ドイツ工学アカデミー評議会議長を務めるカガーマン元SAP会長が中心となり「ドイツの製造業は世界有数の強さを持っているが、中国など新興国や米テック企業の急追を受けており、現在のままでは衰退する。競争力を維持するには、デジタル化によって新しいビジネスモデルに移行しなくてはならない」と声をあげ、ドイツ政府がはじめて「インダストリー4.0」構想を打ち出したときから、早くも10年の歳月が流れました。今回は、スマートファクトリーに関連するテーマを8に分けて、テーマごとに代表的なスタートアップを紹介します。
※本記事はTECHBLITZが配信した「Smart Factory Trend Report」をダイジェストで紹介したものです。レポートをご覧になりたい方はこちらまたは本記事末フォームまでお問い合わせください。
<目次>
・タイトル
・スマートファクトリー、8の注目カテゴリー
・1. 設計&シミュレーション
・2. IIoT&プロセスの最適化
・3. メンテナンス&異常検知
・4. ロボティクス
・5. 品質管理
・6. 3Dプリンティング
・7. AR/VR&ウェアラブル
・8. トレーサビリティ
IoT、AI、ロボティクスなどを活用し、ものづくりのスマート化が進む
ドイツ工学アカデミー評議会議長を務めるカガーマン元SAP会長が中心となり「ドイツの製造業は世界有数の強さを持っているが、中国など新興国や米テック企業の急追を受けており、現在のままでは衰退する。競争力を維持するには、デジタル化によって新しいビジネスモデルに移行しなくてはならない」と声をあげ、ドイツ政府がはじめて「インダストリー4.0」構想を打ち出したときから、早くも10年の歳月が流れました。
この間、製造業界ではIoT、AI、ロボティクスなどの技術を活用したものづくりのスマート化が急速に進みました。その流れと同時に、スタートアップ企業との協業を通して先進的な技術を外部から積極的に取り入れ、製造プロセスの最適化を進めていく取り組みが「当然視」されるようになってきた感もあります。
スマートファクトリー、8の注目カテゴリー
Image: Smart Factory Trend Report
1.設計&シミュレーション
AI を活用し設計データから高い精度のデザインやシミュレーションを実現することで、製品開発につきものの設計から検証のあいだの反復プロセス
の効率化が図られています。また、3D プリンティング技術を用いたプロトタイピング、AR / VR 技術で開発段階において機能やデザインをリアル
に再現するソリューションなども利用が進んでいます。
所在地 |
New York, New York, US |
創設年 |
2015年 |
資金調達額累計 |
$70.2 M / Series C |
出資者 |
Canaan Partners, DCVC, Insight Partners, etc. |
URL |
https://ntopology.com |
設計からシミュレーションまで一気通貫で行うことができる次世代の統合型エンジニアリング・ソフトウェアを開発。設計、データ変換、構造解析などエンジニアリングプロセスを単一のワークフローに統合することで、設計者やエンジニアの利便性を向上させ、モデルの再生失敗やデータ互換性の問題を解消。Topology(空間管理モデル)による3次元処理、3Dプリンティングの設計に強みを持ち、製造、航空・防衛、医療機器の分野で利用されている。
所在地 |
Bengaluru, India |
創設年 |
2014年 |
資金調達額累計 |
$4.0 M / Series A |
出資者 |
IIFL Asset Management |
URL |
https://neewee.ai |
複数のサプライヤーから仕入れた多数の部品を何段階もの工程で組み付け製品を完成させる製造業では、異なる素材の組み合わせによる予期せぬ腐食など、不具合や欠陥の危険性がつきまとう。同社のシミュレーション・ソフトウェアは、製造データに基づき製品のデジタルツインを構築、機械学習と独自アルゴリズムにより何千もの部品やプロセス間の依存関係を読み解き、リスクを未然に予測する。
2.IIoT&プロセスの最適化
工場内で得られる多様なデータを収集し、現場を見える化していくためには、IoT 技術が非常に重要な役割を果たします。以下では、IoT 技術とデー
タを活用し、生産性の向上に寄与するインサイトを提供するデータ分析プラットフォームで製造業のスマート化を支援するスタートアップ企業を紹
介します。
所在地 |
San Jose, California, US |
創設年 |
2013年 |
資金調達額累計 |
$10.7 M / Series A |
出資者 |
Mitsubishi Corporation, Plug and Play, Alchemist Accelerator, etc. |
URL |
https://litmus.io
|
工場内設備や機器のデータ収集、データ管理などを一元的に行うことのできるIIoT向けプラットフォームを提供。工場内のIoT機器やPLC、CNC、センサー等をシームレスに接続し、データをリアルタイムに集約、分析、管理、共有できる。また、機械学習を活用して得られたデータから生産性の向上や故障予測などのインサイトも提供する。
Image : Litmus Automation
HP
所在地 |
San Francisco, California, US |
創設年 |
2012年 |
資金調達額累計 |
$80.4 M / Series C |
出資者 |
Sony Innovation Fund, E.ON, GE Ventures, etc. |
URL |
https://sightmachine.com |
機械やセンサー、カメライメージ、バーコードスキャンデータなど工場内のあらゆる機器および設備からデータをクラウド上で収集、リアルタイムなモニタリングと独自アルゴリズムによる分析を実施。デジタルツインを構築してライン単位で製造現場を見える化し、スループット、品質、コスト、サステナビリティ、バリューチェーンなどに関する改善提案を行う。
3.メンテナンス&異常検知
機器の不調や故障にともなう生産ラインのダウンは、製造業にとって悪夢以外の何ものでもありません。IoT 技術による常時モニタリングとデータ
分析により、発生する前に異常を予知してアラートを出す技術へのニーズが高まっています。未然に対策を講ずることで、ダウンタイムの最小化に
つなげることができます。
所在地 |
Kfar Saba, Israel |
創設年 |
2015年 |
資金調達額累計 |
$28.1 M / Seed |
出資者 |
DIVEdigital, Grove Ventures, State of Mind Ventures, etc. |
URL |
https://3dsignals.com |
機械の調子が狂い始めると駆動音に微妙なノイズの変化が生じる。超音波センサーで機械音を拾いAIとディープラーニングによりその規則性を分析。駆動状態をモニタリングすることで異常が顕在化する前に予防措置を取ることができ、機械のダウンタイムを回避できる。なお、同社のAIのディープラーニングアルゴリズムは98%の正確さで機械の不調を予見できるという。
所在地 |
Pune, India |
創設年 |
2015年 |
資金調達額累計 |
$11.3 M / Seies B |
出資者 |
Global IoT Technology Ventures, THK, Mayfield Fund, Plug and Play,
etc. |
URL |
https://www.infinite-uptime.com/ |
IoTを活用しリアルタイムで機械の状態を監視。あらゆる回転機器の3軸振動や、回転数、ノイズ、温度情報などをリモートで収集。機械の緩みや、ずれ、偏心などの異常を早期に検出し、故障を予知、未然に防ぐとともに、ダウンタイムの短縮を実現する。装置は44mmx33mmとコンパクト。プラグ&プレイで簡単に取り付けられ、WiFiやBluetoothに接続し設定後、直ちにクラウドを介してデータを収集できる。
Image : Infinite Uptime
HP
4.ロボティクス
IoT や AI と並び、スマートファクトリーの実現に欠かせない重要な構成要素のひとつがロボティクス技術です。柔らかいものや壊れやすいものなど
対象物の属性を知覚し器用に対応したり、あるいは想定外の事態に対応できる柔軟さを備えた人との協働を前提にしたロボットの開発などが日進月
歩の勢いで進んでいます。
所在地 |
Emeryville, California, US |
創設年 |
2014年 |
資金調達額累計 |
$56.1 M / Series Unknown |
出資者 |
ACME Capital, Andreessen Horowitz, Eclipse Ventures, etc. |
URL |
https://symb.io |
製造現場を自動化する産業用ロボット向けの様々なアプリケーション開発、どのような工場や製造ラインにも柔軟に対応できるコントロールシステムで企業のファクトリー・オートメーションをサポート。ロボットの稼働データを機械学習を用いて解析、オペレーションの効率化に繋げることができる。
Image : Symbio Robotics
HP
所在地 |
Palo Alto, California, US |
創設年 |
2018年 |
資金調達額累計 |
$5.0 M / Seed |
出資者 |
Alumni Ventures Group, NGK SPARK PLUG CO, Fuji Corporation, etc. |
URL |
https://www.rios.ai |
AI搭載の触覚ロボット技術を開発、RaaSとして提供。分散化された演算技術と機械学習アルゴリズムによりセンサーから得られるデータを合成。知覚 (目) と触覚 (手)の協調を実現する触覚インテリジェンスを開発。現在はロボットアームへの応用が中心で、様々な硬さや形の対象物をAIが認識して設定の変更を加えることなくロボットが自律的に動作。同社技術を搭載したロボットの位置合わせの誤差は0.1mm以下と
いう高い精度を誇る。
5.品質管理
AI と画像認識技術を組み合わせた品質管理技術にも高いニーズがあります。本レポートでは、大量データを用いて AI の学習を行わなくとも、良品
の特徴を学習させることで、あるいは合成データを生成することで、少ないサンプル数でも高い精度で外観検査を実施できることをうたうスタート
アップ企業を取り上げました。
製造ラインにおける高精度の検品をカメラとAIで実現。マルチアングルに移動するカメラが対象物を3Dで可視化。人が把握しづらい瑕疵も発見できる。膨大な数のデータを準備せずとも、正常部品のモデルを提供するだけで検品を開始可能。疑わしいパーツを検知した際には、スタッフに通知。その場またはリモートで「可/不可」の判断をインプットすることで、学習を重ね、検査精度をより高めていくことができる。
Image : Elementary Robotics
HP
所在地 |
Palo Alto, California, US |
創設年 |
2017年 |
資金調達額累計 |
Undisclosed |
出資者 |
Intel Capital, Lenovo, AI Fund, Samsung Catalyst Fund, etc. |
URL |
https://landing.ai |
製造の全工程において利用可能な、ディープラーニングを用いたビジュアル・インスペクション技術を開発。モデルトレーニング用の合成データを生成する独自のデータツールにより、少ないサンプルで迅速かつ正確なラベリングが可能となる。欠陥品の定義をまとめた「デフェクトブック」と呼ばれる、何が正常で、何が欠陥に該当するのかを定義した仮想カタログを用いて、極めて高い精度で部品や製品の品質検査を行う。
6.3Dプリンティング
数年前までは製品のラピッド・プロトタイピング、あるいは現場で利用される工具の生産に活用される印象が強かった 3D プリンターですが、昨今
では最終品としての利用に耐えうる部品生産が可能であるとして、生産に 3D プリンターを活用しようという流れが活発化しています。品質保証や
認証の仕組みの整備も欠かせませんが、リードタイムやコストの削減、更には個別対応生産の実現につながるとして期待が高まっています。
所在地 |
Tel Aviv, Israel |
創設年 |
2016年 |
資金調達額累計 |
$4.0 M / Seed |
出資者 |
M12, Next Leap Ventures, i3 Equity Partners, Israel Innovation Authority, etc. |
URL |
https://www.nano-fabrica.com |
精密工学と積層造形技術 (Additive Manufacturing) を組み合わせ、難易度が極めて高かったミリ単位の極小部品を迅速かつ大量、低コストで製造できる特許取得の3Dプリンターを開発。精密工学に関しては、半導体製造に利用されるプリント技術と高度な光学技術を活用しており、たとえばミリ単位の精密部品を一晩で1,000個生産することができる。
所在地 |
Medford, Massachusetts, US |
創設年 |
2017年 |
資金調達額累計 |
$14.8 M / Series A |
出資者 |
3M Ventures, National Science Foundation, MassVentures, etc. |
URL |
https://inkbit3d.com |
マシンビジョンとAIを活用した3Dスキャンシステムによって、高い品質と精巧さで大量生産可能な3Dプリンターを開発するMITからのスピンアウト企業。素材ごとの特性を学習したAIが、造形物の積層シミュレーションから反りなどの発生を予測し、より正確な製造を行う。これにより伸縮率600%の非常に柔らかい素材から、170℃の耐熱性を持つ樹脂素材など、様々な素材を単独あるいは組み合わせて製造できる。
7.AR/VR&ウェアラブル
ヘッドセットにタスクやマニュアルを映し出したり、リモートから指示を送ったり、デザインやシミュレーションのプロセスに取り入れたり、ある
いはよりリアルに近い教育研修の実施というように、製造業でも AR / VR 技術の活用用途が広がっています。更に、不自然な姿勢で作業を行うこ
とが少なくないエンジニアなど、従業員の身体の負担軽減につながる外骨格スーツや、スキャナーの搭載されたグローブなど、多様なタイプのウェ
アラブル技術が生まれています。
所在地 |
Vancouver, Washington, US |
創設年 |
2016年 |
資金調達額累計 |
$118.6 M/ Series B |
出資者 |
JP Morgan Chase, Teradyne, Qualcomm Ventures, etc. |
URL |
https://realwear.com |
音声認識を取り入れたVRヘッドセットを開発。必要な単語を発するだけでコマンド操作が可能。スクロールやスワイプが不要のため、作業中に両手の自由を確保したまま安全に利用できる。最先端のノイズキャンセリング技術を採用しており、95dBの騒音環境でも作業員同士のやりとりや音声入力が可能。視線の先にAR映像を投影し、マニュアルを閲覧したり、付属カメラの映像を通してリモートで現場の状況を共有した
り、指示を送ったりすることができる。
所在地 |
Emeryville, California, US |
創設年 |
2012年 |
資金調達額累計 |
$24.0 M / Series B |
出資者 |
Wistron Corporation, National Science Foundation, etc. |
URL |
https://www.suitx.com |
ウェアラブル外骨格パワードスーツ「SuitX」を開発する、カリフォルニア大学バークレー校からのスピンアウトベンチャー。カーボン製の軽量パワードスーツで、現場作業員の動作をサポート。筋肉疲労を軽減し、怪我を予防すると同時に生産性向上を後押しする。背中 (backX)、肩 (shoulderX)、脚 (legX)、3つの外骨格モジュールで構成されており、用途に合わせて選択できる。
8.トレーサビリティ
リスク管理、品質管理、あるいは SDG の観点から、サプライチェーン全体を管理し、取引および品質情報を可視化する技術やサービスへの需要も
高まっています。本レポートでは取り上げていませんが、ここはブロックチェーン技術の応用が期待されている分野でもあります。ブロックチェー
ン技術を活用することで、川上から川下まで取引関連情報の透明化が進み、材料や商品の製造元の特定、偽造防止が容易になると言われています。
所在地 |
Boston, Massachusetts, US |
創設年 |
2018年 |
資金調達額累計 |
$12.3 M / Series A |
出資者 |
Airbus Ventures, Lockheed Martin Ventures, Kleiner Perkins, etc. |
URL |
https://dustidentity.com |
ナノレベルのダイヤモンドダストと高性能ポリマーを製品や部品の表面に薄く塗布。ポリマーが硬化する際、凝固したダイヤモンドダストはユニークかつランダムな文様を描くため、指紋のように唯一無二の識別子として利用することができる。この文様を独自開発のスキャン技術で読み取ることにより、対象物の真正性をリアルタイムに確認可能。複製は不可能で、コーティングを剥がそうとしたり、改竄を試みると、構造に変化が生じる。深海や人工衛星軌道上を含め環境に対する耐久性も高い。
所在地 |
Bellevue, Washington, US |
創設年 |
2016年 |
資金調達額累計 |
$20.7 M / Seed |
出資者 |
BMW i Ventures, Shasta Ventures, IPD Capital |
URL |
https://www.alitheon.com/ |
コンピュータビジョンとディープラーニングを利用し、目視で確認し得ない物体の表面特性を識別する製品のライフサイクル追跡ソフトウェア。同一の製品や部品であっても、それぞれ固有の表面特性がある。カメラで製品を撮影するだけで、個々の製品の表面特性を数式で表現し、瞬時にデジタルツインを生成。ローカルあるいは クラウドに保存された製品のユニークID (FeaturePrint) と照合することで、ライフサイクルのあらゆる段階において非侵襲で製品や部品の原産地や真正性を追跡できる。
※紹介している企業情報は、「Smart Factory Trend Report」制作当時のものです。
※本記事はTECHBLITZが配信した「Smart Factory Trend Report」をダイジェストで紹介したものです。レポートをご覧になりたい方はこちらまでお問い合わせください。