カメラやパソコン、スマートフォンといった電子機器だけでなく、自動車や貨物輸送の手段などへの活用も行われているリチウムイオン電池。低炭素社会へのムーブメントによって、今後需要が高まることが予測される。Li-Cycleは、リチウムイオン電池の資源回収を行うクリーンテック企業。独自のリサイクルプロセスは、従来の技術に比べて高い回収率と安全性を誇り、2021年8月にはニューヨーク証券取引所への上場を果たした。クリーンエネルギー業界のキャリアを活かし同社に参画したChief Strategy OfficerのKunal Phalpher氏に、事業概要や今後の戦略を聞いた。

資源回収率が低く、環境負荷の高いリチウムイオン電池リサイクルの課題を解消

 リチウムイオン電池は1990年代に一般に利用されるようになり、年々より高いエネルギー密度を持ち、電子機器から自動車まで幅広く利用されるようになってきた。世界的な低炭素への働きかけに伴い、バッテリーの需要はますます拡大していくだろう。リチウムイオン電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの資源が使われており、高まる需要に備え、これらを効果的に回収・再利用できる仕組みが求められている。

Kunal Phalpher
Li-Cycle
Chief Strategy Officer
トロント大学卒業後、ドイツのグリーンテック企業Hoehner Research & Consulting Groupでコンサルタントとして従事。2015年にカナダに戻り、リチウムイオン電池ソリューションを提供するElectrovayaに参加し、事業開発ディテクターに。2017年、Li-Cycleの共同創業者であるAjay Kochhar氏・Tim Johnston氏と出会い、経営陣として参画する。

 Li-Cycleは、リチウムイオン電池を安全かつ高効率で回収できる技術を持つ企業。同社の試算では、2020年から2030年の間に世界で1500万トン以上の廃リチウムイオン電池が生じ、そこから回収できる資源に960億ドル以上の価値があるという。

 従来のリチウムイオン電池リサイクルのプロセスでは、電解質、プラスチックなどの揮発性成分の除去を行うために焼成・焙焼・精錬を行う高熱の処理を伴う工程がある。このため回収できる資源は50%未満で、多くの廃棄物や排水を伴い、環境負荷も高い。

 一方、Li-Cycleの「スポーク&ハブ」リサイクルプロセスでは、95%もの材料回収効率を低コストで実現できる。スポーク工程は、リチウムイオン電池から負極・正極活物質(リチウム、コバルト、ニッケルなどの重要金属)を回収する。このプロセスでは、使用済みの電池を破砕して、プラスチック、銅箔、アルミ箔、負極材・正極材に自動的に分離。熱暴走の可能性を排除する技術を用いて安全に処理できるという。

Image: Li-Cycle

 ハブ工程では湿式製錬によって、スポーク工程で取り出した材料の一部を取り込み、重要な負極と正極の活物質をさらに精製する。スポーク工場で生じたブラックマスをハブ工程に投入し、結果として高純度のバッテリー化学物質が回収される。従来プロセスと比較して、固形廃棄物を出さず、大気への影響もなく環境負荷はより低いとしている。Phalpher氏は、同社の事業について次のように語った。

「当社は技術に焦点をあて、回収率で差別化をしています。事業の目的は、お客様から電池を預かって、コバルトやニッケル、リチウムを回収し、お客様のサプライチェーンに組み込むことで、循環型経済を実現することです。顧客企業は環境フットプリントを削減できます」(Phalpher氏)

中国・日本市場への拡大も視野に入れ、リサイクル能力を拡大していく

 現在、北米市場を中心にリチウムイオン電池のリサイクルをリードするLi-Cycleは、市場の急激な拡大にあわせて急成長しており、顧客数はこの1年で2倍程度に増加している。現在アリゾナ州フェニックスとアラバマ州タスカルーサに新たなリサイクル施設を建設しており、2022年の第1四半期と第2四半期に稼働する予定となっている。

 Li-Cycleの長期ビジョンは、バッテリーのリサイクルにおけるグローバルプレーヤーになり、バッテリーのサプライチェーンのためのリサイクル原料の主要生産者になること。株式公開後の次のステップとして、グローバル市場へビジネスを拡大していく方針だ。同社では2025年までに、リサイクル可能なリチウムイオン電池全体の約60%が中国、16%が欧州と北米の両方、残りの8%がその他の地域でリサイクルされると予想している。今後のグローバル展開戦略は、この地域区分を反映しており、各地域の市場規模に合わせた展開を目指す。

Image: Li-Cycle

 Phalpher氏は、特に需要の高い中国市場に注目しているが、日本市場への参入は現在のところ計画は公表できないとした。日本でビジネスを展開する場合は、北米と同様にバッテリー会社、自動車会社、廃棄物収集会社など、リサイクルすべき材料を持ち、提供可能な会社との関係を持つ予定だと語った。

 最近テレビなどでも話題にあがり、一般的にも浸透してきた「SDGs(持続可能な開発目標)」では、2030年までに達成すべき17の目標を定めている。そのなかには低炭素などクリーンなエネルギー確保や、持続可能な消費と生産など、同社に関連した目標もある。今後10年の展望についてPhalpher氏は次のようにコメントした。

「自動車メーカーが電気自動車をより多く生産するようになりますので、2030年には年間300万トン以上の材料がリサイクルされる場所を必要とすることが予測されています。しかし、現在それだけの量をリサイクルする能力はありません。世界レベルで大規模な電池生産工場が建設されている状況に、リサイクル側も追いつく必要があるでしょう。また当社では新たな性質のリチウムイオン電池だけでなく、固体電池などもリサイクルできるよう、業界の最新動向にも目を配っています」



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