(2024年3月に破産申請。2024年8月追記)
フィンランド発、世界に影響を与えた「MaaS」というコンセプト
――まず、MaaS Globalのサービス概要を教えてください。
私たちは、世界初のモビリティをサービスとして提供するMaaS(Mobility-as-a-Service)企業です。私はMaaSというコンセプトの生みの親であり、このコンセプトはフィンランドで生まれました。現代の交通業界において最も大きな問題は、どうすれば車を所有せずに済むかということです。どうすれば車という選択肢を選ばずに済むかと考え、生み出したのが「Whim」というMaaSアプリです。
「Whim」は、バス・タクシー・電車・ライドシェアサービス・レンタカーといった全ての交通手段を1ヶ所にまとめ、ユーザーが交通手段を自由に選べるようにしています。MaaS市場で商業的にサービスを行うアプリの中で、初めてのオール・インクルーシブ型MaaSソリューションで、2017年11月のサービスローンチ以降、トリップ(旅程)件数は世界で1600万回を超えます。
Image: MaaS Global
「Whim」では、ひとつのサブスクリプション契約で、電車・バス等の公共交通機関およびタクシー、カーシェア、その他多くの交通サービスから好きな手段を選び、好きなときに好きな場所へ移動することができます。また、サステナブルな移動方法を選ぶことができ、ユーザーの移動の習慣にも変化をもたらしてきました。
「MaaS生みの親」が見据える未来
――Hietanenさんは「MaaS」の生みの親と言われます。どうやってMaaSのコンセプトを生み出したのでしょうか?
私がMaaSというコンセプトを生み出したのは、2006年のことです。交通業界の未来について考えた時、携帯電話の月額プランのように、1つのプラットフォームで交通手段を利用できたらいいだろうと思ったのです。当時はまだこのアイデアは注目されませんでしたが、2011年ごろから活発に取り上げられ、フィンランドの交通関連法でも取り上げられるようになりました。
2014年ごろには、業界の中でMaaSが重要な位置を占めるようになります。私はその頃から世界中の様々な場所で、MaaSのビジネス化について講演を行うようになりました。2014年から2016年までは資金集めや人材を募集して、2016年に本格的に会社を立ち上げたのです。
――MaaSというコンセプトは世界で大きな注目を集めました。MaaSが人々に与える重要な影響とは何でしょうか。
数字で見ると分かりやすいかもしれません。人々の家計の2割は、普段の通勤といった交通関係の支出が占めています。その中でも車を所有している場合、めったに使用しなくても支出の7割超がその維持費に充てられます。あまりにコストに見合わなさ過ぎて、もはや将来は、自家用車の所有という概念は消えるでしょう。
人々の平均通勤時間は90分と言われますが、私たちはその時間を運転という行為ではなく、もっと有効に使えるようにすべきです。このような変化は一晩で起こるものではありませんが、10年後には全く別の現実が待っていると確信しています。
日本で実証実験済み、アプリをローンチ予定
――日本企業と提携しており、出資も行われているそうですね。どのようなきっかけで実現したのですか。
きっかけは、日本人のジャーナリストの方に見つけていただいたことです。フィンランドと日本の文化の類似点があったことも、日本参入の助けとなりました。日本の場合、モビリティ関連のトレンドは少し遅れて始まりましたが、予想より早く成長しています。
現在、日本では三井不動産と協業し、モビリティサービスと不動産を融合させたプロダクトを開発中です。「Whim」を使って、自家用車を使わずに気軽に移動できるサービスを提供したいと考えています。早く日本中で月額プランのMaaSサービスを提供することが目標です。
日本での実証実験を準備中。 Image: MaaS Global
――日本ではどんな企業との協業に興味がありますか。
ライドシェアサービス企業や、たくさんの利用者のいるコミュニティサービスを提供している企業などに興味があります。
人々が住む環境と移動手段は密接に関わっています。居住環境に依存するような場面でサービスを提供していきたいと思っています。日本での実証実験をもとに、今後の数年で事業提携を拡大できればいいと思います。
Photo: MaaS Global
――今後のビジョンは何でしょうか?
サービスの技術面、ユーザーの検証はできたと思っていますし、国際展開にも手応えを感じています。ですから、次のステップは、事業・ユーザーを拡大していくことです。ある日いきなり莫大な数のユーザーが増えるということはありませんから、ワンステップずつ確実に進んでいくことが重要だと思います。
最後にお伝えしたいのは、現実として、交通業界はCO2排出の20〜40%を占めています。このままではいいはずがなく、変革が必要です。人々の自由や利便性を侵害することはできませんが、このままのペースで進むこともできないのです。私たちは業界全体で持続可能な未来を作り上げるべく取り組む必要性があります。