目次
・マーケの「探偵」機能、機械学習で実現
・機械学習とAIが業界に与えるインパクト
・モバイルアプリ市場における日本の特徴
・顧客の課題解決が「エキサイティング」
マーケの「探偵」機能、機械学習で実現
―2024年4月にリリースした「InSight(インサイト)」は機械学習を活用した新機能ですね。どのような背景から、この新機能を追加するに至ったのでしょう。
まず前提として、こんなデータがあります。
世界市場における消費者のアプリ支出額は2023年の1,700億ドルから、2030年には2,880億ドルにまで膨らむという市場予測です。この増分に当たる1,180億ドルのうち、仮に1%のシェアを取れたら、それは10億ドルという巨額の収益を意味します。アプリ事業者のマーケティング担当者にとっては、このパイをいかに取りに行くかが目下の課題です。
私たちは長年積み上げてきたアプリ広告市場への深い知見から、こういったマーケットの動向を見越しており、3年前から機械学習とAI領域への投資を加速していました。そうして今年4月にリリースしたのが、機械学習とAIを活用した「InSight」という新たな機能です。
TECHBLITZ編集部撮影
―InSightとはどのような機能ですか。
InSightは、アプリ広告の「真の効果」を測定するための機能です。インクリメンタリティ計測*によって、広告キャンペーンや予算の変更といった特定のマーケティング活動の費用対効果を計測できるようになります。
インクリメンタリティ計測と言っても馴染みの薄い用語だと思うので、噛み砕いた例で説明させてください。例えば、1万ドルの広告費を投じて、1万件のインストールを獲得したとします。この場合、単純に考えるとインストール単価(CPI)は1ドルですよね。
しかし、ここにインクリメンタリティ計測を適用すると、表向きのデータでは分からなかった真の効果が見えてきます。
A/Bテストの一種で、アプリ広告の「真の効果」を測定する手法。広告を見せたグループと見せていないグループを比較し、広告がもたらした追加的な効果(インストール数や売上増加など)を正確に把握する。これにより、広告投資の効率性を評価することが可能となる。
―真の効果、とは具体的にどのようなものでしょう。
例えば、広告を目にしただけのユーザーが後日、アプリをインストールしたという事例が5000件あったと判明した場合、この広告はオーガニックインストール(ユーザーが自分でアプリを見つけてインストールした場合)を促すのに貢献しており、このオーガニックインストールも含め、実質的には1万ドルの広告費で1万5,000件のインストールを獲得したと見なすことができます。「CPIは1ドルではなく、75.66セントだった」と、理解できるわけです。
反対に、「カニバリゼーション」が判明するケースもあります。すなわち、広告なしでも自然な流入経路から獲得できたはずのダウンロードが、広告経由でダウンロードされることにより、無駄な広告費用が発生する現象です。先程の例で言えば、獲得した1万件のインストールのうち、5,000件は広告キャンペーンを実施しなくても獲得できていた、という場合です。この場合、CPIは2ドルで当初の見積もりよりも遥かに高くなってしまいます。
とある顧客を対象に実際にInSightを用いたテストを行った結果、広告キャンペーンの少なくとも50%においてカニバリゼーションが発生していたことが明らかになりました。
当社のインクリメンタリティ計測は「特定のマーケティング活動が行われていなかった場合の結果はどうなるか」を95%の精度で正確に測れます。わずか10分程で分析結果が得られ、「どのマーケティング施策がうまくいって、どれがうまくいかなかったか」をあぶり出すことができるのです。
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機械学習とAIが業界に与えるインパクト
―こうした広告効果のディープな分析は、これまでどのように行われていたのですか。
これまでは月単位の時間を費やして手動のA/Bテストなどを行うことでフィードバックが提供されてきました。なぜなら、こうした課題を解決するテクノロジーが存在しなかったからです。そこに登場したのが、機械学習やAIです。機械学習やAIはこうした作業を自動化することを得意としています。
また、従来のインクリメンタリティ計測のアプローチは一時的な効果はあったものの、現在のようなプライバシー保護重視の環境では同様の結果が得られない場合があります。計測のためにオーディエンスをテストグループとコントロールグループに分別するプロセスや、データに対するバイアス除去が非常に煩雑になってしまうからです。
そこで当社は、実際のユーザーデータではなく「集計データ」(Aggregate data)を活用して合成コントロールグループを作成し、マーケティング活動の結果を高度な機械学習モデルと比較することで高い精度での計測を実現することを可能としました。集計データを利用しているので、プライバシー問題もクリアしています。
―アプリ広告業界においては「プライバシー保護」が重要なキーワードになっていますね。
ご存知の通り、欧州連合(EU)は世界でも最高水準の厳しいプライバシー関連規制を敷いています。私たちはドイツのベルリンに本社を置いており、したがって、Adjustのコアには最初からプライバシーコンプライアンスが組み込まれているんです。
もちろんEUだけでなく、あらゆる規則や規制に準拠し、顧客企業が国によって異なる規制に対応できるように多くの柔軟性を提供しています。例えば、一般データ保護規則(GDPR)はカリフォルニアの消費者プライバシー法(CCPA)とは少し異なりますからね。
―規制がどんどん強化されると、取得できるデータも限られてくるのでは。
私たちが現在構築しているものはすべて「フューチャープルーフ」(将来性が保証されていること)です。先ほども申し上げたように、インクリメンタリティ計測では集計データを使用しています。集計データは個別のユーザーデータを必要としないため、プライバシーへの配慮も万全です。これが私たちのコアであり、プライバシー保護の潮流が今後も続くことを理解し、規制が変わることも見越しています。
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モバイルアプリ市場における日本の特徴
―御社は競合の事業取得などを通じて、日本のモバイル計測市場で高いシェアを誇っていますね。日本市場をどのように見ていますか。
日本市場は非常にドメスティックですね。日本国内の広告主が、日本国内のユーザーをターゲットにしているという点で、海外のユーザーをターゲットにすることが多い他の市場に比べて特徴的です。
また、日本は広告代理店が非常に重要な役割を果たしています。広告代理店がこれほど強い市場は、私の知る限り他にあまりないですね。ニューヨークがそれに近いですが、ニューヨークでは主にブランドが対象となっており、パフォーマンスマーケティングとは少し異なります。
顧客の課題解決が「エキサイティング」
―Simonさんは10年以上にわたりAdjustで勤められていますが、モバイルアプリ業界に対するモチベーションはどんなところにあるのでしょう。
Adjustの創業当社は、まだモバイルアプリの計測の仕組みはほとんど存在していませんでいた。広告費用がどれくらいインストールなどに貢献したかを示すアトリビューションの概念すらあまり認識されておらず、アプリ開発者がサービスや製品の向上に集中できないような環境にあったのです。私たちは一環して、こうした課題に取り組んできましたし、計測分野やモバイルアプリ分野に非常に大きな影響を与えてこれたことは、純粋に面白かったです。
創業から10年余りが経過し、一通りやり尽くして退屈になると思われるかもしれませんが、そうではありません。この分野は常に変化し続けるエコシステムであり、新しいことが常に起こります。規制の変化、需要の変化、新しいチャンネルの登場などがあります。業界をリードし、イノベーションを推進し、クライアントの問題に対処することがとてもエキサイティングなんです。
機械学習を活用したInSightも、当時は少しリスクがありましたが、それが大きな成果をもたらしました。これは「次世代」の計測であり、それが私を楽しませ、忙しくさせています。新しい問題に日々直面し、それをどう乗り越え、業界と共にどう進んでいくかを考えることが大きなモチベーションになっています。
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