目次
・ハチの動きをAIで学習、イチゴ栽培の自動化に成功
・初の商業化案件、納品先は「うなぎパイ」の春華堂
・浜松市自慢のスタートアップエコシステムが機能
浜松ファームの概要を浜松市長らに説明する市川社長㊧(TECHBLITZ編集部撮影)
ハチの動きをAIで学習、イチゴ栽培の自動化に成功
ハーベストXは、作物の中でも栽培の難易度が高いイチゴの植物工場プラットフォームを提供している。受粉を必要とするイチゴは、レタスなどの葉物野菜と比べて難易度が高い半面、面積当たりの採算性は高い。同社は2020年の創業から約4年間を研究開発に注ぎ込み、イチゴの味や形、収穫量などが安定した水準に達したため今回、商業化に踏み切った。
同社は、従来のイチゴ栽培の大きな課題だったミツバチによる受粉を、AIやロボティクス技術を活用することで完全自動化することに成功した。最も重要なポイントであるミツバチの動きをAIで分析することでロボットアームによる授粉動作を最適化し、花の位置を特定するプロセスには独自のセンシング技術を駆使している。
また、実際の授粉に用いる用具は耳かきの先についたふわふわの「梵天(ぼんてん)」のような見た目をしているが、ここにも“企業秘密”の素材を用いることで授粉成功率を底上げしている。ミツバチによる受粉の精度はおよそ70%といわれるが、同社製ロボットによる精度は90%に達しているという。
ロボットアームの先端に取り付けられた授粉用具(同上)
こうした一連の授粉作業を、縦長の箱型をした授粉ロボット「XV3」が全自動で行う。
浜松市駅近くの旧イトーヨーカドー跡地のフロアを再活用して新たに開業した浜松ファームでは、すでにロボットが稼働しており、人工光を用いた水耕栽培の棚には青々と茂ったイチゴがずらり。作業員がロボットのスイッチを入れると、それぞれの区画を順番に移動しながら花の選定から授粉作業までをすべて自動で進めていく。
市川友貴社長によると、通常の手作業なら数人がかりで丸一日かかる授粉の作業量を、ロボットなら数時間で完了できるという。養液の充填作業など人手を要するプロセスもあるが、浜松ファームの運営・管理は1~2人で賄える。施設の面積は約400平方メートルで、年産能力は最大約5,400キログラム。静岡由来の品種である「紅ほっぺ」や「章姫」を栽培していく。
ハーベストXが開発したプラットフォームに対しては日本企業はもちろん、海外企業からの問い合わせも多い。今後、浜松ファームはそうした顧客へのデモンストレーションの場として活用していく方針だ。
初の商業化案件、納品先は「うなぎパイ」の春華堂
初の納品先となった春華堂は、浜松市内でスイーツテーマパーク「ニコエ」を運営しており、ここにハーベストXのソリューションを導入する計画。春華堂の山崎貴裕社長は「イチゴの流通量は季節によって変動がある。自然環境に左右されない植物工場で、年間を通じて安定した品質のイチゴが収穫できることはスイーツ業界にとって大きな一歩」と導入の利点を語った。
他にも、果物として市場で好まれる糖度の高い品種ではなく、スイーツ向きの甘酸っぱい品種に特化して栽培できることや、ミツバチを利用しないため病気が発生しにくいことなどのメリットもあるという。
春華堂はケーキなどの生菓子も幅広く手がけており、植物工場で収穫したイチゴはパイ生地を使ったエクレア風の人気商品「咲クレール」などに使用する方針。イチゴの生産量は年間700キログラムを目標としており、店舗での提供は来年4月以降を予定している。
植物工場で収穫されたイチゴを使用した春華堂の「咲クレール」(同上)
浜松市自慢のスタートアップエコシステムが機能
会見にはハーベストXと春華堂に加え、全国に先駆けたスタートアップ支援で知られる浜松市の中野祐介市長、FUSEを運営する浜松いわた信用金庫の高柳裕久理事長の4者が出席した。ハーベストXは、「浜松市ファンドサポート事業」からの金銭的な支援と、浜松いわた信用金庫が運営する「FUSE」からの伴走型支援を受けている。
中野市長は「(ハーベストXの)市川代表は浜松の出身で同じDNAが流れる関係にあり、浜松市のスタートアップ支援策を活用した浜松ファームの開業は非常に喜ばしい」とコメントした。
高柳理事長は「市川社長とFUSEとの出合いをきっかけに、複数の候補地の中から浜松市を大規模パイロットプラントの建設地に選んでいただいた。地元でのニーズに関するヒアリング調査なども含めた1年半の伴走を経て、こうしてプロジェクトを発表できることを心から嬉しく思っている」と話した。
会見に出席した春華堂の山崎社長、ハーベストXの市川社長、浜松市の中野市長、浜松いわた信用金庫の高柳理事長(左から、同上)