目次
・液体化石燃料のインフラとも互換可能
・Hydrogeniousの差別化ポイントとは?
・日本企業が水素活用で直面する課題
・2024年は成功占う重要な年
液体化石燃料のインフラとも互換可能
―Hydrogeniousはどのような課題を解決する企業なのでしょうか。
液体有機水素キャリア技術を活用した、水素貯蔵・輸送技術を開発しています。ドイツは脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーへのシフトを急いでいて、水素エネルギーが注目されています。ドイツは化学や自動車産業が盛んで多くのエネルギーを消費しますが、再生可能エネルギーの中では水素の燃料効率が非常に高いのです。
一方で、水素エネルギーの活用を困難にしているのが、輸送ハードルの高さです。工場や研究所で水素を使う際、近くに水素を貯蔵するステーションを設置する必要がありますが、水素は輸送・貯蔵の段階で低温に液化させるか高圧で水素を圧縮させないと、使い物になりません。このコストの高さと爆発リスクという安全性の問題から、大量生産にまでは至っていないのが現状の水素エネルギーの課題なのです。
HydrogeniousはLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carriersの略)という、水素を化学反応によって結合する技術を開発。輸送・貯蔵を常温・常圧で行うことができ、安価で安心に水素を活用できるようになるのです。LOHCを使うと、水素を液体化石燃料のインフラと互換性のある輸送・貯蔵が可能で、従来の(化石燃料の輸送・貯蔵)ノウハウを引き継ぐこともできます。
われわれは、すでに多くの商業プロジェクトを成功させています。2017年には米国で最初のシステムを納入していますし、2022年にはLOHC経由で水素を供給するドイツで最初の水素充填ステーションをパートナーのH2 Mobilityと共に実装しました。ドイツの大統領も視察に来るなど、非常に高い注目を集めています。
売上や利益などの詳細はお伝えできませんが、2013年の創業時、私1人であった従業員は現在230人以上になっています。技術や売上高、特許数、顧客数などコンスタントに伸び続けていて、ビジネスは順調です。
image: Hydrogenious LOHC Technologies
―Hydrogeniousはどのような顧客を想定しているのでしょう。
水素の本格的な活用には、新しいバリューチェーンを構築することが必要です。水素の製造から流通、消費まで新たなモデルをつくっていかなければなりません。各バリューチェーンのプレイヤーが誰になるかははっきりと決まっていませんが、石油・ガス会社や電力会社などがメインになると思います。
image: Hydrogenious LOHC Technologies
Hydrogeniousの差別化ポイントとは?
―Hydrogeniousを創業したきっかけは?
私は創業前、BMWで勤務していました。同社で水素貯蔵の研究に携わっていたのですが、LOHCという技術に非常に可能性を感じていました。創業に携わった3人の大学教授と研究を進め、商業利用に進むべく、Hydrogeniousを設立したという経緯があります。
―競合他社とはどのような点で差別化を図っていますか。
LOHCは水素を輸送する手段として市場に受け入れられています。我々が差別化している点としては、既存の液体化石燃料の輸送・貯蔵インフラを活用できることと、安全基準が高いことです。さらに、輸送・貯蔵時に水素を化学的に結合させる技術力にも自信を持っており、水素の寿命を長持ちさせることができます。これらの点は他のプレイヤーにはないもので、私たちが自信を持っている部分です。
image: Hydrogenious LOHC Technologies
日本企業が水素活用で直面する課題
―Hydrogeniousは累計約7,800万ユーロを調達していて、三菱商事やJERAも投資しています。彼らを惹きつけることができた理由を教えてください。
三菱商事もJERAも、日本のエネルギー政策の根本を担う責任者的企業であり、政府の水素推進プロジェクト完成に向け、投資をしたのだと思います。日本もドイツも、再生可能エネルギーの資源は輸入に依存するという点で、非常に似ています。
特に日本は島国で人口密度が高く、人口も多い。現在は石炭やガス、石油に多くのエネルギー源を頼っていますが、今後は石炭に変わってアンモニアを導入し、第二段階として水素を導入していくのではないでしょうか。
水素の輸送・貯蔵技術を盤石なものにすることは国力を考えた上でも重要ですから、この分野で最先端を走る我々に投資を決めたということでしょう。
―日本市場への進出は考えているのでしょうか。
日本に限らず、水素エネルギーの活用は世界的な課題ですからもちろん考えています。ただ、私たちはまだ小さな会社です。商業的なサクセスストーリーを描くのに時間もかかりますから、日本進出は中長期的な目標という建て付けになるでしょう。
日本の大企業とのパートナーシップももちろん考えています。三菱商事のように、サプライチェーンの様々な分野に顔をだす大手商社との提携も魅力的ですし、JERAのようなプレイヤーとの協業も技術の深化という意味でフィットします。
また、EPC事業者との提携も考えていく必要があります。水素の輸送・貯蔵は当社だけで完結させることだけは難しく、開発から生産までそれぞれの分野に強みを持つ企業と連携していかなければなりません。われわれは千代田化工建設、Axens、HoneywellといったLOHC分野の他企業と、法律や規制に関する問題についてオープンなやり取りをしています。
image: Hydrogenious LOHC Technologies
2024年は成功占う重要な年
―日本の大企業とのパートナーシップを考えた場合、どのような形態が理想ですか。
Hydrogeniousはテクノロジー・プレイヤーです。つまり、水素の輸送・貯蔵に関する知財、技術に非常な強みを持っているという意味です。ですから、先ほど申した通り、実際の工事を担当する建設業者との提携が最重要だと思っています。それに関して、形態に特にこだわりはありません。
また、投資という関係性は魅力的だと思っています。将来的に我々の技術を活用するためにも、早期に投資する賢い企業を求めています。
―最後に、向こう1年間で達成したい目標を教えてください。
まずは、ヨーロッパで多くの商業プロジェクトを成功させることです。2023年までに、に我々はいくつかのパイロット・システムを納入しています。ドイツでは年間2,000トン規模の水素を貯蔵できるプラントを建設中です。オランダ・ロッテルダムでも同規模のプロジェクトを計画中です。さらに、欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)と呼ばれるヨーロッパ大陸で水素の活用を本格的に展開する計画にも参加しており、年間1万トン規模の水素を輸送・貯蔵していきます。
将来的には年間数千トン、最大で数十万トンの水素を輸送・貯蔵させていく考えです。2024年IPCEIの成功を含めHydrogeniousにとって非常に重要な年になるでしょう。これまで長年かけてコンセプトを練り、資金調達をうけるなど、準備してきました。プロジェクトをなんとしても成功させますよ。