インターネット基盤とネット金融の開拓者が目指す次のフィールド
IIJといえば、1993年に国内初のインターネット接続サービスを開始し、日本のインターネットサービスを牽引してきた企業。ディーカレットは、そのグループ会社として2018年に設立された。時田氏は、1995年にIIJに入社し、データセンターやクラウド事業に加え、証券・FXなど、インターネットを介した金融システムの開発を手がけてきた。
「インターネットの浸透によって、さまざまなものがデジタル化されてきました。しかし、金融システムについては、チャンネルはあるものの裏側の仕組みは何も変わっていません。インターネットだけでお金を送れないのです。ビットコインが登場して、インターネットのなかで価値の移転ができるようになりました。これは将来のデジタル社会のインフラになると考え、ディーカレット設立を構想しました」(時田氏)
ブロックチェーンを使ったビジネスとしては、暗号通貨の取引所がイメージできるが、ディーカレットはそこからさらに進んで、デジタル通貨による価値交換プラットフォームという社会インフラ構築を実現するべく、2018年に設立された。社会インフラを構築するにはIIJだけでなく、産業界や政府の協力も必要だ。そこで、銀行、通信、電力、商社、生命保険、物流、小売など日本を代表する35(2022年1月現在)の企業がディーカレットの株主となっている。
日本の産業界、国の機関とともにデジタル通貨の仕組みを実証
創業後、価値交換プラットフォームを目指す足元で、ビットコインなど暗号資産に関する知見を高めるために、暗号資産交換業を展開するべく、暗号資産交換業者登録を申請する。しかし2018年に仮想通貨取引所「Coincheck」がハッキング攻撃の事件にあうなど、既存業者から仮想通貨の流出が相次いだことで、事業者登録が先送りされ、2019年4月からの事業開始となった。
ディーカレットが暗号資産交換業を始めた理由は、価値交換プラットフォームのための先端テクノロジーの知見を得るためだ。そして、交換業の裏側でデジタル通貨のプラットフォーム開発をしていた。企業間取引でデジタル決済するにはビットコインではなく、デジタル法定通貨による仕組みが必要と考えていたからだ。
海外ではUSDCやUSDTなど、USドル建てのコインでの取引がなされているが、日本では法制度上、同じように日本円建てのコインでの取引は難しい。しかし、2019年にはFacebook(現Meta)が暗号通貨Libra(現Diem)を発表し、2020年には中国人民銀行がデジタル人民元を発行するなど、デジタル通貨活用の動きが活発になっている。
そこで、ディーカレットでは株主を中心とした銀行、小売、運輸、情報通信など広範な分野にわたる企業とともに「デジタル通貨フォーラム」を発足し、有識者、オブザーバーとして金融庁など関係省庁が参加し、日本におけるデジタル通貨の実用性の検討や実証実験を行っている。このベースとなるのは、物や権利の移転を記録する「付加領域」、デジタル通貨の移転を記録する「共通領域」による二層構造のデジタル通貨DCJPY(仮称)のプラットフォームだ。
たとえば、関西電力が幹事を務める電力取引分科会では、太陽光発電など再生エネルギー取引の精算を実現する取り組みを行っている。ほかにも、セブン銀行が幹事となる小売・流通の分科会、フューチャーアーキテクトと野村ホールディングスが幹事を務める証券取引向けのセキュリティトークン決済実務/制度検討分科会、三菱UFJリサーチ&コンサルティングとトッパン・フォームズが幹事となる行政事務分科会などがあり、実用化に向けた取り組みが進んでいる。74社が参加するデジタル通貨フォーラムの取り組みは、2021年11月24日に公開されたホワイトペーパーとプログレスレポートに詳しい。
(参考)デジタル通貨フォーラムによるデジタル通貨ホワイトペーパーとプログレスレポート
DXを完結させるのがデジタル通貨。オールジャパンで立ち向かう
デジタル通貨利用のメリットは、企業間取引の情報の透明性を保つことと、価値の転換をすぐに行えることだ。通常の企業間取引では、商品やサービスの提案があり、見積、発注、納品、検収、請求、支払といった行為がある。これらはDX(デジタル変革)によって合理化されつつあるが、ブロックチェーンによってさらに強化していくのだ。
「自動車のサプライチェーンの場合、完成車メーカーの下に、一次二次三次の事業者がいます。部品がサプライチェーンを通じて組み込まれていくと、物や権利の移転の記録としてデジタルのブロックチェーン上に記録されます。すると、車ができて販売され、中古車として取引されたとしても、各部品の状況をトレースできるようになります。車のリコールがあった際の調査も容易になるでしょう」(時田氏)
また、月末に締めて、翌月末に払うといったプロセスのままだった代金の支払いも大きく変わる。デジタル通貨を利用すれば、物品が交換されればすぐに支払われるというリアルタイム性も高められ、決済の迅速化も期待できる。
現在、デジタル通貨フォーラムでの取り組みによっては、ユースケースの検討を終えて概念実証(PoC)に移行できる分科会もある。時田氏は、デジタル通貨のビジネスでの実用は、社会全体のDXへの取り組みが進む前提で電子インボイス制度が開始となる2023年以降に導入のピークを迎えると述べた。ディーカレットでは35社の株主からこれまで100億円以上の資金を調達しており、プラットフォーム開発に関しては十分な資金を得ているという。
とはいえ、DCJPYは日本の全産業を対象にしているので、これを社会インフラにしていくにはさらに規模の大きな投資が必要と想像される。このため、ディーカレットでは短期的なキャピタルゲインを得るというよりも、事業会社との協業に対して出資を募りながら社会へ浸透させていく方針だ。時田氏は最後に長期ビジョンを次のように語った。
「日本はデジタル化が遅れていると言われています。その理由のひとつは、各種仕組みの相互運用性がないためです。引っ越ししたら様々な住所変更手続きが必要であったり、キャッシュレスが進んでもSuicaやPayPay、銀行口座に送金の仕組みは提供されていないことなどから、いまだにATMに行列ができています。私たちの目指すデジタル通貨は相互運用性を実現することで社会のデジタル化に貢献したい。電力や小売、各産業分野でデジタル化が実現されれば、お互いにつながるようにしたいのです。我々がプラットフォームを作りますので、このプラットフォームの上で皆さんのアイデアでデジタル化をしてもらいたいです。オールジャパンで新しいデジタルのエコシステムを作っていきましょう」