手首に着けるリストバンド型デバイスで血圧を「いつでも、どこでも、正確に」計測できるデバイスを開発するAktiia(本社:スイス・ヌーシャテル州)。世界の約14億人が高血圧だと言われてる現代社会だが、血圧測定は100年以上前に開発された腕帯(カフ)で測る手法が未だに採用されており、測定値の精度や継続的な測定が難しいことに課題がある。Aktiiaは光センサーと機械学習を組み合わせることで、血圧測定の世界にパラダイムシフトを起こそうとしている。同社CEOのRaghav Gupta氏に話を聞いた。

目次
高血圧は万病の元
巨大市場を見込むAktiia
光センサーと機械学習が起こす「パラダイムシフト」
超高齢化社会の日本進出は大きなチャンス

高血圧は万病の元

―Aktiiaは、手首に着けるリストバンド型の血圧計を開発していますね。このデバイスが必要な理由はどんなところにあるのですか。

 高血圧は、先進国共通の慢性疾患であるのにもかかわらず、実際に高血圧状態にある人のうち、半数ほどの人しかそれに気付いていないからです。

 高血圧患者数は世界で14億人程度だと言われており、腎臓病や心血管疾患、糖尿病、認知機能の低下など、あらゆる疾患の原因ともなり得ます。また、高血圧を原因とする疾患の治療にはお金もかかりますから、血圧コントロールは「予防医療」の文脈でも重要です。

Raghav Gupta
CEO
Princeton UniversityでOperations Research, Engineering & Management SystemsでBSEを取得後、Live365でCOOを務める。その後、Brightcoveに入社し、Vice Presidentに就任。その後、IntegrateやUnderscore VC、Butlrで幹部職を務めた後、2024年7月にAktiiaに入社、CEOに就任。

 先ほど、高血圧状態にある人の約半数は、自分が高血圧だと気付いていない、と言いました。これについて、最も大きな理由は「検査方法が悪い」ことです。

 誰もが経験したことがあるように、血圧計測は腕帯(カフ)で行います。ただ、この手法は1896年に発明されたもので、実は精度に問題があるのです。例えば、診療室でのストレスや診断時の体制などが測定値にダイレクトに影響します。さらに、血圧は「常に変化するもの」であり、継続的に追っていく必要があります。病院で一回測るだけで「高血圧かどうか」は実際のところ分からないのです。

 だからこそ、当社は従来型のカフが直面する問題を、一挙に解決するデバイスを解決しようとしているのです。そのことで、あらゆる病気の原因となりうる高血圧を自分でしっかり管理できる時代を作ろうとしているのです。

巨大市場を見込むAktiia

―具体的に、Aktiiaは従来型のカフとはどのような点において異なるのでしょうか。

 光センサーを血圧測定に利用しています。デバイスから光センサーを手首に送信し、得た結果を機械学習で分析します。これにより、正確な血圧を1日に20〜30回ほど測ることが可能です。さらに計測した血圧値は、アプリ上でいつでも閲覧できるため、1カ月ごとの血圧の変化なども確認できます。「自分が高血圧である」と認識している人のうち、約20%しか実際に血圧をコントロールできていないことを考えると、好きな時に自分の血圧値を測り、その経過も確認できることは有難いでしょう。

 Aktiiaは非常に大きな市場を見込んでいます。2021年に出荷を開始し、欧州市場ではCEマーク(EUの安全基準)にも適合しています。現在は、1型・2型糖尿病のインスリン使用患者に向けた持続血糖測定(CGM)という、血糖値を24時間常に計測する検査手法が産業に育ち、年間110億〜120億ドル規模になっていますが、Aktiiaが見込む市場規模はそれよりもはるかに大きいと考えています。

 なぜなら、糖尿病の患者数は高血圧の患者数の約4分の1であることに加えて、高血圧はより長期的な治療が必要ですし、糖尿病とは違い、処方箋は必要なく、基本的な生活習慣の改善が重要になるからです。実際に高血圧と診断された人以外にも、心臓病を抱える患者や特に慢性疾患に直面していないが健康意識の高いユーザーもAktiiaの顧客になる可能性が高いのです。

image: Aktiia

光センサーと機械学習が起こす「パラダイムシフト」

―19世紀に開発された基本技術をいまだに使っていることに驚きました。なぜ、これまでAktiiaのようなデバイスは存在しなかったのでしょうか。

 光センサーのような先端技術と機械学習が存在しなかったからでしょう。Aktiiaの創業者たちは、2004年にスイスの官民共同の非営利研究機関であるCSEMで基礎研究をスタートさせています。手首の信号はノイズが多いことから、動物モデルや人体を使って、多くの実験を行いました。光センサーが得た結果をクラウドに送信し、機械学習を用いることで、より正確な血圧値を測定できるようになったのです。血圧測定という技術にパラダイムシフトを起こそうとしているのがAktiiaです。

 当社のここ数年の年間複合成長率(Compound Annual Growth Rate)は、90%程度と非常に好調です。多くの消費者や企業から、Aktiiaを使いたいという強い要望をいただいています。私は2024年7月にCEOに入社したばかりですが、ここでの新たなチャレンジに心が躍っています。Aktiiaは、世界中の人々の血圧を正確に管理し、健康で長生きできる世界を本当につくるポテンシャルがある企業なのです。

image: Aktiia

image: Aktiia

超高齢化社会の日本進出は大きなチャンス

―日本市場に進出する考えはありますか?

 もちろんです。将来的に参入する市場リストに入っています。先ほど申し上げた通り、AktiiaはCEマークを取得しており、40以上の地域での販売が可能です。血圧測定は医学的に規制されている分野であり、新市場への進出は規制の問題をクリアしてからになります。

―日本市場をどのように見ていますか。

 人口構成の問題として、いわずとしれた超高齢化社会であり、Aktiiaに対する需要は確実にあると思います。日本は新テクノロジーの導入に非常に前向きですよね。

 日本企業とパートナーシップを組むとすると、興味のある業種は3つあります。まず、製薬会社。臨床試験の現場でAktiiaを使うことに興味を持っている企業ですね。次に、医療機関。高血圧の測定を正確なものにしたいと考える人たちや、コスト削減の関心が高い医療関係者と話がしてみたいですね。最後に、テック企業。遠隔モニタリングやウエルネス製品など、遠隔モニタリングなどの技術を開発している人たちと、われわれの技術を組み合わせるとどんな化学反応が起きるか、興味があります。

―彼らと提携する際、理想とするパートナーシップの形態はありますか。

 流通パートナーやジョイントベンチャーでしょうか。以前、私は日本企業と提携して市場に参入したことがあるのですが、他の地域とは異なり、パートナーシップが非常に重んじられます。そうした意味では、上記2つの形態が最も合理的だと感じます。



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