりたいと考えているのです。そこで私たちは、ホバーバイクを国境警備や警察など、政府機関が利用できるものとして実証実験の提案をしています。
航空管制システムの「COSMOS(Centralized Operating System for Managing Open Sky)」については、同システムを活用したドローンによる点検・測量などの実証実験を行う場合もあります。日本の政府・自治体、企業にご利用いただいていますが、これも海外展開をしています。この1〜2年の間に中東で実証をしてデータを取得したのち、本格的に販売する計画です。中東は日本と環境が異なりますので、風や熱の影響などを考慮する必要があります。実証によってデータが取得できればメンテナンスや保険など実用化に近づくことができます。
私たちは、人が空を飛ぶことをもっと身近にしたいと考えています。現在は飛行機のチケットを予約してトランクに荷物を詰め込んで、フライトの2時間前に空港に行って、手荷物をあずけて保安検査を受けるなど、数々の手間がかかります。地形の悪いところにわざわざ道路・滑走路を作るのは環境破壊にもなります。一方で交通事故も深刻な問題となっています。もっと個人が気軽に飛行できる「エアモビリティ社会」を実現したいのです。
image: A.L.I.Technologies
――この分野での競合はいらっしゃいますか。また御社のプロダクトが優れた点についてお聞かせください。
競合他社の機体(ホバーバイク)はバッテリーで動作するものがほとんどですが、私たちの機体はガソリンとバッテリー両方の動力源を持っています。今後は水素エネルギーの実証も行っていきます。現状のバッテリー性能では飛行できる時間が短くなってしまいますし、バッテリーの進化を待っていられないからです。
管制システムについては、異なるメーカーのドローンを物流用途として同時に飛行させる実証実験にも成功しています。遠隔操作や状況監視においても、国内の競合製品を比べると多機能であると自負しています。
image: A.L.I.Technologies
中東での実証を足がかりに、世界中のモビリティの課題解決を目指す
――次のステップや、長期的なビジョンについてお教えください。
ホバーバイクについては、2023年中には中東の熱・風の環境でも安定して動作する機体を作り、現地の政府や関連企業と関係を深めていきます。2024年には販売をしていきたいですね。管制システムについては、国内での実証実験をすすめていきますが、より自由度が高い中東エリアでの社会実装を実現したいと考えています。新たな環境での対応ができれば、ほかの地域にも応用できる技術を身につけられると思います。
ご存知のとおり、世界においては日本のように道路が整備された恵まれた国ばかりではありません。車道が作れない砂漠や山岳地帯に道なき道を作っていくような社会貢献をしていきたいです。たとえば、インドネシアは島が多くエアモビリティの活用に向いていると考えています。また、道のない地域だけでなく、都市の交通渋滞による損失は深刻な社会問題です。東京を含めて、大都市ではこれ以上道を広げることは難しいため、これからのモビリティは空に向かっていくと確信しています。
社会に大きな影響を与えるという意味では、機体・管制システムともに大企業とのコラボレーションも積極的にしていきたいと思っています。機体(ホバーバイク)のサプライチェーンには多くの大企業が関わっており、三菱電機や京セラ、JR西日本などは我々の株主です。さまざまな分野の日本企業が集まって、世界に大きなインパクトを与えていけたらと思っています。親会社の米国法人AERWINS Technologies Inc.は2023年2月に、NASDAQに上場しました。今後私たちが成長していくことによって、グローバルなビジネスを展開される方々が増えていくのではないかとも思っています。