現代生活に欠かせない存在となったWi-Fiだが、10年後には「Li-Fi(ライファイ)」がこれに取って代わる存在となっているかもしれない。英スコットランドのエディンバラに本社を構えるpureLiFiはLi-Fi技術を開発するスタートアップだ。pureLiFiのLi-Fiは主に建物内での使用が想定されており、ユーザーはLED照明の他に、アクセスポイント(受信機)とドライバ(LED制御)を設置するだけで、Wi-Fiよりも約10倍も速く通信できるほか、高度なセキュリティも担保されている。日本でもすでに専門商社を通じて製品の取り扱いが始まっているpureLiFiのCEO、Alistair Banham氏に話を聞いた。

Alistair Banham
CEO
1999年から2001年までON SemiconductorでPresidentとGMを務める。その後、NXP SemiconductorsとWolfson MicroelectronicsでSVPを歴任。2016年6月にpureLiFiのCEOに就任(現職)。

Li-FiがWi-Fiに勝る2つのポイントとは

―pureLiFiはどのような課題を解決しようとしているのでしょうか。

 pureLiFiは、光を使用した高速無線通信技術であるLi-Fi(Light Fidelity)を使って、Wi-Fiによりも効率的で、安全な通信手段を構築する企業です。現在主流なWi-Fiの問題点は主に2つ。通信速度とセキュリティです。

 通信速度は、Wi-FiがRF(無線周波数)技術を利用するという性質上、同一エリアで接続されるデバイス数が増えれば増えるほど、通信速度は減少していきます。一方、Li-FiはLED照明の光における可視光と不可視光(赤外線)を活用し、Wi-Fiの10倍以上の速度での通信を可能にしています(技術的には100倍まで向上させることが可能)。Li-Fiは光スペクトル(光の強度)を自由に操り、マルチユーザー使用時の混雑を低減することができるのです。

 セキュリティに関しては、Wi-Fiには通信傍受の恐れがありますが、Li-Fiは建物内にいるユーザーのみが利用可能で、通信圏外(建物の外)にいるユーザーから情報を盗まれる心配がありません。情報漏洩リスクがある車両内やオフィス、工場、病院といった場所での使用が適しているでしょう。

 Wi-Fiと異なる点では、pureLiFiは「デバイスがアクセスポイントから見えないとネットワークにつながらない」という課題があります。Wi-Fiは無線周波数を利用しており、距離以外の3次元的制約を受けませんが、Li-Fiは「光のある場所でしか使えない」「壁を通過しない」という課題があります。

 そこで、当社は2023年7月、Li-Fiの標準規格である「IEEE 802.1bb」を批准しました。これにより、屋内でLi-Fiが使用可能なエリアでは、デバイスの画面をオンにするとLi-Fiに接続され、オフにするとWi-Fiを拾いメールを受信するなど、多様なユースケースに対応できるようになったのです。

image: pureLiFi

Wi-Fiで接続可能範囲はいずれ頭打ちになる

―これまで、どのような企業がpureLiFiのソリューションを採用していますか。

 私たちは上場企業ではありませんので、具体的な数字をお伝えすることはできません。ただ、売上・利益ともに成長を続けていることはお伝えしておきましょう。

 また、世界中の通信事業者と提携しています。中でも、最も際立つのが米国防総省や陸軍といった防衛関係機関に大量の製品を出荷している実績があることです。軍事分野のネットワークでは何よりも安全性が求められますし、現場で戦術や作戦を執行する部隊では1秒でも早くネットワークに接続し、情報を共有しなければなりません。こうしたニーズに対してpureLiFiが的確にアプローチできたということです。さらに、タブレット端末を製造する世界的なメーカーなどとも提携しています。

 日本では産業用機械の専門商社である太平貿易とパートナーシップを結んでいます。今後、日本市場への本格進出を狙っていきます。

―10年後の世界を想像した時、家庭やオフィスでもLi-Fiの使用が珍しくないものになっているのでしょうか。

 そう思いますね。というのは、現在のスピードで人々がネットワークに接続し続けると仮定すると、Wi-Fiで接続可能な範囲はどこかで頭打ちになるのが目に見えています。実際、McKinsey Global Instituteは、5G技術がどれほど進んだとしても、2030年にはRF技術でカバーできる通信量は70%ほどになるだろうという試算を出しています。

 つまり、RF技術ではない通信手段の確立が急務なのです。また、メタバースや3次元ホログラムの台頭など、帯域幅に負担がかかるテクノロジーが今後さらにお茶の間に浸透することを考えても、低遅延で高速レスポンスを可能にするLiFiは重宝されていくことでしょう。

image: pureLiFi

―Alistairさんは2016年にpureLiFiに参画されましたが、きっかけは何だったのでしょう。

 物理学者のHarald Haas教授とCTOであるMustafa Afghani博士が共同設立した当社に私が参画したのは、両氏の誘いがあったからです。Li-Fiについて調べれば調べるほど、「この技術は世界にとって重要なものになる」と確信するようになりました。というのは、RF技術をネットワークに使用する人々が世界中で爆発的に増え、混雑や安全性の問題の増加も明らかに増えていく傾向にあることを知ったからです。

 私がCEOとしてpureLiFiに参加し、素晴らしい技術を持つエンジニアと協業することで通信業界にレガシーを残すことができると考えました。

日本市場への本格進出は2024年以降

―日本市場をどのように評価していますか。

 日本は欧州や米国と比べても国内で先進的な事例を数多く残している市場だと思っています。日本への本格的な進出は2024年以降を考えており、色々な企業とさまざまな形で協業していきたいと考えています。

―具体的に、どのような業界・業種との協業を考えていますか。

 タブレット端末を製造するメーカーや通信事業者、低遅延で高速なデータ転送を必要とする消費者向けの製品を開発する企業ですね。

 理想的な提携の形態としては3つ考えています。1つは、戦略的投資という関係性。次に、共同での研究・開発です。pureLiFiに取り入れられている光のスペクトル技術は通信だけではなく、ロボット工学などの分野にも応用できます。最後に、顧客との直接取引と代理店契約という関係性です。私は過去に3年間、日本で働いたことがあります。その時の経験を基に、現在の日本企業がどのようなことを望んでいるのか、直接会って話してみたいと思っています。

―今後1年間のタイムスパンでは、どのような取り組みに注力していきますか。

 第1に注力するのは、当社が開発した新たなアンテナである「Light Antenna ONE」を大量生産することです。この最先端のアンテナは米国の10セント硬貨よりも小さく、Li-Fiの大規模展開に向けた商品になっています。先ほどお話ししたLi-Fiの標準規格である「IEEE 802.1bb」に対応したアンテナになっており、他のLi-Fi技術を展開するメーカーともネットワークを統合できるようになりました。家庭やオフィスでのLi-Fiの使用を加速度的に増やしていきたいです。



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