航空宇宙、資源探査、医薬開発、マーケティングなど、さまざまな分野で活用が始まっているビッグデータ。この領域で“革命”を起こしているのがFramed Dataだ。同社のビジネスは、スタートアップでも気軽にビッグデータを活用できる、ロー・コストかつハイ・パフォーマンスなデータ解析サービスの提供。名門シードアクセラレータのY Combinator出身、CEOのNguyen氏に独自サービスの背景や起業の経緯などを聞いた。

Thomson Nguyen
Framed Data
CEO
UCバークレー、ケンブリッジ大学で数学を専攻。シリコンバレーのスタートアップでデータサイエンティストとして勤務した後に、2013年にFramed Dataを設立し、CEOに就任。2014年のY Combinatorのインキュベーションプログラムに採択。

“未来”を予測するデータ解析ツール

―事業内容を教えてください。

 Framed Dataは“過去”のデータ分析だけでなく“未来”を予測できる企業向けユーザーデータの解析ツールを提供しているんだ。たとえば、サービスから退会しそうなユーザーを抽出することだってできる。その理由、時期の予測も可能。だから、顧客企業は未来の予測をもとに、退会を防ぐさまざまな施策、たとえばメールを送ったり、ソーシャルでアナウンスするといった高い効果が期待できる具体的な打ち手を繰り出せるってわけ。

 過去のデータを分析するサービスはこれまでにもあったけど、未来のデータを予測して、そのソリューションを導き出すサービスは世の中になかった。それを実現できるのは、いまのところFramed Dataだけなんだ。現在、世界で600社以上の企業が導入していて、日本でも10社以上が利用しているよ。

―どのような方法でユーザーの未来の行動を予測するのですか。

 データベースでもFacebookでもTwitterでもなんでもいいんだけど、まずできるだけ多くの情報源から大量の情報を集める。そして、生のデータはノイズだらけなのでクリーニングしたうえでパターン分析にかけて、見出されたパターンをもとに大規模な機械学習モデルを活用して未来を分析する。シンプルに言うと、こんな方法だよ。

人材の需給ギャップを技術で解消

―データサイエンスの領域ですね。

 イエス。いまシリコンバレーではデータサイエンスの領域がとてもホットで、データ解析の需要がすごく伸びている。たとえば、ある大手IT企業ではデータ解析を導入した結果、生産性が63%上昇して、売上が何十億円も向上したなんていう事例が話題になっていて、インパクトのあるビジネスに急成長しているんだよ。でも、そこには大きなボトルネックがあるんだ。

―どのような課題ですか。

 データサイエンティストの人口がすごく限られているっていうこと。データサイエンティストになるためには博士課程を修了するのが普通で、社会に出てくるまで時間がかかる。ビジネスの世界に入らないで、アカデミックに残る人だって少なくない。データサイエンティスト人口の自然増を待っているだけでは、人材の需給ギャップを短期間で解消するのは、絶対に不可能だよね。

 そこで、データ解析などのデータサイエンティストが行う仕事をソフトウェアで代替しようという野心的なサービスがシリコンバレーでいっぱい登場しているんだ。

まさに“ 価格破壊 ”

―Framed Dataもその1社というわけですね。

 そう。そのなかでFramed Dataの価値は、大企業だけではなく、スタートアップにも低コストでデータ解析サービスを提供していること。データサイエンティストを自社で雇えないけど大きな可能性を秘めているスタートアップが気軽に利用できるサービスを提供することにこそ、Framed Dataの意義があるってわけなんだ。

―利用料金体系を教えてください。

 もっともリーズナブルなプランで1ヵ月100ドル。標準的プランでも1ヵ月に500ドル。データサイエンティストというマンパワーではなく、ソフトウェアを使ってデータ解析をサービス提供しているから、低コストで利用できるんだ。データサイエンティストの年収の相場は15万ドルくらいなので、スタートアップには雇えないよね。

最初の顧客はイェール大学

―起業の経緯を聞かせてください。

 きっかけは、大学の同級生だったCTOのElliotと、同じスタートアップで再会したことなんだ。

 ぼくとElliotはUCバークレー(カリフォルニア大学バークレー校)の出身で、ぼくの専攻は数学、Elliotはコンピューターサイエンスだった。卒業後の進路は別々で、ElliotはMicrosoftに就職して、ぼくはケンブリッジ大学に進み、そこで博士号を取得したあとデータサイエンティストとしてスタートアップで働き始めたんだ。そして、Microsoftを辞めてその会社で働いていたElliotと再会したっていうわけ。そして2人で起業プランをあたため、ぼくたちのFramed Dataが誕生したんだ。

―なぜ創業事業にデータ解析を選んだのですか。

 ぼくたちがいたスタートアップでは自社が利用する目的でデータ解析ツールをつくっていた。だけど、それをつくるのにとても苦労してね。きっと他の企業でも同じように苦労しているに違いないと思い、2人でそれを解決するサービスをつくろうと考えたんだ。

 最初の顧客はイェール大学。図書館で借りた本をなくすのはどんな人か、予測してほしいという依頼だったね。

Google Venturesや中国のVCも投資

―2014年12月に200万ドルの資金調達に成功しましたね。その経緯を聞かせてください。

 最初にGoogle Venturesが投資をしたいと言ってくれて、その後に複数のベンチャーキャピタルからの出資が決まったんだ。有名なGoogle Venturesが投資を決めてくれたので、資金調達はすごくしやすかったね。調達した資金は人材採用などに使う予定だよ。

―グローバル進出についての方針を聞かせてください。

 アジア地域では、日本や中国への展開はもちろん考えている。中国のベンチャーキャピタルから資金調達しているし、日本の投資家もぼくたちのビジネスに興味をもってくれているよ。日本語に対応できるエンジニアの確保が難しいけどね。

 いまはまず米国のマーケットで成功させることが最優先。まず米国で成功して、その後にアジア展開などのグローバル進出をしていきたいね。



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