2025年のスタートアップ投資市場は、投資ラウンドの大型化が一服する一方で、事業の実装力や収益性を重視する姿勢が強まった1年だった。では、こうした変化の裏側で、投資のプロたちはどのような兆しや判断軸の変化を感じ取っていたのだろうか。2025年がどんな1年だったかを振り返り、今年の展望を先読みするべく、JAFCO(ジャフコ)、Beyond Next Ventures(ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ)、Genesia Ventures(ジェネシア・ベンチャーズ)の日系ベンチャーキャピタル3社の投資担当者にアンケート調査を実施した。
2025年の注目ポイント
・ジャフコ
▶AI基盤の産業特化型企業などで大型ラウンド
・ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ
▶ディープテック領域含めて政府支援が厚み増す
・ジェネシア・ベンチャーズ
▶AIの進化でシードVCの投資領域が広がる
2025年の振り返り:資金調達額の二極化が進んだ1年
2025年のスタートアップ投資市場を振り返ると、調達総額はおおむね一定に推移する一方、案件ごとの金額は二極化が進み、分布が広がった一年でした。特に、AIを基盤に産業固有の課題解決を進める企業や、裾野の広い市場構造そのものを再定義するモデルでは、数十億円から数百億円(〜400億円規模)に至る大型ラウンドも見られました。
一方で、アーリーからグロースにかけては、投資家が企業価値や成長計画をこれまで以上に丁寧に見極める傾向が強まっているように感じます。背景には、東証改革に伴う時価総額の捉え方に対する変化や、ファンドパフォーマンスを意識した慎重な資本配分があると考えています。
こうした状況が継続する前提では、成長余地の大きい企業に資本や人材が集中し、他方で連携やM&Aといった戦略的選択を模索する企業も増えるなど、米国市場が経験した流れに近づいていく可能性があると見ています。
2026年の見通し:国境越えて成長するサービスが増加
AIの発展を背景に、国境を越えて成長するサービスがこれまで以上に増えていくと見ています。各国の経済環境には依然差があるものの、技術普及のスピードはその格差を確実に縮めつつあり、日本発のサービスが海外へ展開するだけでなく、海外発の優れたAIプロダクトが日本市場に流入する動きも一層強まると思われます。それに伴い、運営企業の出自や、投資家・VCを含む資本の出自も多様化が進むと考えています。
一方で、地政学リスクと安全保障の重要性が増す中、日本でも防衛関連技術を扱うスタートアップへの関心は高まっていくと見ています。防衛領域に限らず、ソフトウェアとハードウェアを統合した技術開発は様々な産業で広がって行くと思われます。
また、起業家の層の厚みは今後も増していくと思います。起業件数の増加に加え、優れた起業家が継続的に輩出される環境は中長期的にも続くと考えています。
時代をリードする起業家と共に歩む
ジャフコは、1973年の設立以来、常に時代をリードする起業家とともに歩んできました。国内外における運用ファンドの出資約束金額は累計で1兆円を超え、累計上場社数も1,000社以上にのぼります。ベンチャー投資に加えてバイアウト投資も展開しており、パーパスとして「挑戦への投資で、成長への循環をつくりだす」を掲げ、世界中で革新的な技術・サービスの創造にコミットしています。起業家のいちばん近くにあって、その「志」を実現したいという想いのもと、HR、マーケティング・セールス、バックオフィスなども支援しています。
赤川 嘉和
チーフキャピタリスト
2007年よりAI、DX、Consumer Tech、Medical等をはじめとする先端領域へ投資と、シードからレイターステージまで幅広いステージにおける企業価値創造、EXITの実現に深く関わる。Forbes Japanが選ぶ日本で最も影響力のあるベンチャー投資家 第3位(2024年)。スタンフォード大学ビジネス・スクールのスタンフォード・エグゼクティブ・プログラムを修了。専門分野はAI、DXを中心とした成長領域全般。
2025年の振り返り:特定テーマに資本集中、投資社数は大幅減
全体の投資額はやや縮む一方で、大型調達のラウンドは成立し続けており、特定のテーマや起業家に資本が一極集中する傾向が強まりました。その結果として投資社数は大きく減少しました。
また、M&A件数が増えたこと自体はポジティブですが、依然としてディールサイズの大きい案件は限られます。単に買収するだけでなく、買収後も事業を継続・成長させられる事業会社側の受け入れ体制づくりが、これまで以上に重要な論点になってきています。
さらに、グロース市場の上場目線が時価総額100億円規模に引き上がったことで、その水準に到達するまでの時間も資本もより多く必要となり、「最終的にどんな姿を目指すのか」「どのタイミングで誰と組むのか」といった事業の育て方そのものが、起業家・投資家双方にとって難しいテーマになってきています。一方で、ディープテック領域含めて政府によるスタートアップ支援は厚みを増しており、こうした制度や資金をどう味方につけ、ファイナンスや事業づくりに取り込むかが、プレーヤー共通の課題だと感じています。
2026年の見通し:ディープテック領域は向かい風続く
2026年は、政府の戦略に市場がこれまで以上に左右される年になると思います。高市政権が掲げる17の重点領域には多くの支援が紐づき、大型の資金調達や新たな創業も増えていくでしょう。一方で重要なのは、長期的な目線で3〜5年後を見据えて、国の将来に大きなインパクトのある産業で事業を創れるかどうかだと感じています。
ディープテック領域については、国内外ともに資本の選別が一段と進み、向かい風が続くと思います。だからこそ、日本がもともと強い技術を伸ばしつつ、他産業との掛け合わせで新しい市場をつくる視点が重要です。個人的には、発酵技術や合成生物学のように、食品・素材・環境など複数の産業に波及効果を持つ分野を特に注目して見ています。
また、出口戦略も一つの転換点になりそうです。時価総額100億円がひとつの上場基準として認識され1年以上が経ち、多くのスタートアップが上場を見直す局面に入っていると感じます。そのなかで、結果的にIPO前の資金調達ラウンドを挟まざるを得ない企業も出てくるでしょうし、M&Aという選択肢を取るのか、より大きな絵を描くのかなど、進むべきルートは分かれていきます。自社にとってどのパスが最も筋が良いのかを、柔軟かつスピーディーに意思決定していけるかどうかが、一段と問われると思います。
日本最大級のディープテックカンファレンス創設
弊社については、2025年にディープテック領域のエコシステム全体を盛り上げる取り組みとして、日本最大級のディープテックカンファレンス「TECHNIUM Global Conference」を立ち上げました。産官学から約2,000名が集い、全国の大学・研究機関の約500の技術シーズが集結する場で、研究者・スタートアップ・事業会社・国内外の投資家が一体となって、皆で日本発ディープテックをグローバルに押し上げる場づくりを進めています。
出資先企業については、さかなドリームとファーメランタが大きく前進しました。さかなドリームはシリーズAで10億円を調達し、NEDOのDTSU事業(STSフェーズ)にも採択されるなど、研究開発と量産体制の両面で一気にアクセルを踏んでいます。ファーメランタもシリーズAで20億円を調達し、累計48億円規模まで資本を積み上げるとともに、農林水産省のフェーズ3基金など複数の大型公的支援に採択され、3,000Lスケールのパイロットプラント建設に踏み出しました。
有馬 暁澄
パートナー / アグリフード領域リード
慶應義塾大学理工学部生命情報学科卒業後、丸紅に入社。穀物本部にてトレーディング事業を通じて生産から販売までのアグリ全般に携わる。2019年にBeyond Next Venturesに参画し、アグリ・フードテック/クライメートテック領域のスタートアップへの出資・伴走支援に従事。また、省庁や大企業と積極的に連携し、産学官連携プロジェクト(農林水産省「知」の集積プログラム、「フードテック研究会/ゲノム編集WT」代表、スタートアップ総合支援事業「AgriFood SBIR」PM、一般社団法人Next Prime Food代表理事など)にも取り組む。日本最大級のディープテックカンファレンス “TECHNIUM Global Conference” を創設、代表。
2025年の振り返り:スタートアップ・バブルの調整局面終わる
投資市場全体を見ると、2025年はコロナ以降続いた「スタートアップ・バブル」の調整局面が終わり、より実質的な事業価値と筋肉質な経営が求められるフェーズに入ったと言えます。
強いトラクションや利益創出能力、そして「グローバル × DeepTech」のような大きなアップサイドが期待できる領域、あるいはM&Aを見据えた堅実な事業づくりなど、フィナンシャルリターンへの意識が一層高まっていると感じます。
一方で、シードVCにとっては投資できる領域が大きく広がった年でもありました。AIの急速な進化により、色んな市場で新たなホワイトスペースが生まれ、AIネイティブな思考を持つ強いチームへの投資が今年大きく増えていると感じています。
2026年の見通し:AIによる技術革命で市場にホワイトスペース
AIによって歴史的な技術革命が起きており、これまで混みあっていた市場にもホワイトスペースが多く生まれています。そのホワイトスペースで大きなビジョンを掲げる強い経営チームが出てくることで、数年後には日本のスタートアップのエグジット規模が数倍に拡大していることを期待したいです。
例えば、BtB領域では、単なるコスト削減や業務効率化にとどまらず、ビジネスの在り方そのものを再設計できるポテンシャルが生まれており、スタートアップにとって非常に面白いタイミングになっています。
また、M&Aエグジットは今後確実に増えると見ています。東証の上場維持基準が変わったことで、基準以上に「意識」が大きく変化し、最初からM&Aを前提に組織づくりや事業開発を行うスタートアップがこれから加速度的に増えて行くと考えています。
4号ファンド立ち上げ、積極的な新規投資
ジェネシア・ベンチャーズでは、今年4号ファンドを立ち上げ、新規投資を積極的に進めています。デジタルビジネスを中心に、一部ディープテック領域も投資対象としており、国内投資先の8割以上でプレシード/シード期に初回投資を実行しています。
また、日本発のVCでありながら、東南アジアの投資先スタートアップと日系企業との業務提携・資本提携の支援をはじめ、日系企業と現地スタートアップの橋渡しに取り組む稀有な存在として、確固たる地位を築いてきました。さらに、今年はインドにも進出し、グローバルな投資活動を一層強化しています。
祝 煜洲(シュク ユウシュウ)
Investment Manager
2014年9月、独立系戦略コンサルティングファーム、コーポレイトディレクション(上海オフィス)に入社。主に日系企業の中国事業の戦略策定・実行支援業務に従事。2016年10月から、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(東京オフィス)にて、Pre-M&A段階のM&A戦略策定、ビジネスDDやM&A、組織再編、減損対応に係る企業価値評価、並びに財務モデル作成支援など、トランザクション周りの様々なアドバイザリー業務を担当。2020年4月からは約2年間三井住友フィナンシャルグループに出向し、コーポレート部署にて、金融領域での投資業務、及び投資後の経営管理業務に従事。 2022年9月より株式会社ジェネシア・ベンチャーズにキャピタリストとして参画。ブリティッシュコロンビア大学総合学部数学科卒。
専門分野:コーポレートファイナンス、M&A
専門分野:コーポレートファイナンス、M&A